食と睡眠は自己完結できるもの。性欲だけは自己完結する場合もあるものの、基本的に他者と共に完結するコミュニケーション型のものです。生殖目的の場合、自己完結では果たせないので必ず2人で行為に挑むことになります。
この点が、食・睡眠と違う点ですね。その上、ややこしいことに、性欲は生殖目的とは別の要素も含みます。
例えば、行為によって愛が深まるとか、承認欲求が満たされるとか、幸せを感じる脳内伝達物質が出るとか、血流がよくなって健康になるとか、最近はフェムテックやフェムケアのジャンルが加わり、女性の場合は膣の加齢スピードを制御するとか。コミュニケーション型性欲発散の効能を列挙すれば、抽象的なことから健康に至るまで無限に並びます。この目的の捉え方が人によってさまざまなため、”セックスレス問題”が生まれると感じています。
個々の価値観によってはマイナス要因も生まれます。「めんどくさいんで子どもができたら卒業」「若い人がするもの。40過ぎたらするもんじゃない」「セックスレスでも仲良し夫婦」「夜の営みは家に持ち込まない」「夫婦は家族。営みは外で対価を払ってするもの」などなど、多様な意見が出ることになります。
性欲を置き去りにしても死にませんから。
食欲と睡眠欲とは微妙に違う領域にいるのが性欲なのですね。実際、40代以降の男女からは、ない方が楽ちんという声が多数挙がっています。
<目次>
妻とは無理。その理由は……
夫婦のセックスレスには、「夫側の拒否」と「妻側の拒否」の2通りがあります。「男性はいつでもしたいものだ」と昭和の価値観で紋切り型にされることが多い男性の性欲。しかし、「夫側の拒否」に戸惑う妻が少なくありません。
年齢と共に性欲は減少します。妻との関係のマンネリ化という要因もありますし、妻の外見や態度の変化も性欲減退のフックになります。男性の性欲は、繊細なものなのです。
そこで今回は、「なぜ夫から拒否されるのかが分からない」という妻の皆さんに向けて、私の主宰する恋人・夫婦仲相談所に寄せられた相談の中から、40代男性の声に絞って「妻とは無理な理由」を紹介してみましょう。
「愛情はもうない」ユウダイさん(仮名・41歳)の場合<レス歴1年>
「最近は女性に対して、容姿や体型のことをやゆしたりするのはNGというのが常識になってきましたが、男性に対しては、“容姿いじり”が野放しになっている傾向がないですか? 少なくとも、僕の妻やその周囲ではそうですね」と語るユウダイさん。彼の悩みは頭髪。いわゆるAGA(男性ホルモン型脱毛症「男性型脱毛症」)に悩んでいます。
「30代なかばで結婚したころは全然問題なかったのですが、40歳になってから、仕事のストレスもあって急激に抜け毛が進行してきました。会社の同僚や友達など、男同士の中で薄毛をいじられることもあります。でも『お前を見ていると、俺も将来が不安だよー』という感じで、比較的マイルド。頭髪のことは男性なら他人事ではないですから、いじりにも優しさがあるんです。
でも女性からの頭髪いじりは結構辛辣(しんらつ)です。妻からは『もうやだ。一緒に歩きたくないー』とか、『鏡見てる? マジでやばくない?』とか、えげつない言い方をされます。
妻の影響で小学生の娘も『ハゲオヤジ』とか『ピカチュウ(前頭部に毛がなくてピカってるから)』とか、僕のことを呼びます。妻はそれを叱るどころか『アヤちゃん、それヤバイって……』とゲラゲラ笑っています。
妻や娘は軽い気持ちでいじっているのかもしれませんが、頭髪がコンプレックスな僕は、全然笑えません。一度、『俺だって傷つくんだから、ハゲハゲ言わないでくれる?』とやんわりと妻に言い返してみたのですが、『だって、ホントにハゲてるんだもん。事実は素直に受け止めなきゃ』と、笑いながら言われました」
親しき中にも礼儀あり。夫婦だから何を言ってもいいということはありません。ユウダイさんは、このような妻の態度をきっかけに、だんだん妻と会話をすることが嫌になってきたそうです。
「夫婦の愛情って、時間と共に自然と薄まっていくじゃないですか。それが、妻の心ない言動で大幅に加速した感じがしますね。以前は気にならなかった、妻の言い方がキツい点や、周りの配慮に欠ける行動などが、いちいち気になるようになりました。
もちろん娘もいますし、これだけで離婚したいとまでは思わないですが、愛情は確実になくなりました。妻の方から『そういえば、最近全然してないよね』などと言ってくることもありますが、残念ながら妻とはもうできません。男は、自分をこけにする女性とはしたくないものだと思いますよ」
「”受精セックス“は無理」カズアキさん(仮名・45歳)の場合<レス歴3年>
1人目の子どもができた後はレスだというカズアキさん。レスの原因は「セックスに対するワクワクがなくなったから」だそうです。「そもそも、1人目の子どもを作るのが、ホントに大変だったんです。結婚して3年ぐらい普通にエッチしてもできなくて、そのうち妻が『35歳だから早く産まないと』と焦り出しました。それからは、排卵日をきっちり計算し、その日はとにかく何が何でもヤル。そして行為の最中にも『妊娠しやすい体位にして』『奥まで入れてしっかり出して』といろいろリクエストがありました。萎えますよ、まじで。
さらに妻からは、『排卵日に精子の質が最も高まるように、その前の自慰の回数を調整しておいて』という要求もありました。まあ、その当時は体力も精力もあったし、僕も子どもは欲しかったので、言われた通りお役割は果たしました。
でも本音は、この”受精セックス“で、妻とのエッチのワクワク感が減った感は否めません。どうしても義務感が先に立って、妻に色気を感じたり、行為の前のエロチックな盛り上がりを楽しんだりすることがなくなりました」
そして無事に息子が生まれた後、今度は一転して、「もう2人目は要らないから、ちゃんと避妊して」と妻に言われるようになったそうです。
息子さんは難産で、カズアキさんの妻も大変な思いをしたそうですが、「奥にしっかり出して!」から180度変わって「ちゃんとゴムつけて」ですから、カズアキさんも気の毒な気がします。
「本当なら、”子作り”という目的から解放されて、やっと二人で楽しむエッチができると思っていたのですが、妻は相変わらず”要求“ばかりなんです。
『まずは肩と腰をマッサージして』『もっと優しく触って』『もっといっぱい舌を使って』『もっと気持ちよくさせて』とか……。
セックスは二人で楽しむものであるはずなのに、こちらが一方的に”おもてなし”する側で、妻はただ寝ているだけ。『女性は楽しませてもらって当然』って顔をしています。妻には僕を気持ちよくさせようなんて気持ちは一ミリもありません。
こんなエッチをするぐらいなら、AVでも見ながら自分でした方がはるかにラクで楽しい。だからもう3年ほど、妻から誘われてもご遠慮申し上げています。多分今後もずっとだと思います」
女性としての魅力より重要なことは
多くの妻が、夫に拒否される原因を「自分に女性としての魅力・色気がないからだ」と考えます。しかし、男性が妻としたくなくなる理由はエロスだけではありません。「女性としての魅力」以前に「ひととしての魅力はあるだろうか」という点に立ち返り、夫とのコミュニケーションを今一度見直してみることもよいかもしれません。知らず知らずマウントをとっている。横柄な物言いをしている。そして「セックスさせてやってる」という捉え方をしてはいないでしょうか。
以前、『モンスターワイフ 幸せなふりはもうしない』という本を書きました。営みを強要する妻、ダメ出しをする妻、回数コントロールする妻、ゴミ箱にあるティッシュの匂いを嗅ぐ妻、自分のボディの手入れを怠る妻、してくれないと泣く妻……。モンスターワイフは半永久的にセックスレスになります。