居酒屋のカウンター席でテレビの野球中継を眺めている人、定食屋のサイドメニューをつまみにビールを飲む人、ネカフェで漫画を読みふける人、ファストフード店でスマホをいじる人、個室DVD(映像ソフトを借りて、個室で鑑賞するための店)に足早に入っていく人。そんな、おひとりさまサラリーマン、略して「おひとリーマン」(筆者命名)が街中で目につきます。
筆者がよく観察に出向くのは新橋駅、五反田駅付近です。昔から“男性サラリーマンの憩いの街”というイメージがあるからです。ネカフェや居酒屋には詳しくなりました。
「おひとリーマン」が夜の街を漂う理由
おひとリーマンが夜の街にいるのは、「飲むこと」や「食事をとること」「遊ぶこと」だけが目的ではありません。彼らが夜の街にいる理由は「家に帰りたくないから」。「なぜ家に帰りたくないのか?」と彼らに聞くと、答えは大きく2つに分かれます。
●理由1「家事・育児をやりたくないから」
「早く帰った方が夕飯を作ることになっているので、できるだけ妻より遅く帰りたい」
「疲れているのに子どものお風呂担当はやりたくないから、子どもが寝た後に帰るようにしている」
●理由2「家の中に居場所がない」
「家に帰っても自分の部屋もなく、リビングでは子どもたちが騒がしいため寛げない」
「家だと妻が色々話しかけてきてスマホを見る隙もない。自分の時間が持てない」
おひとリーマンはこうして、自宅のさまざまな「面倒なこと」を数時間だけでも先送りすべく、夜の街を漂っているようです。
「おひとリーママ」も叫ぶ、私だって!!!
「家に帰りたくない」のは働く妻も同じようです。以前、筆者が書いたおひとリーマンに関する記事のコメント欄には、「私だって家に帰りたくない」という「おひとリーママ」たちのコメントがずらりと並びました。「私だって帰りたくないけど、私が帰らなかったら子どもを迎えに行って夕飯を作って、宿題を見て、お風呂に入れて寝かせるのは誰がやるの?」
「『家事や育児をやりたくない』っていうわがままが成立するのは、それらを代わりにやってくれている妻がいるからってことがわかってない」
「私だってフルタイムで働いているから疲れてる。なんで男性だけ『疲れているから』って開き直れるの?」
妻だって帰りたくない。でも「帰らなきゃいけないから」という責任感から家に帰っている様子が見て取れます。
だからこそ、「帰りたくないから帰ってこない」という夫に向ける目は厳しく、少しでも遅く帰ってきた夫にはきつい言葉を投げ、夫はそれで余計に家に帰りたくなくなり……という悪循環が生まれてしまうのです。
家を「帰りたい場所」にする方法はある?
妻も夫も「家に帰りたくない」と思うほど、忙しく、疲れており、家の中にやらなければならないことが多いのだとしたら、どこかを変えないと、家が「帰りたい場所」にはなりません。簡単に変えられることのひとつが、「家事を楽にする」ことです。
特に食事の負担を減らすことは大きな負荷の削減につながります。手作りをやめてお惣菜やお弁当を買ってくる、ウーバーなどのデリバリーサービスを利用するなどの方法もありますが、そもそもの「夕食」の固定概念を変えてみるのはどうでしょうか?
ドイツには「カルテスエッセン」という文化があります。ドイツ語で「冷たい食事」を意味し、ドイツの夕食はパンやチーズ、ハムなど加熱しないで食べられるものでシンプルに済ませます。
アメリカの家庭でも夕食はピザやパスタなど1品だけであることは普通です。美食の国といわれるフランスでも同様に、平日の夕食はテイクアウトなども利用した1、2品と質素です。
「1日30品目を目標に、主食・主菜・副菜をそえて、もちろん手作りで」という日本式ができれば素晴らしいのかもしれませんが、家事の負担が夫婦の「帰宅拒否」の原因のひとつになっているのだとしたら、その負担を取り除くように、根本から意識改革をしてみてはいかがでしょう。
「完璧をめざす」のをやめてみる
洗濯も掃除もできるだけ自動化。さらに、完璧をめざさないことで、負担を減らすことが可能です。そして自動化などで浮いた時間を夫婦それぞれが「自分のしたいこと」に向ければ、家の中で気持ちのゆとりができます。するとパートナーにも少しだけ優しくなれます。
子育ても、ネット情報をインプットしすぎると、あれもこれもとToDoが多くなりがちです。しかし、大切なことは何かを見極めて優先順位をつけて取り組み、できなかったことはあっさり手放してみることも大事です。
家は、本来、家族全員が最も自分らしくのびのびと過ごせる場所であるはず。
「家に帰りたくない」と感じるおひとリーマン&おひとリーママは、家事育児のToDoリストを見直して、タスクを削減してみましょう。
……と、ここまで書きましたが、帰りたくない理由が「妻(あるいは夫)の圧」の場合は夫婦関係を根本から見直さなければ近い将来、激しい言い合いが勃発する可能性があります。
「私たちの愛はどこへ飛んで行ってしまったのか」について話し合う時間を、ほんの数時間でもいいですから駅前の居酒屋で取ってください。先延ばしにせず、今が勝負です。