株式市場再編から早1年、結局何が変わったの?
しかしながら今後は、改善できない企業に関しては市場変更や上場廃止といったケースも出てくる可能性があり、少しずつではありますが、各上場企業にこれまでにはない改革を行うケースがみられるようになってきています。東証の要望に応える企業も続出しており、新しい局面に来ているともとらえることができる部分もあります。
株式市場再編から1年超となった今、結局何が変わったのか、特に変わった点を解説していきます。
1番は、PBRの改善による株高
世界から投資資金を集めるためには、魅力ある企業が上場し、世界的に見ても遜色ない上場基準を満たす必要があります。東証再編で、1つのポイントになったのはPBR(株価純資産倍率)かもしれません。PBRとは、「Price Book-value Ratio」の略で、現在の株価が企業の資産価値に対して割高か割安かを判断する目安として利用されます。PBRが1倍だと、株価とBPS(1株あたり純資産)が等しいということになります。すでに各紙報道で発表されている通り、このPBRの低い企業に対して東京証券取引所が問題提起を行ったことで、PBR改善の動きが上場企業の中で波及しています。
発端は、2022年7月29日に開催された「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議(第1回)」において、東京証券取引所が提出した資料にあります。その資料では、欧米企業に比べて日本企業のPBR1倍割れの比率がかなり高いことが指摘されました。資料によれば、主要企業ではアメリカはPBR1倍割れは5%、欧州で24%に対して、日本は43%となっています。
これは、欧米に比べて日本の企業の価値が評価されていないともとることができるのです。そこで、2023年1月25日に開催された同会議(第7回)では、継続的にPBRが1倍を割っている企業には開示を強く要請していくと言及しています。
このようにして、PBR1倍割れといった割安ではあるものの魅力のない企業に対して、魅力ある企業へと変貌せよ、と東証がはっぱをかけたことで、より真剣に対応する企業が増加したものと思われます。そうしたこともあり、日経平均株価に見るように、株価が大きく上昇したといえる部分があるのです。
PBRの改善を行うには、株価を高くする方法が考えられます。株価を高くするためには、利益率の改善や利益拡大、自社株買いの実施、配当の引き上げなどの方法が考えられます。日本企業では、これまで蓄積した利益を現預金で貯めているケースもあり、必ずしも効率的な経営ができているとはいえなかった部分があります。そうした企業では、手許現金を生かし、自社株買いや配当の引き上げを実施する企業が増加しています。実際、PBRが改善する企業も多くみられるようになってきました。
これは市場再編に伴う、ひとつの大きな改善といってよいでしょう。
配当を引き上げる企業続出
もう一つ、市場を魅力的にするため、また投資家からの資金を呼び込むために、配当性向(=当期純利益のうち、どれだけを配当金の支払いに向けたかを示す指標)を引き上げる企業が増加している点も示しておきます。中には、配当性向を100%にする会社も見受けられます。例えば、三ツ星ベルト(5192)は、2023年3月期以降、配当性向を100%としています。この結果、株価4305円に対し、配当は250円予想と配当利回りは5.81%となっています(2023年6月21日時点)。この会社のすごいところは、配当を引き上げたことで株価が大幅に上昇したにもかかわらず、5%超の配当利回りとなっていること。実はこうした企業は複数存在します。つまり、PBR改善につながったほか、継続して配当利回りが高いため、今後も利益が増加すれば配当の増加が期待でき、株価が上昇する可能性が十分あると推測できます。
市場再編により、より魅力的な市場となり、資金流入が起きている点は株価を見れば一目瞭然です。もちろん、インバウンド需要拡大、円安などさまざまな要因が絡んでいるものの、市場再編が株価上昇のひとつの要因となっている点も否定できません。
今後は、経過措置終了までの各企業の動きに注目しましょう。基準をクリアし、さらに発展拡大する企業が増加するかどうかが、世界で見て生き残れる市場となるかどうかのカギとなることでしょう。