「究極のTKG」「究極のMYO」に続くのは「究極のおにぎり」
タカラトミーアーツの「究極のおにぎり」は、「究極のTKG」から始まった、大人向けの本格調理玩具シリーズの最新作です。「究極のTKG」は、生卵を割って白身と黄身を分離し、白身をホイップして、これまでにない「ふわとろ」のたまごかけごはんを作るマシンでした。続く「究極のNTO」は、以前発売されていた「魯山人納豆鉢」のリニューアル商品。魯山人が愛した混ぜ方の納豆が楽しめる製品です。「究極のMYO」は、卵の白身と、黄身と塩、酢、食用油を別々に攪拌(かくはん)したものを、最後に混ぜ合わせてさらに攪拌することで、さらマヨ、ふわマヨ、とろマヨなどが楽しめます。
たまごかけごはん、納豆、マヨネーズと、誰もがなじみのある身近な食べ物の調理を自動化しつつ、さらに新しいおいしさを提案するという、かなり凝ったコンセプトの「究極」シリーズですから、当然、「究極のおにぎり」も、単におにぎりを自動的に作ってくれるというだけの製品ではありません。
実際に試したら、確かにこれは自分で握って作れるレベルのおにぎりとは全く別物でした。空気をたっぷり含んだ、ふんわりとしたおにぎりは、プロの料理のようです。なにより、ご飯をとてもおいしく食べることができるのです。 作るのは簡単。付属のおにぎりケースに炊きたてご飯を半分入れて、具を入れて、さらにご飯を入れたらフタをして、「究極のおにぎり」本体にセット。あとはレバーを押して30秒待つだけ。おにぎりケースが機械の上でごろんごろんと回転しているだけなのに、フタを開けると、見事なおにぎりができ上がっています。最後にのりを巻けば、プロが握ったとしか思えない、ふんわりしたおにぎりができ上がります。それこそ、おにぎりの名店「ぼんご」さんのおにぎりを思わせる仕上がりなのです。
しかし、実際に食べてみるまで、筆者は「まあ、おにぎりはおにぎりだし」と思って、あまり期待していなかったのです。どちらかというと「便利」に寄った製品だろうと思っていたので、こんなにおいしく作れてしまうことに驚きました。
モーター一つでぐるぐるとご飯を回転させるだけで、こんなにもおいしいおにぎりができる、その秘密を、開発者のタカラトミーアーツFV事業部企画課主任の平林千明さんにうかがいました。
おいしいおにぎりは机上の計算では作れない
――「究極のMYO」が2019年3月の発売ですから、シリーズとしては久しぶりの製品ですね。平林千明さん(以下、平林):コロナ禍もあって、「究極」シリーズのような、大人向けのちょっと楽しいものというのが、あまり売れなくなってきていたんです。それで、企画はいろいろ温めていたのですが、なかなか開発する機会がないなあと思っていたところに、おにぎりブームがやってきて、「これは乗ってみよう」と思ったんです。
――おにぎりは、身近で一般的なぶん、作り方も方向性もさまざまですが、今回のような形にすればおいしいおにぎりができるというのは、どこから発想されたのでしょう。
平林:業務用のおにぎりマシンを調べたり、インターネットでおいしいおにぎりの作り方を調べたり、かなり幅広くリサーチしていきました。その中で、容器の中で振るとおいしいと言ってる人がかなり多くて、試してみようと思ったんです。それで、容器を効率的に回転させる仕組みを、いつも一緒にお仕事させていただいている設計協力会社の方に考えてもらったんです。
――どのくらいの量のご飯を、どんな風に、どのくらい回転させるとおいしくなる、というようなことは、ある程度計算できるものなんですか?
平林:これは机上の計算では全く分からないので、実際に試作品を動かして作って、食べてみてを繰り返しました。理想は「お茶碗でご飯を食べている感覚で食べられるおにぎり」でした。開発にあたって、おにぎりの有名店にも取材に行きました。そこでも、茶碗のご飯のような感覚で食べられるように柔らかく結んでいるといったお話を伺って。それを柔らかさの基準に置いて開発を進めました。
――のりを巻くのが必須の柔らかさですよね。でも、口に入れるとほろっとくずれて、それがおいしいんです。
平林:有名なグルメマンガでも、お寿司のシャリの握り方の話がありましたよね。空気が入らないとダメだという。
ご飯を打ち付けながら回転させて、空気の入ったおにぎりを作る
――ケースを三角にして、モーターで回転させるという構造には、どういう意味があるのでしょう。平林:ケースの中で、ご飯を打ち付けることで空気を入れるので、一定方向に回転させた方がいいだろうと想像して試作しました。ケースが三角なのも、そのためですね。かなり強く打ち付けないといけないとか、どのくらいの時間回転させるのが良いのかとか。そのあたりは、もう実際にやりながらでないと分かりませんでした。結局、自分の味覚が頼りという感じでしたが、それだけではいけないということで、外部の検査機関で、専門パネラーさんによる官能調査をお願いしました。おいしさを数値にして出してもらえるのです。 ――ケースは三角ですが、でき上がるおにぎりは丸くなりますね。
平林:そうなんですよね。やっぱり強く打ち付けて作るので、どうしても丸くなってしまいます。ケースといえば、材質も熱いご飯を入れられるように、耐熱プラスチックにしたり、半透明にして中でご飯が動くの透けて見えるようにしたりと、凝っているんですよ。フタがしっかり閉まるけれど、開けにくくないようにということも考えました。
――あと、30秒回転させるという時間設定も絶妙ですね。あれ、60秒回したからといって、ご飯の詰まり方は変わらないですね。
平林:私も最初は、回転時間でお好みの固さにできるかもと、いろいろやってみたんですが、そんなに変わりませんでした。
――単2形アルカリ乾電池2本というのは、なんとなく最近の製品としては珍しい感じなのですが。
平林:モーターを動かすのに、単3形だと電池寿命がかなり短くなってしまうんです。それで単2形を使っています。「そうめんスライダー」は単1です。モーターはかなり電池を消耗するんです。単2形だと100回くらいは使えます。タカラトミーアーツの製品は、どこででも使えるようにとACではなく電池駆動にしています。
――結構、本体が動作中ガタゴトと動くので、単2形電池がちょうどいい重りになっている感じもありますね。
平林:実は、電池を使ったりモーターを使ったりということは、円安の影響で製造コストがかなり上がってしまうんです。それで、手動にできないかと言われたんですけど、そうすると面白さが減ってしまう思いました。スイッチを押したら勝手に回っておにぎりができるという面白さが大事だと思っているので、あえて自動電池式にこだわりました。単なる調理器具ではなくて、おもちゃとして作っているので、遊びや面白さは重要なんです。
卵黄の醤油漬けが作れるトレイや、楽しいレシピを用意
――卵黄の醤油漬けが簡単に作れる「卵黄トレイ」が付属していますね。平林:おにぎりブームで注目された有名店などで見て、いいなと思いましたし、おにぎりだけだとさびしいかなというのもあって作りました。これがあれば、かなり簡単に作れて、おにぎりに乗せたときの見栄えもいいので、写真など撮ってもらえたらうれしいですね。
――説明書には、いろいろなおにぎりのレシピが掲載されていますが、あれはどなたの考案なのでしょう。
平林:「究極のTKG」のときはプロの方にお願いをしたんですが、今回はおにぎりなので自分でやりました。もともと料理が好きというか趣味なんですよ。だから、楽しみながらいろいろ考えています。 ――「チーズちくわ&白ゴマ」とか「天かす&大葉」など、攻めたメニューが多くて面白いです。
平林:専門店で人気のメニューも入れつつ、自分のオリジナルも入れつつという感じです。他にもいっぱい考えたのですが、スペースの問題もありますし、材料が手に入りにくいものなどは割愛しました。説明書の写真も、実は私が作って自分で撮影しています。パッケージに使われているおにぎりや卵黄の写真も、自分で作って自分で撮影しました。なんとなく、全部自分でやるもんだという意識が最初からあるので、ついやってしまいます。その方が気が楽というのもありますが。 ――そういえば、究極シリーズの平林さんによる製品は、TKGもMYOもおにぎりも、全部モーターで回して、卵を卵黄と卵白に分ける機能があるんですね。そこに作家性が出ているような気もします。
平林:タカラトミーアーツはおもちゃのメーカーなので、火や電気で熱を発する製品は作れないんです。そうなると、モーターで何かを回すという発想になるんですよ。あと、そういう機械っぽさは面白いと思っていますから。卵は、言われてみるとそうですね。気が付かなかったです(笑)。前に、「ギガプリン」という商品も開発していますし、卵が好きなんでしょうね。
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