ある親は、難関校に合格させる神様のように崇められている受験塾講師を自分の娘につけるためにあらゆる手を使う。ある親は、窓があると気が散るからと子どもの勉強部屋から窓を取り除く。それもこれも、「子どものため」だ。そして子どもは追いつめられていく。
多かれ少なかれ、他者から見ると、子どものためと言いながら子どもを追いつめているという実態があるのかもしれない。
「スカイキャッスル」に5年前の自分が重なる
「なんとなく気になってドラマを観たんですが、かつての自分を見るようで途中でやめてしまいました」そういうのはカヨさん(48歳)だ。彼女は5年前、ひとり娘を中学受験させるために必死だった。
「娘が産まれたときから中学受験を意識していました。小学校2年生から具体的に準備を始め、4年生からは塾へ。塾のない日は家庭教師をつけた。家庭教師も3回くらい変えましたよ。娘により高い意識を植えつけてくれる人でないとダメだと思っていたので」
ある意味、娘を「洗脳」する必要があったとカヨさんは言う。だがもちろん、それはすべて
「娘のため」だった。いい学校へ行き、高い能力をもった専門職につき、地位も名誉も手に入れられる「選ばれた人」になってほしいという思いからだ。
「今、苦労しておけば大人になってから苦労しなくて済む。幸い、夫には資力もありました。私もそれなりに学歴がある。ただ、私には今ひとつ能力が足りなかった。大手企業に就職したんですが、出世街道でトップになれなかったんです。
トップになれないくらいなら、子どもに託そう。そう思ってお見合いで夫を選んだ。ふたりで力を合わせれば、娘に夢を託せる。そしてそれがなにより娘の幸せだと思い込んでいました」
受験勉強を投げ出そうとした娘に土下座させた
6年生になったころ、娘が心折れそうになったことがある。受験なんてどうでもいい、友だちと遊びたいと言ったのだ。娘が産まれてからの11年、自分の努力は何だったのだろうとカヨさんは激怒した。「それならもう、この家には帰ってこなくていいと娘を放り出しました。その日、娘は塾をサボったようですが、実際には友だちとうまく遊べなかった。それまで遊んでいなかったから、仲間に入れてもらっても遊び方がわからなかったみたいです。結局、土下座して謝らせ、翌日からはさらに受験勉強をさせました」
支配したかったわけではないとカヨさんは言う。娘のためなんだ、と。そのとき娘がどう感じていたかには気持ちが追いついていない。
>娘はどんどん追い詰められていった……