ゴールデンチケットシンドローム
韓国の若者が幼い頃から最終的な成功を求め、いかに努力をしているかを考えるとなんとも切ない。ゴールデンチケットシンドロームという言葉があるが、これは全てを叶える黄金のチケットを手に入れようとする現象のことで、韓国社会では名門大学への進学、大企業等に就職することがそれだ。この黄金のチケットを手に入れるため、小学生、いや、もう幼稚園から数々のスキルを身につけるため、少なくない努力をしてきているのだ。この黄金のチケットを追い求めるあまり、雇用率の低下、ひいては婚姻率、出産率の低下にまでつながっているとOECD(経済協力開発機構)が韓国経済報告書の中で指摘(※3)しているが、なんとも的をついているじゃないか、と唸ってしまう。頑張ったのに就職がうまくいかない、となったとき、彼らの落胆がいかに大きいかは想像にあまりある。
増えるニート族
ニートという言葉は、若干定義に違いはあるが、ほとんど日本と同じ意味で韓国でも使われている。韓国でいわゆるニート族と呼ばれる20~30代を中心とする層は、2023年5月の時点で60万8000人。2022年同時期の調査結果より2万6000人増加している。この数字は、年齢的に再就職ができずにいる40~50代の56万9000人を超える(※4)。彼らは就業年齢に達してすぐにニート族になるわけではなく、最初は就業の意思があった者が多いという。若者の挑戦意欲を奪ってしまう要因として、就職難、大企業と中小企業間で広がる格差などいろいろ挙げられるが、それにしてもニート族が60万人越えとはなんとも深刻だ。
独立できない若者
ニート族も問題ではあるが、では就業意欲はあるが、就職できずにいる若者はどうするのか。学生時代のアルバイトをそのまま続けたり、あるいは公務員試験の準備のための予備校に通ったり、資格取得に励んだり、次のステップのために努力をする。しかし、それではなかなか経済的に独立できない。結果、実家暮らしになることも珍しくない。あえて独立を諦め、親との同居を選択する若者を指すカンガルー族、ブーメランキッズという言葉もあるぐらいだ。韓国保険社会研究院及び韓国統計振興院による青年生活実態調査(※5)によると、19~34歳の57.5%が両親と同居しており、そのうち67.7%は具体的な独立の予定がない。独立を計画できない最も大きな理由として、56.6%が「経済的な条件を備えていないから」と答えている。
しかし、カンガルー族を続けられるのは、中・高所得層の家庭の子どもだけともいわれている。収入がない子どもを養っていくには、親だってお金があってこそ、というわけだ。
と、ここで、経済力が十分にある家庭、資産家などの子女を指す「金の匙」という言葉が浮かんだ。そして「金の匙」ほどでなくとも、それなりに裕福な家庭の子どもたちはやはり救われる道があるのか、と、そうではない若者を思いながらやるせない気持ちになった。なんともはや、この負のループに絡めとられた就職事情……。
最近はコンビニで、本屋で、時には予備校の前で、アルバイトや勉学に励む若者を見ると、ついついこの子にはどんなストーリーがあるのだろう……と考えてしまう。そして 彼らに明るい未来が訪れることを願うのだ。
参考
※1:統計庁「2021年賃金労働雇用所得結果」2023年配布資料
※2:統計庁「経済活動人口調査(2022)」
※3:OECD「Korea: Stunning success and work in progress」
※4:統計庁「年齢/活動状態別非経済活動人口調査」
本調査では、ニート族の条件の中でも、4週間求職活動等をしておらず、「休んでいる状態」と回答した若者を「求職断念青年」として調査を行っている。
※5:「青年生き方実態調査」報道資料より
韓国政府が国務校正室、韓国保険社会研究院及び韓国統計振興院に依頼して実施した調査