「どうしようもない」と見過ごされがちですが、力の行使はだんだんとエスカレートすることも多いので、やはり早めの対処がとても大事です。
「体罰はいけない」とわかっているのに、思わず手が出てしまいます
■相談者プロフィール・相談者:女性・東京都・専業主婦
・家族構成:夫(51歳)・本人(45歳)・長女(7歳)
■相談内容:
長女は一人っ子のため、何でも自分の思い通りになると思っているところがあります。人の話に入ってきてはあれこれと知りたがったり、いい加減な性格で物を大切にしなかったりします。部屋がいつも散らかしっぱなしだったり、言うことを聞かないで勝手ばかりするため、毎日同じことを言って注意しているのですが効果がなく、耐えかねて叩いてしまうことがあります。
その行為だけを見たら「体罰」にはなりますが、何度も注意したのに直らないというのを繰り返し、ストレスが溜まって耐えかねた結果という前段階があって、どうしようもなく手が出てしまったという状況です。これが本当に「虐待」だと責められてしまうことなのかと疑問に感じないこともないのですが、叩いたことは事実のため、子どもにそう言われてしまったら仕方ないでしょう。
カッとなって大声で怒鳴ったり、子どもを叩いてしまったとき、「親として失格なのではないか」「親に向いてないのではないか」と自己嫌悪に陥って、子育ての難しさに悩む日々です。
痛ましい虐待事件は、対岸の火事ではない
こちらの相談事例と似たような経験をしたことがあるという方は、多いのではないでしょうか。2020年4月に家庭での体罰が法律で禁止されたことは、当時話題にもなったため、今や大半の方が頭の中ではそれを理解しているでしょう。しかしその場になると、「いけないとわかっているのに……」と、理性よりも感情が先に出てしまうという方が非常に多いのではないかと思われます。とはいえ、うっかりなら叩くのもやむを得ないのか、というとそんなことはありません。これ以上の悪化を防ぐためにも、この段階で早めに見直しをかけていくことが強く望まれます。
大事なのは、虐待は対岸の火事ではないという認識です。
一般的に虐待というと、ニュースで流れるようなひどい事件をイメージすることが多いため、どこかよその家の出来事として捉えられがちです。しかし、痛ましい事件として報道されるような虐待のケースであっても、それはエスカレートした結果であって、はじめはそこまでひどくなかったはずです。
なぜだんだんと体罰がエスカレートしていくのかというと、即効性があるからです。子どもは叩かれるのがイヤなので、その場では言うことを聞くことが多いでしょう。そして親はそれを「やはり叩いた方が効果があった」と認識しやすいため、暴力に頼るようになってしまうのです。
強く叱責したときに自己嫌悪に陥ってしまうというのは、「これではいけない」という思いがあるからこそ。自己嫌悪自体はイヤな感情ですが、それが制御として機能してくれます。自分でも望ましくない対処をしていると気づけているうちに、大きなテコ入れをすることを強くおすすめします。
「子どもの思いを受け止めて」という、育児情報の拡大解釈に注意
昨今の育児情報では、「子どもの思いを受け止めてあげて」というようなメッセージが流布しています。しかしそれを拡大解釈して、腫れ物を扱うように子どもの機嫌を取っている方がとても多いように感じます。「子どもの思いや欲求をどこまで受け止めたらいいのかわからない」というお悩みは、私の育児相談室でも非常に多く聞かれます。しかしこのようなバランスが数カ月、数年続くと、子どもが好き放題してしまうという状態になってしまうのです。こちらの事例では、「一人っ子のため、何でも自分の思い通りになると思っている」とありますが、幼少時にお嬢さんのさまざまな要望に応えてあげている中、本来しつけで教えていく線の向こう側までも許容してしまっていたのかもしれません。
今の状況は、言うことを聞くための仕組みのようなものが家庭に存在しておらず、お嬢さんがご両親を振り回してしまっているように見えます。お嬢さんに家庭内のルールが伝わっていない状態であり、おそらくは「ママが怒り狂い出したらそれが限界」という理解でいるのではないでしょうか。
今後、子どもにルールを教えることとして必要なのは、強い力で圧するよりも即効性はなくとても地道な作業ですが「これまであいまいだった部分にルールを設けて、それを体感させて学んでもらうこと」です。例えば、おもちゃを片づけない場合は翌日まで預かる、1回で言うことを聞いてテレビを消せたら夕食後にもう1つYouTubeを見られるなどです。
力で行使すると、子も親も傷ついてしまいます。親の怒りをコントロールするためのカウンセリングや子育てに必要な知識の習得など、できることはたくさんありますので、ぜひ今日からその方向に動き出してほしいと思います。