濃い近所づきあいに私を巻き込む義母
3年前に結婚して夫の実家の敷地内別棟に住んでいるユウコさん(38歳)。夫と2歳になる娘との3人暮らしだが、母屋の義父母は「夕飯は一緒に」と呼びにきていた。「別世帯なのだから食事は別で、と夫から言ってもらってようやく解決したのですが、最近は近所づきあいをもっときちんとしなさいとうるさく言われるようになりました」
ユウコさんが住むのはそれほど田舎というわけではない。東京郊外である。昔から住んでいる一軒家が多いのだが、最近はマンションもできつつあり、かつての風景が変わっていくと高齢者たちは嘆いているそうだ。
「だからこそ、昔から住む人たちの絆が強まっているというか。近所とは食べ物のやりとりや、昼間、お互いの家を訪ねて世間話をするとか、まあ、とにかく関係が密なんです」
母屋に近所の人がやってくると、義母はわざわざユウコさんを呼びにくる。一緒にお茶をしようというのだ。
「私は家でデザイン関係の仕事をしているんですが、義母は『どうせ遊んでるんでしょ、来なさいよ。近所づきあいは大事よ』って。仕事をしていると言っても、『会社に行かないで何が仕事なの』と取り合ってくれない。母屋に行って、話の合わない人からいろいろ愚痴を聞かされる。時間の無駄ですが、これについては夫もかばってくれない。確かにそれほど収入があるわけじゃないけど、仕事は仕事なのに」
その上、義母は「時間があるときに畑に行って、さっきの○○さんに野菜を届けてあげて」と言い出す。
「義父母は農業をしているのですが、私は畑作業なんてやったこともない。やらなくていいと言われて結婚したのに、そうやって作業をさせようとするんです」
こんなはずじゃなかったと、ユウコさんは毎日思っている。自分が近所づきあいをする理由もわからない。もちろん、近所とは良好な関係があったほうがいいのはわかっているが、毎日お茶を飲んで世間話をすることが、「いい関係」に結びつくのかどうかも疑問だ。
「昔からそうやってつきあってきたんだからしょうがない、と夫は言う。でもそれに駆り出される私の身にもなってよと思いますね」
そこで来年からは子どもを保育園に預けて、外に働きに出ようと考えている。義母は怒るだろうが、近所づきあいで心をすり減らすよりマシだというのが彼女の考えだ。
付き合いのいい隣人たちの勢力図は……
もちろんマンション暮らしであっても、新興住宅地であっても近所づきあいを負担に感じている人はいる。「中古マンションを買って越してきたんですが、みんなが仲良しなのか、派閥みたいなものがあるのか、いまだにわからなくて不安です」
そう言うのはサヤカさん(40歳)だ。結婚して10年、7歳のひとり息子がいる。小学校入学を機に今のマンションを手に入れた。
「うちは共働きですが、専業主婦の方も半分くらいはいるみたい。越してきた当初、隣から家族で遊びに来てと言われ、断るのも角が立つからとうかがったんですが、あれやこれや聞かれて……。夫と私の仕事内容、収入、学歴まで。もちろん適当にごまかしましたけど、翌日には上の階の方から、『あの家とはあまりつきあわないほうがいいわよ』と言われ、下の階の人からは『今度、うちにも来て』と言われ……。結局、夫とも『適当につきあおう』と話しました。家への行き来はあまりしないようにして、でも挨拶だけはちゃんとして。共働きだから、何かあっても忙しいで逃げよう、と。勢力図がはっきりするまではそのほうが無難だよねって」
半年ほど暮らしてみて、だんだん勢力図がわかってきた。行き来が激しく、やたらと仲良くしたがる一派と、サヤカさん同様、共働きで多忙だとしてあまり関わらない一派と。仲良くしたがる一派は、新たな入居者をとりこもうとするようだ。
「子どもの学校を介しての親同士のつきあいもあります。おつきあいだけで、時間がやたらと奪われていくのは困る。夫も私もまだまだ仕事でスキルアップしていきたいと考えているので、まずは家庭を最優先、近所づきあいは最低限にするつもりです」
子どもの年齢が近いママ同士で集まってもいるようだが、3回に1回くらい顔を出して途中で抜けたり遅れていったり、とにかく「忙しい」を前面に押し出すようにしているとサヤカさんは言う。
「災害などがあったら近所との連携は大事だと思うので、関係を悪くはしたくないですからね。忙しいからあの人はしかたがない、と言われるような土台を作っているところです」
口さがない人もいるかもしれないし、憶測だけでものを言う人もいるかもしれない。近所とのつきあいは本当にむずかしい。