スプリングの位置を変えてスリム化を実現
ペンの軸を細くするために何がネックになっているか考えたとき、“スプリング”が最初に出てくるのは確かに自然な流れのように思えます。しかし、ノック式多色ペンの構造は、もうずっと長い間変わっていません。それは、この方式のメリットが大きかったということもあったと思います。実際、「サイドスプリング」機構もスムーズに出来上がったのではなく、別の方法を考えていて、それでは難しそうだとなったときの代案として出てきたのが、このアイデアだったのだそうです。
「結局、このアイデアが出るまでが大変でした。サイドスプリングにしようと決まってからは、比較的早く進んだと思います。細かい設計や具体的な動作などはスムーズにイメージできました。とはいえ、実際に試作してみるまでは、動くかどうかとても不安な気持ちで作っていました。理論上、動くことは間違いないのですが、社内では、本当に動くのかという声も出てきて……そこを証明するところがスタートのような感じでしたね」と佐野さん。 サイドスプリング機構とは、3色のリフィルを中央に寄せて、スプリングはそれぞれのリフィルの横に設置したものです。これによって、リフィル同士を中央に寄せられるだけでなく、リフィルにスプリングを巻き付ける必要がないので、スプリング自体も細いものが使えます。
実際に試作してみて、動くことは間違いなかったけれど、軸の中のスペースや、軸の中でリフィル同士が干渉しないかなど、構造部分の問題は多く、そういう細かい問題を1つずつ解決していく大変な作業だったと言います。
サイドスプリング機構を搭載してスリム化したペンは繊細なパーツの集まり
「サイドスプリング機構はスプリングがリフィルに巻き付いていないので、スプリングを軸の中で固定するためのパーツが必要となりました。なので、リフィルを軸の中で正しい位置に誘導するパーツとは別に、スプリングを誘導するためのパーツをつけています。ちなみに、パーツが全体的に繊細なので、量産するにあたって、組み立ての方法をどうするかといったところも頭を悩ませました」と水鳥さん。
そして、これだけのアイデアと技術を投入しても、すでにある多色ペンと同じリフィルを使う以上、細くするにも限度があります。劇的に細くなることはないと分かっていて、それでも少しでも細くしようと考え抜いた上で出来上がったのが、「サラサクリップ3C」なのです。
たしかに、以前の「サラサ3」と比べてみると、明らかに細くなっていますし、実際に書いてみると、その違いがハッキリ分かります。この新サラサを使ったユーザーが「細くなった!」と盛り上がっているのも当然のすごい製品なのですが、そのすごさは、握って、書いてみないと分かりにくいのがもどかしい製品ではあります。
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