ライフキャリア

「キャリアブレイク」の価値とは? 欧米では一般的な“あえての無職期間”の活用を経験者視点で解説

転職する際は次なる職場を決めてから退職することが一般的と考えられているが、あえて次の道を決めずに離職期間を持つ転職者も多い。今回はキャリアにおける“積極的空白期間”である「キャリアブレイク」の価値について解説する。

小寺 良二

執筆者:小寺 良二

ライフキャリアガイド

転職するときは次を決めてから辞めるか、決めずに辞めるか

転職するときは次を決めてから辞めるか、決めずに辞めるか

転職をする際に次なる職場を決めてから今の仕事を辞めるか、逆にあえて転職先を決めずにまず退職するかは、悩ましい問題である。

一般的には在職中に転職活動をして、次が決まってから今の職場を辞めるのが転職のプロセスとしては王道といえる。経済的なリスクもないし、履歴書の空白期間を作らずに済むので、社会人のキャリア形成としてはその方が良いとの考えは多いかもしれない。

しかし実際には次を決めずに、あえて「離職期間」を持つ人も多い。

厚生労働省の調査によると、転職した人の中で「離職期間なし」(次を決めてから退職した人)は全体の26.1%で、転職者全体の73.9%の人は、大なり小なりキャリアに離職期間をつくっている(厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」)。

離職期間を持つ理由は人によってさまざまだと思うが、最近自身の新たなキャリア形成のために意図的に仕事をしない「キャリアブレイク」を持つ人も増えている。
 

欧米では学生も社会人も「積極的空白期間」を大切にしている

日本人は世界的に見ると「休み下手」なのかもしれない。

実は欧米では学生、社会人問わず「空白期間」を持つことに寛容だ。高校を卒業してから大学に入学するまでの期間を「ギャップイヤー」、長期勤続者が取れる長期休暇のことを「サバティカル休暇」と呼び、社会的にも認知されている。

日本では若者が大学に入らずに翌年の入試に向けて受験勉強をしていれば「浪人生」、就職しなければ「ニート」などの用語があるが、呼ばれる側は決してポジティブには受け取れない言葉かもしれない。

それに対して「ギャップイヤー」や「サバティカル休暇」は若者や社会人に対して与えられている権利のような感覚で、それを当事者は意図的に活用しようとする空気がある

実際に大学に入る前のギャップイヤーの期間を使って旅をするなど、在学中にはできない体験をする学生がいたり、サバティカル休暇を活用して在職中では難しい留学に行ったり、子どもがいる人は育休の代わりにしたりする。

このように海外では「長期休暇を積極的に取得し活用すること」が一般的であり、転職時もあえて次なる職場を決めずに離職する「キャリアブレイク」をとる人もいる。

また実は日本でも、教員に数年に一度サバティカル休暇を与える大学は多い。筆者が毎年教員研修に行く都内の私立大学でも「◯◯先生は今年サバティカル休暇で、家族でロンドンに留学されています」と言われ、羨ましいと感じたことがある。
 

自分のキャリアをフラットに見直すことの大切さと難しさ

では「キャリアブレイク」の価値はなんなのだろうか?

「キャリアブレイク」の「ブレイク」は“休息”を意味する言葉なので、まず何よりも「精神的、肉体的に一休みする」ということは最大の価値であろう。

企業で働いているときはその日々の業務や労働時間が自身にとって「当たり前」になってしまう。すると「働き過ぎ」の状態や無意識に受けている「ストレス」にも気付かないことが多い。人生100年時代となり、労働生活が長くなる時代だからこそ、定期的に自分自身に積極的休養を与えることは実は今まで以上に重要なアクションになってくるであろう。

そしてその積極的な休養期間が、自身のキャリアに対してもフラットな視点を持たせてくれる。仕事をしているとどうしてもこの「自分のキャリアをフラットに見直す」時間や視点を持つことが難しい。

次なる道を模索するにしても、まず自分の経験値に大いに影響を受ける。多くの人は今までやってきた業務範囲や、所属していた業界の中で自分の次なるキャリアの道を選びがちだ。40代以上で、その分野や業界での経験や専門知識がある程度高いレベルにあり、その道のスペシャリストとしてこれからもやっていきたいと思えている人であればそれでも良い。しかし20代、30代はいくらでも自分の能力や活躍するフィールドを広げることができる。たまたま最初に働いた会社や与えられた職種で自分の可能性を制限する必要はない。そのためにも一旦、次を決めずにそこから離れてみることは有効だ。

その業界や職種から離れると、日々の生活で会う人も変わってくる。今までは仕事柄同じ業界や会社で働く人がネットワークの中心だったかもしれないが、そこから離れると世の中にはもっとさまざまな生き方をしている人がいることに気付く。それらの人たちとの接点の中で、改めて自分がやっていた仕事や業界の価値に気付くこともあるかもしれないし、新しい自分の道を見出すきっかけにもなるかもしれない。
 

空白期間を過ごすことで、改めて自分のやりたいことに気付ける

著者自身も当時勤めていたリクルートを辞めたときは、次を決めずに退職し数カ月離職期間をおいた。

キャリアブレイクという意識は特になかったが、とにかく一度フラットになってみたい気持ちはあった。営業に飽きてしまっていたのでいろいろと他業種のアルバイトもしながら、やはり自分は企業の採用や人のキャリアに関わりたいという気持ちを再確認し、リクルート時代と同様の仕事ができて、かつより自由な動き方ができる社員5人の小さな会社に転職した。そこでは企業の採用支援だけでなく、大学生の就職支援も行う就職塾や就活コーチングの事業を立ち上げることになった。

きっとリクルートで働き続けていたら、営業数字に追われる日々で、それが自分にとって本当にやりたいことなのかなんて考えることもなかっただろう。まさに今の自分の専門性(企業の採用&若者のキャリア支援)にもつながるやりたいことを見出せたのはあの空白期間があったからだ

人は誰でも先が決まっていると安心するし、道が決まっていれば進むこともできる。ただあえてどの道も選ばず、逆に言えばいろいろな道を選べる場所で休憩(ブレイク)することで、自分が進みたい方向を見つけることができるかもしれない。
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