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回らない=回転寿司の末路?
タッチパネルが導入される2000年代以前は確かに寿司は回っているものであった。しかし、タッチパネルで注文した商品が特急レーンでダイレクトに届くようになっても、回転寿司のエンターテインメント性は損なわれることはなく、寿司はレーンから取るものからタッチパネルで注文するものへと変化していくことになる。
実際、レーンから取る派と注文派を比べると注文派が圧倒的多数を占めており(※1)、特にコロナ禍でこの傾向が加速したのか、寿司を回していない回転寿司店も多いのが現状だ。
とある回転寿司企業の経営者が「どうしたらレーンから寿司を取ってもらえるのか、その答えがあったら教えてほしい」とこぼしていたのを聞いたことがあるが、注文派が多い現状を考えると、今まで通りの方法で寿司を流している限り、手に取ってもらうことは難しいだろう。
そんな中、首都圏を中心に約90店舗を展開している「すし銚子丸(以下、銚子丸)」が全店舗で回転レーンでの商品提供を終了し、2023年4月26日までにタッチパネルを使用した「フルオーダーシステム」に順次変更していくことを発表した。
「脱・回転寿司」宣言をした銚子丸
一部報道では「回転しなくなることが残念」というスタンスで一連の迷惑行為に伴う回転寿司の終焉のような報道をされていたが、むしろ回転寿司・新時代への第一歩だと筆者は思っている。
確かに個人的に残念な思いはある。なぜなら今から20年ほど前に銚子丸を初めて訪れた時の光景が忘れられないからだ。それまで見たどの回転寿司のレーンよりも迫力があり、鮮度感あふれる寿司が次々と流れてくる様にすっかり心を奪われてしまった。
レーンにはメニューにない商品も頻繁に流れてくるし、なによりそのすべてが圧倒的なデカネタで、思わず手が伸びてしまう。「こんな魅力的なレーンがあるとは!」と感動しただけに今回の決定に驚きは隠せないが、時代の変革と共に進化していくのが回転寿司であるし、新たな銚子丸への期待の方がはるかに大きい。
銚子丸の堀地元(ほりち はじめ)常務はこう語る。
「今回、迷惑行為を契機としてフルオーダーシステムを導入したように思われていますが、実は以前から考えていたことなんです。お客さまのご注文に応じて、握りたて、作りたての美味しい寿司を召し上がっていただくために舵を切りました」
大手回転寿司チェーンと違って、銚子丸では寿司職人がレーン内に立って寿司を握っている。職人が目の前で握ってくれた寿司をすぐに味わうことができるのがなによりのメリットだ。
銚子丸のように寿司職人がいる“グルメ回転寿司”という業態では、以前から注文派が多数を占めていたので、今回の決定もスムーズに受け入れられたという。フルオーダー化の第一義は美味しさの追求にある。
第二にはフードロスの問題。フードロスが声高に叫ばれるようになってから、銚子丸でもレーンに寿司をあまり流さないようにしていたが、それでもロスはゼロではない。限りなくゼロに近づけ、食品ロスを削減するためにはフルオーダ化は欠かせない。
第三には会計の省力化。タッチパネルから注文したデータとレジを連携しているので、会計時に皿を数える必要がない。これだけでもホールスタッフの仕事量は大きく減る。その分、サービスに費やすことができるので、顧客満足度も上げられるという寸法だ。さらに、細かなマーケティングデータの取得が可能になり、顧客ニーズに沿った商品企画や原材料調達の効率化などDXの一環としても大いに期待が持てる。
フルオーダーシステムの導入は銚子丸にとって大きなメリットがあると同時に、顧客にとっても握りたての美味しい寿司が食べられるという最高のメリットがある。さらには人手不足による労働環境の改善、フードロスへの取り組みなど社会的意義も高い。
「今は新しい銚子丸を作るために未来に持っていくものと過去に残していくものを整理しているところです」と堀地元常務が言うように、これまで培った財産の活用と新技術の融合で新たなイノベーションを模索している最中なのだ。
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