休日は料理を作ってくれるけれど
もちろん、夫は悪い人ではない。悪いどころか、週末はほとんど夫が食事を作ってくれるというから、むしろ「とってもいい人」なのだ。後片付けも完璧だという。「ただ、夫は自分が食べたいものしか作らない。それでもいいですよ。だけどあまりに辛いものとか子どもは無理。なのに大人の味つけのままにする。だから私が薄めたり、スパイスを入れる前に取り分けて子ども用にするんですが、そう考えると、夫は家族を喜ばせるために作っているわけではなく、実験的に自分がやってみたいから作っているだけなんだろうなというのがわかってきた……。決して『いい人』とも言えないんです」
食べてくれる人がいるから作りがいがあると考える人もいるのだろうが、夫は自分が食べたいものを自分の好きな味つけで作りたいわけだ。確かに「家族のため」とは言えない。
「それでも、子どものうちから大人の味に慣れたほうがいいなんて言ってますけどね。それも一理あるかもしれないけど、辛いものだけは子どもが食べないから考えてほしいんですけどね」
夫は「味にはうるさいタイプ」なのだという。基本的にサヤさんが作ったものは、おいしいとは思っていないようだ。
「夫の父が板前、母も料理人だったので、夫は小さいころから出汁の味を言い当てる子だったらしいです。かつお節とさば節が入ってるでしょ、というように。絶対音感みたいに、絶対味覚をもっていると言ってました。だからインスタントなんて使わない。私はインスタントの出汁が好きですけどね」
だからこそ、夫は自分のつまみにも手を抜かない。週末の料理も自分が食べたいだけなのだ。手間がかかるわりには、「私も夫の料理をそんなにおいしいとは思ってない」とサヤさんは笑う。だが、そこはお互いに譲り合ってなんとかやっているのだから、平日のつまみ作りもタイミングさえ考えてくれればいいんだけどと、サヤさんはため息をつく。
「最近、カセットコンロを使うようになりました。夫か私、どちらかがキッチンのガス台から離れてそれを使う。これでほぼ解決はしているんですが、今度はガス台争いが勃発しています。どちらもカセットコンロは使いたくないから(笑)。でも私は『子どものご飯だから』で押し切っています。わがままな夫でも、子どもを全面に出されると引かざるを得ない」
笑い話のように話してくれたサヤさんだが、心の奥底では「どうして夫はキッチンを使うタイミングを考えないのだろう」というモヤモヤがいつもあると苦笑した。