鉄道

「碓氷峠 廃線ウォーク」に見る、日本の観光地「勝ち筋」へのヒント

信越本線の横川駅から軽井沢駅のやや手前まで、約11.2キロの鉄道廃線を踏破する「碓氷峠 廃線ウォーク」。参加費はやや高額だが、普段立ち入れないトンネル内をガイド付きで探検できるなど付加価値が高く、体験型観光イベントの成功例だ。

森川 天喜

執筆者:森川 天喜

国内旅行ガイド

信越本線の横川駅(群馬県安中市)から軽井沢駅(長野県軽井沢町)のやや手前まで、約11.2キロの鉄道廃線を踏破する「碓氷峠 廃線ウォーク」。2024年夏に発生した台風による土砂崩れの影響で、横川駅-軽井沢駅間を通しで歩くイベントは、しばらく開催できない状況だったが、2025年3月末に再開された。
「碓氷峠 廃線ウォーク」の様子。普段は立ち入れない鉄道廃線のトンネル内を探検!

「碓氷峠 廃線ウォーク」の様子。普段は立ち入れない鉄道廃線のトンネル内を探検!

筆者は3月30日に開催されたイベントに参加。その様子をリポートする。

横川-軽井沢間、廃線に至った経緯

なぜ、横川-軽井沢間に鉄道の廃線区間が存在するのか。まずは、簡単にその歴史を紹介しよう。
 
江戸時代、江戸と上方(京都・大阪)を結ぶ街道は海沿いを行く東海道と、現在の群馬県・長野県・岐阜県の山間部を行く中山道だった。

明治時代になり、東京と京都・大阪を結ぶ鉄道の建設が計画されると、当初は中山道ルートが有力視され着工されたが、あまりにも地形が険しく工期がかかりすぎることから、東海道ルート(現・JR東海道本線)の建設が優先された。中山道ルート(現・JR高崎線・信越本線・篠ノ井線・中央本線経由)の鉄道建設は、それほど大変な事業だった。
 
この中山道ルートのうち、上野駅-高崎駅間(現・JR高崎線など)を建設したのは私鉄の日本鉄道であり、高崎駅までが開業したのが1884(明治17)年5月。翌年10月には官営鉄道によって高崎駅-横川駅間が開業した。
 
問題は、その先だった。軽井沢の手前には古くから交通の難所として知られた碓氷峠が存在する。ここに鉄道を通すならば大変な急坂を連続して登らなければならないが、鉄道は坂道に弱い。

そこで採用されたのが、ドイツの山岳鉄道で用いられていたアプト式という技術だ。簡単にいえば、レールとレールの間にノコギリのような歯が付いた補助レールを敷き、これと車輪側の歯車をかみ合わせることで滑り落ちないようにする。
明治時代に建設された信越本線(旧線)のレンガ造りのアーチ橋・碓氷第三橋梁。通称「めがね橋」(国道から撮影。イベントではこの場所には行きません)

明治時代に建設された信越本線(旧線)のレンガ造りのアーチ橋・碓氷第三橋梁(きょうりょう)。通称「めがね橋」(国道から撮影。イベントではこの場所には行きません)

このアプト式の採用により、横川駅-軽井沢駅間の最大66.7パーミル(1000メートル走る間に66.7メートル上昇)の急勾配を登ることが可能となり、1893(明治26)年4月に横川駅-軽井沢駅間が開業。これによって先に開業していた直江津駅-軽井沢駅間の鉄道と接続し、太平洋側と日本海側が鉄道で結ばれた。
 
しかし、戦後の高度経済成長期になり鉄道輸送に速達性が求められるようになると、アプト式では列車の速度が出せないため輸送上のボトルネックになった。そこで、1963(昭和38)年7月にはアプト式の旧線のやや北側を並行するように通常の鉄道方式(粘着式)の新線が開通。さらに3年後の1966(昭和41)年7月には旧線の一部を改修する形でもう1本新線ができ、複線化された。
 
そして、この区間ではEF63形という力のある補助機関車を重連(2両ペア)で連結し、下側(横川側)から列車を支えながら走行した。
 
このように大変な苦労の歴史がある横川駅-軽井沢駅間が廃止されたのは、1997(平成9)年10月の北陸新幹線(当初は長野駅が終点だったため長野行新幹線)の開業による。通常、新幹線が新規開業すると並行在来線は第三セクターに移管されるケースが多いが、信越本線においても並行在来線の長野県内区間は基本的に新設された「しなの鉄道」に移管された。
 
しかし、横川駅-軽井沢駅間は、そもそも利用者数がそこまで見込めないことや、山岳区間の維持には膨大な費用がかかることなどから、第三セクターに転換されることなく廃止されたのだ。

「碓氷峠 廃線ウォーク」リポート

「碓氷峠 廃線ウォーク」かつての鉄道橋の上から絶景を楽しむ

「碓氷峠 廃線ウォーク」かつての鉄道橋の上から絶景を楽しむ

ここからは「碓氷峠 廃線ウォーク」イベントの様子をリポートする。当日は11:00に横川に集合して出発ということだったので、少し早めに現地へ到着。横川駅に隣接し、数多くの機関車や客車が展示されている「碓氷峠鉄道文化むら」(9:00開園 入園料大人700円)を見学することにした。
 
「碓氷峠鉄道文化むら」には、前述したEF63形電気機関車が動態保存されており、事前予約すれば運転体験することもできる。 
信越本線の廃線を利用して運行されているトロッコ列車

信越本線の廃線を利用して運行されているトロッコ列車

さて通常、廃線ウォーク参加者は横川から歩いて登りはじめるのだが、少しだけ楽をすることもできる。信越本線の廃線を利用して運行されているトロッコ列車(鉄道文化むらの園内施設扱い 片道運賃700円)に乗車すれば、およそ2.6キロ先の「とうげのゆ」駅まで、車窓を楽しみながら、のんびり移動できるのだ。
 
トロッコ列車を降りたら、早速昼食休憩となる。かつての横川駅の名物駅弁「峠の釜めし」(弁当代はイベント参加費に含まれる)をいただく。学生時代に鉄道で新潟へ向かう途中、列車の車内で食べた味が懐かしく思い出される。 
峠の釜めし

峠の釜めし

昼食を食べ終え、13:00にトロッコ列車の「とうげのゆ」駅に集合。ここから先がイベントの本番だ。数々のトンネルを抜けるので、ヘルメットと懐中電灯を装着する(レンタルあり)。そして、ガイド役のスタッフに先導され、いよいよ冒険の旅へと出発する。
 
なお、今回のイベントで歩いたのは信越本線(新線)の下り線(軽井沢・長野・新潟方面)の線路だが、軽井沢までずっと上り坂が続く。逆に軽井沢を出発し、横川まで上り線(高崎・東京方面)を歩くイベント時はずっと下り坂を歩くことになる。紛らわしいので注意してほしい。
 
出発して間もなく、最初のトンネルの入口が現われるが、その手前に「63」と書かれた勾配標が設置されている。横川駅-軽井沢駅間は、国鉄線の最急勾配の66.7パーミルが存在したことが広く知られているが、じつは「66.7パーミルが存在するのは上り線だけだった」というガイドの話は、意外と知られていないことであり興味深い(下り線の最急勾配は66.4パーミル)。
上り線側にある「66.7」パーミルの勾配標。現在設置されているのはレプリカ

上り線側にある「66.7」パーミルの勾配標。現在設置されているのはレプリカ

トンネル内では、懐中電灯の明かりを頼りに、枕木や障害物につまずかないよう、足下に注意しながら進む。横川から軽井沢までの間に、下り線は長・短合わせ全部で18ものトンネルが存在する(上り線は11)。ちなみにトンネル内の信号機は、イベントのためにわざわざバッテリーを用意して点灯させているらしい。現役当時の雰囲気を出すための、きめ細やかな演出がうれしい。
「碓氷峠 廃線ウォーク」トンネル内

「碓氷峠 廃線ウォーク」トンネル内

観光地の「勝ち筋」のヒントが見える

軽井沢に近づくと3月末だというのに雪が舞いはじめ、軽井沢のすぐ手前、最後のトンネル内には群馬県と長野県の県境が示されていた。まさに「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」である。 軽井沢に到着したのは、17:20頃だった。
トンネルの中には群馬県と長野県の県境が示されていた

トンネルの中には群馬県と長野県の県境が示されていた

あまり詳細を書きすぎると、これから参加する人の興味をそぐことになるので、イベントの概要をお伝えするにとどめたが、このイベントの最大の面白さは、トンネルや橋梁(きょうりょう)など普段は立ち入ることができない歴史的な遺構に立ち入ることができることだ。

さらにガイドの詳しい話を聞き、質問も自由にできる。参加費は1人8200円と、一般的な感覚からするとやや高額とも思われるが、付加価値を考えれば、それに見合う金額である。
 
思うに、今まで日本の観光地は、観光資源をバナナのたたき売りのような値段で公開してきたが、そろそろ外から見た価値を再定義し、戦略的に値付けし直すタイミングに来ていると思う。「碓氷峠 廃線ウォーク」は、その意味で体験型観光イベントの成功事例ということができよう。

■碓氷峠 廃線ウォーク
開催時期:通年開催(開催日は「廃線ウォーク」ホームページに掲載)
問い合わせ先:安中市観光機構

■編集部より
本記事の執筆者、森川天喜氏の著書『かながわ鉄道廃線紀行』(神奈川新聞社刊)は、横浜・川崎の市電やドリームランドモノレール、臨港貨物線など神奈川県内の11の鉄道廃線を紹介。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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