世界的に見て、日本は教育費の家計負担が重い国
それでは、経済協力開発機構(OECD)の報告書「図表でみる教育2021」に掲載されている2018年の各国のデータをもとに、世界と比較した際の日本の教育費の実態について見ていきましょう。図は、OECDが公表した2018年の加盟各国の公財政教育支出の対GDP比(※)を比較したものです。
※公財政教育支出の対GDP比……GDP(一定期間中に一国のなかで生み出された財やサービスの総額)のうち、公財政教育支出(公的な教育支出=国が教育のために出しているのお金)が占める割合 これを見てみると、日本は2.8%と、OECD諸国の平均である4.1%を大きく下回り、最低クラスの水準です。
また、初等教育から高等教育に対する公的支出総額は、OECD諸国平均で政府総支出の10.7%を占めており、日本は7.8%と平均を下回り、最も比率の高かったのはチリ(17.4%)の半分以下という結果でした。
一方で、日本の子どもにかかる学校関連の費用の総額は、小学校から大学までで1人当たり1万2194米ドルとなり、OECD諸国の平均である1万1680米ドルを上回ります。
これらのデータから読み取れるのは、日本は教育費への公的支出の割合が世界的に見て少ない一方で、日本の子どもにかかる学校関連の費用は世界的に見ても高い水準にあるということです。
つまり、日本は教育費が高いのにもかかわらず、国が子どもの教育にお金をかけていないのです。その結果、日本の教育費は、各家庭の私費負担に大きく依存しています。教育費の私費負担が重いとなると、当然、大学や大学院への進学をためらう学生も出てきます。こうした現状は、日本の教育水準を考えるうえでも、決してよいことではありません。
国も、教育や子育てへの支援策を拡充し、公的支出の割合を増やそうとはしている
そこで近年、政府は教育や子育てへの支援施策をいくつも打ち出しています。例えば、2019年10月から「保育料無償化」が全面開始となり、すべての3~5歳児と、住民税非課税世帯の0~2歳児について、幼児教育・保育の費用を無償化されました。
また、2020年4月からは高等学校等就学支援金の制度が改正され、年収590万円未満世帯(目安)への支給が最大年額39万6000円まで引き上げられたことにより、私立高校の授業料が実質無償化となりました。
さらに、同じく2020年4月からは、授業料・入学金の減免と給付型奨学金で学生を支援する「高等教育の修学支援新制度」がスタートし、奨学金への家計や学力に関する基準が大きく緩和されました。これによって、より多くの学生が返済不要の給付型奨学金を受けられるようになりました。
こうした支援策の拡充によって、日本の教育への公的支出の割合が少しずつ高まっていくことが予想されています。
日本の教育費の在り方を改善していくためには、国民の意識を変える必要がある
しかし、こうした施策もまだ十分だとはいえないでしょう。そもそも日本では、大学などの高等教育費に関しては「保護者が負担すべきだ」という考え方がいまだに根強く残っています。また、高等教育を受けていない人や子どもがいない人にとって、「大学などの高等教育費を税金でまかなうのは不公平ではないか?」という声も少なくありません。
例えば、スウェーデンでは公立私立を問わず、大学の学費は完全無償化されていますが、上記のような背景から、日本では高等教育費の無償化を実現するうえで社会的なコンセンサスを取ることが非常に難しいとも指摘されています。
日本の教育費の在り方を改善していくためには、国が教育支援の施策を講じていくだけでなく、国民のマインドセットそのものを根本的に変えていく必要があるかもしれません。
(監修:酒井富士子/経済ジャーナリスト・オールアバウトマネーガイド)