私と母の生活費は母の年金ですべてまかなっています
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は、認知症のお母さまを介護中でパートで働く今年60歳になる女性です。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。認知症の母親を介護中です
おせいさん
女性/パート・アルバイト/59歳
東海地区/持ち家(マンション)
■家族構成
母親(90歳)
■相談内容
今年60歳になります。現在90歳の母と共に生活しています(父はすでに他界)。結婚歴がなく子どももおらず、兄弟姉妹もない、いわゆる完全なおひとり様です。
大学卒業以来、約30年正社員で働いてきましたが、8年前に母が認知症となり、介護離職しました。その後も介護のかたわらパートで働きましたが、現在は週6時間程度しか働けず、収入は平均月7万円程度です。
2人の生活費は母の年金(月30万円。父の遺族年金等を含む)ですべてまかなっています。
ちなみに昨年一年間の支出は、食費・医療費など(月15万円×12)、管理費(2軒分で39万円)、電気、ガス、水道(25万円)、通信費(8万円)、SECOM(6万円)、固定資産税(14万円)、自動車税(4万円)、国民健康保険(3万円)、国民年金(28万円)、カード払い(130万円)、デイサービス(15万円)などで約100万円の赤字(母の預金から補てん)でした。
よって、現在のところ、自己資金からの出費は自分用のみです。
母が存命の間は今の生活を続ける予定です(私の収入は減少傾向でいずれゼロに)。母の今後に大きな出費がある時は、母名義の預金でまかなう予定です。
自宅は築40年弱の持家マンション(ローンなし、リフォーム済)が2軒あり、売却価格は現時点で2軒合わせても1500万~2000万円程度でしょうか。不便な場所なので駅近など便利なところへ転居も考えましたが、日当たりも良く、2軒が隣同士で使い勝手がいいので、今すぐには売却は考えていません。
今年、車を買い換えたので、今後の大きな支出は家電の買い替え・家のリフォーム・医療費あたりでしょうか。ただ、それも母が存命の間は自己資金からの出費はありません。旅行や趣味の出費はないと思います。
ご相談①
今、保険会社から先進医療や介護の保険(1~1.5万円/月程度)の加入を勧められていますが、必要でしょうか? 今から支払いを始めるより、自己資金で何とかできないかと思うのですが。将来自分で生活できなくなれば自宅2軒を処分して施設入居を考えていますが、できるだけ今の自宅に住みたいと思っています。
また銀行からは、現在、定期預金のみなのでNISAなどの活用を勧められていますが、多少のリスク覚悟で始めた方がいいでしょうか? 私の後を託す人がいないので、保険も投資も必要性が見えず、判断できずにいます。
ご相談②
今後の私の生活で発生する支払いの一つに、おひとり様であるが故の支出があると思います(身元保証や後見人、死後事務委託等に係る費用)。これらはどの程度必要で、どれくらいの予算を見込めばいいでしょうか?
取り留めなく思いつくままにお話しして、申し訳ございません。
60歳になり個人年金を受給するタイミングで改めて見直し、今後を考えるようになりました。
「遺す人がいない」イコール「相談できる人がいない」状況です。母が亡くなり一人になっても基本の出費は今とあまり変わらないと考え、年400万円で計画しています。母の年金がなくなる時点が不明のため、アドバイスが難しいかと思いますが、何卒よろしくお願いいたします。
■家計収支データ ■家計収支データ補足
(1)収入の使い道について
自分の収入は、いわゆるお小遣いで、身支度(ヘアーカットや化粧品)や被服購入、ガソリン代などです。介護中で自由時間がないので外食や趣味への支出はありません。月平均7万円を使い切っているわけではなく、昨年の実績では総収入約70万円で黒字でした。
(2)2軒のマンションについて
名義はどちらも私です。
(3)保険、個人年金、公的年金について
今年から個人年金を受け取ります。個人年金は1口平均年80万円×3口×10年=2400万円(税引き前)です。公的年金は65歳開始で12万円/月の見込みです。遺す人がいないので今は繰り下げは考えていません。保険関係は医療保険のみで、死亡保障なし入院手術等特約のみで、65歳から95歳まで約7000円/月の支払いが発生します(65歳までは支払い済み)。
(4)将来的な生活費について
ひとりになった場合、年間400万円を見込んでいますが、この点は今後の生活を考えるうえで、私も悩んだところです(年間400万円は減らすべきか)。
現在の支出のうち、管理費・固定資産税などは一人になっても変わらないですし、光熱費もさほど減らないと思います。食費は自分で料理する習慣がないうえに、好きなものを食べることは譲れないので一人になっても半分になることはないと思います。これまで散財して後悔しておりますので、物品購入を抑え、小さい生活を送りたいと思っています。
今は介護中で時間がないので趣味や旅行に支出はありません。この点は性格上一人になっても同じだと思います。今はやりたいことが思いつかず、逆にどう暮らそうかと憂慮しているところです。
相続税対策として、今年、母の預金から自宅(私の終の棲家として)一軒のリフォームと大型家電の買い替えを計画しています。
■FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1 保険もNISAも必要なし。増やすより計画的に使い切ること
アドバイス2 いずれは必要な手続きであっても、今、最優先で決めることではない
アドバイス3 年400万円の生活費でも問題なし。生活はシンプルに
アドバイス1 保険もNISAも必要なし。増やすより計画的に使い切ること
まず、ご相談①の保険加入やNISAでの投資の必要性についてお答えします。結論としては、どちらも不要です。十分な金融資産がありますので、病気・ケガなどの医療費は自己資金でまかなえます。NISAについては、リスクをとって増やす必要はありません。今後、インフレ傾向で物価高になったとしても、十分な生活を送ることができます。それよりも、ご自身も書かれているように、財産を遺す人がいないのであれば、計画的にお金を使い切ることです。最終的には国庫に入ってしまうお金です。贅沢をしてお金を使うということではなく、ご自身の楽しみのために使ってもいいですし、慈善団体や福祉関係の団体など、賛同できるところがあれば、寄付を行ってもいいでしょう。
いずれにしても、多くの金融資産があれば、あれこれと勧誘は続くと思われます。くれぐれも甘言に惑わされることなく、現在の生活ペースを維持されてください。
アドバイス2 いずれは必要な手続きであっても、今、最優先で決めることではない
ご相談②の死亡後の整理に関することについて、お答えします。万一のときのことを頼める友人、知人がいればいいのですが、財産も含めてとなると、弁護士など法律の専門家に後見人を依頼することになるでしょう。民間でも終活のアドバイスや最期の手続きをしてくれる会社があります。いずれは、何かしらの契約などが必要にはなると思いますが、今、最優先で決めることではないでしょう。今後、どのように生活していくかにもよりますが、資産の金額次第で契約の内容は変わりますので、どのような形が自分に合っているのか調べておく程度でいいのではないでしょうか?
死亡後の手続き自体は、お住まいの自治体に聞いておくといいでしょう。身寄りのない人が亡くなった場合は、法律に基づき、警察または病院から自治体に連絡が行き、自治体が対応することになっています。もし、高齢者施設に入居されていれば、施設から自治体へ連絡が行くことになります。
先々のことが心配なのは理解できますが、現段階であれこれ悩むよりも、健康で楽しく生活することを優先なさってもいいのではないでしょうか?
アドバイス3 年400万円の生活費でも問題なし。生活はシンプルに
マネープランとしては、生涯、金銭的に困ることはありませんので、特にアドバイスすることもありませんが、年400万円を生活費とするのか、生活費自体は月30万円(現在の生活費)で年間360万円、これに年100万円程度を楽しみのために自由に使う、という考え方でもいいでしょう。現在の金融資産と個人年金を合計すると1億2800万円あります。年400万円であれば32年で使い切ります。65歳から公的年金の受給もありますし、歳を重ねれば、生活費も自然と下がっていきますので、金融資産を使い切ることはないかもしれません。
相続に際しても、基礎控除がありますので、非課税、もしくは少額の相続税で済むでしょう。自宅をリフォームするのもいいでしょう。相続での心配もありませんので、今後の自分の生活に必要なことを今のうちにやっておかれたらいいと思います。
マンションについては、1軒は売却し、生活をコンパクトにすることをおすすめします。固定資産税もかかりますし、管理の気苦労も続きます。まずは、こうした身近なところから片付けをし、シンプルに生活すれば、何の問題もないでしょう。
相談者「おせい」さんから寄せられた感想
これまで深野康彦先生の各種アドバイスを拝見し、いつも丁寧で相談者に寄り添うアドバイスになるほどと感銘を受け、自分の現状を見直し、今後のことを考えるきっかけとなりました。この度、その深野康彦先生にアドバイスいただける機会をいただき、感謝しております。“何も問題なし”と言っていただけたことに単純に安堵しました。これからは自分らしく、健康で楽しく生きることをモットーに計画を立てこつこつ貯めたお金を大切に使っていきたいと思います。
保険や投資、死後の問題等、もやもやしていたことにも的確にアドバイスをいただき、優しいお言葉で背中を押していただけたことに深く感謝申し上げます。
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金まわり全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。著作に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/伊藤加奈子