マンション価格下落の影響
韓国ではこれまで、一般市民による不動産投資が盛んだった。金利が低い銀行にお金を預けて利子を当てにするよりも、収益率が高めの不動産、特にブランド価値のあるアパートなどに投資することを好む人が多かった。不動産を所有していれば必ず利益が出る、と言われてきたからだ。特に文在寅政権下でマンション価格が高騰したときに、今がチャンスとばかりに購入する人が続出した。将来自分のマンションが値上がりすれば大成功!ということで、なんとかお金を工面してマンションを購入する、という人も少なくなかった。
その中には20~30代の若者もいた。経済的にまったく余裕のない若者も、だ。 そんな彼らのことを「ヨンクル族」というが、ヨンクルというのは魂をかき集める、という意味があり、言葉通り、必死に借金をしたり、住宅ローンを組んだりして、不動産などに投資をする人たちのことだ。「魂をかき集める」という表現は大袈裟に思えるかもしれないが、いわゆるニート族のように現在進行形で収入のない若者が、 不動産投資で成功することを夢見て、思いきった投資に踏み切るのはある意味“命がけの行為”に違いない。
ところがマンションの価格が下落し始めたから大変だ。金利が上昇したことで、マンション価格も資産価値も下がってしまい、損失を考えると簡単に手放すこともできない。ヨンクル族はもちろんだが、マンションを投資の対象としていたすべての人たちが、今とても厳しい状況に陥っている。
韓国独自の賃貸契約スタイル
思えば何年もマンションの価格に振り回されている気がする。筆者の話だ。2023年の春、今住んでいるマンションの契約を更新した。もともと「チョンセ契約」していたのが、今回は少し契約スタイルを変えた。それは先述したように、不動産価格が下落し、マンションの相場が随分下がったからだ。ちなみに2年前にチョンセ契約したときは、マンション価格がおかしなくらい上昇している時期だった。契約スタイルを変えた理由を説明する前に、「チョンセ(傳貰)」と「ウォルセ(月貰)」という韓国独自の賃貸制度を簡単に紹介する。
チョンセ(傳貰)とは、契約時にまとめて保証金を支払う方法で、月々の家賃の支払いはない。退去するときにこの保証金は全額返還される。契約期間中、家主は保証金を銀行に預けたり、投資したりすることで運用できるというメリットがある。
ウォルセ(月貰)は、入居時に一定額の保証金を支払ったうえで、毎月家賃を支払う方法だ。保証金は退去時に全額返還される。
この他の賃貸システムもあるが、一般的によく利用されているのはこの二つである。
話を戻そう。契約を更新するにあたって、現在の相場に合わせて改めてチョンセ契約をした。前回の契約時に支払っているチョンセ保証金のうち、チョンセ保証保険で補償される上限を超えた費用は一旦返還してもらい、残りの金額はウォルセ契約し、事前にまとめて支払うという「半チョンセ」という形をとった。
チョンセ保証保険というのは、一定の金額までは保証機関から保護されるというもの。なんだか複雑な契約をしているように見えるが、これは一応、退去時に家主の事情によって、保証金が返還されないというリスクを避けるためだ。家主の多くが、入居者から預かっている保証金を担保として、自分たちが住むマンションの購入やその他の投資に充てていることが多い。もちろんそれが家主にとってのチョンセのメリットの一つなのだから。
ところが、チョンセの相場が下落したことで、相場が高額だったときに入居した契約者に保証金を返すことができない家主が続出している。入居者が退去するタイミングでまとまった金額を用意できないケースだ。入居者は保証金を返還してもらい、次の入居先での保証金とするなり、住宅の購入費用なりにしなくてはならないので、これが手元に戻ってこなかったら死活問題。もちろん家主は家主の立場で大変なわけなのだが……。
韓国の不動産価格、まだ当分の間安定することはなさそうである。