飲料水や食べ物が手に入らないことについては、買い置きや家にあるものでしばらくは過ごすことが可能です。しかし断水で家のトイレが使えなくなってしまった場合、被災1日目の数時間以内には困った事態が発生します。
人は1日に何度も排泄する必要があります。我慢するという事はできません。「トイレが使えなくなる」ということを想定して、非常用トイレなどの準備をしていなければ、ほとんどの家庭で災害時に“最初の困難”となる可能性が高いのです。 防災月間に先がけてAll About編集部が実施した「防災意識に関するアンケート」(※)に寄せられたコメントを交えながら、災害時のトイレ問題について考えます。
マンションなどは「停電=断水」となる
トイレが使えない原因となる断水は、さまざまな要因で発生します。大きな地震で配管や給水施設が被害を受けた場合のほか、大規模な停電時にも起こります。集合住宅ではより深刻です。建物のポンプが止まったら各戸への給水はできなくなるのですが、「停電イコール断水」となることを知らない方が多くいます。また上水道に問題がなくても、例えば大雨で排水管が目詰まりを起こし、下水道が使えなくなっても上水道は停止せざるを得なくなります。
などアンケートには、残り湯でトイレを流した経験がある人もいますが、これには注意が必要です。「断水でトイレが流せなかった。風呂の残り湯でしのいだ」(60代男性、北海道)
「風呂の水を抜いていなかったので、その水を汲んでトイレを流しました」(50代女性、青森県)
>【マンガ】災害時のトイレに何が起こる?
最近では一定以上の震度の地震が発生した場合、マンションなどの集合住宅では、配管が壊れている場合に備え、安全確認ができるまでトイレなどの排水禁止をルール化する建物も増えています。
避難所のトイレ、状況は想像以上に過酷
近年は大雨による洪水の発生が全国で頻繁に起こるようになり、断水はより身近な問題になりつつあります。「断水してトイレが使えなくなったら避難所のトイレに行けばいい」と気軽に思っている人もいるかもしれませんが、それは避難所という過酷な環境を理解できていない可能性があります。
実際にあった過去の災害時も、避難所には周辺住民の多くが集合するため初期段階では仮設トイレの設営が間に合わず、どこのトイレも長蛇の列になっているのが普通でした。また、避難所のトイレは衛生面でもかなりひどい状況になっていることを覚悟しなくてはなりません。また多くの人が利用するため、さまざまな感染症の蔓延の温床になっているという事実も注意すべきポイントです。「簡易トイレでは長時間匂いに悩まされたので、公園やコンビニに借りに行きました。嗅覚が過敏なので」(30代女性、福島県)
「水害にあった際、仮設トイレに長蛇の列ができた。水分摂取を控えた」(40代女性、大阪府)
トイレまわりの「備蓄品」は重要! 臭い対策も
自宅の下水管にトラブルがなく、トイレ排水用の十分な生活用水が確保できるならばいいのですが、そうでない場合に備えてトイレまわりの必需品も家族の1週間分程度は備蓄しておいて、指定された集積所へ汚物として出すことができるようにしておくのがいいでしょう。自宅内で一時的に保管する場所も考えておき、不透明のビニール袋も一定量必ず用意しておきましょう。災害時にはトイレットペーパーや生理用品なども手に入りにくくなるので、これらも困らないように普段から備蓄しておくと安心です。
【トイレまわりの備蓄品】
・非常用のトイレ
・凝固剤
・消臭剤
・重曹
・不透明のビニール袋
・トイレットペーパー
・生理用品
被災地では、断水時の汚物の一時保管に自宅のベランダや庭を使うケースがよく見られます。
仕方のないこととはいえ、長期間となると悪臭は精神的にも厳しいものがあります。生ゴミなどの回収が遅れることもあります。市販の消臭スプレーを備蓄するか、重曹を準備しておきましょう。「水道が何日も使えない日があり、大便を流すために用意していたお風呂のため水もなくなったので、家の外にビニールに入れて保管したり庭に埋めたりした」(40代女性、宮城県)
水200mlに対して重曹小さじ2杯くらいの割合で消臭剤を作ることができます。重曹の消臭剤をスプレーすると、消臭はもちろん雑菌の繁殖を抑制する効果を持ちます。これ以外にも、重曹は洗濯や掃除にも使用できるので常備しておくといいでしょう。
一見“災害に強そう”な集合住宅の注意点
断水が長期にわたってくると、被災地では自治体や自衛隊の給水車から給水を受けることになります。自宅に十分な水の備蓄がない家庭は、給水を受けるために並び、自宅に運ぶ労力によって疲弊していきます。またマンションなどの集合住宅の場合は、エレベーターが止まってしまったら戸建て住宅よりも水や生活用品の運搬が大変になります。電気や水道などのインフラが長期間停止すると、新築の最新マンションなど一見災害に強そうな建物に住んでいる人の方が先に生活できなくなってしまい、避難所に移動せざるをえなくなったというケースも近年多く見られています。
電気や水が途絶えた時に何が起きるか、どうすれば一定期間自宅でしのげるのかを考え、十分な備蓄を用意しておきましょう。
>【マンガ】災害時、トイレも被災する
※All About読者対象「防災意識に関するアンケート」(20歳~76歳の男女389人、2023年7月18日~7月24日)
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