過去のことに執着する
「2歳年上の同期女性が、このところ周りから煙たがられているんです。年齢からいうと私も近いし、アラフォーになると邪魔にされちゃうのかと最初は戦々恐々としていたんですが、観察しているうちに彼女にも問題があるなとわかってきました」そう言うのはアヤコさん(42歳)だ。勤続20年、いくつか部署は異動したが、ここ10年以上、広報担当のリーダーとして仕事をしてきた。
「広報と密接な関係のある開発部で、やはりリーダー格に同期入社のサオリさんがいます。彼女は大学院まで行ったので2歳年上ですが。仕事のできる同期として尊敬していたのに、最近どうも周りの女子社員から疎まれている。話を聞いてみると、うーん、周りの言うこともわかるなあと」
たとえばサオリさんは、昔の仕事のやり方に執着しすぎる。「昔はこうだったの。このやり方がいちばんいいの」と押しつける。後輩が別の方法を示して、「こちらのほうが効率がいい」と言っても、「効率重視はかえって仕事の質を落とす」と言い張るのだそう。
「ケースバイケースだとは思うんです。彼女が言うように効率を重視するあまり、人間関係がうまくいかなくなることもある。でも、そもそも人間関係を重視するべきかどうかもわかりませんよね。私自身、信頼して育てていきたいと思っていた後輩が会社を辞めていくのも経験してきた。サオリさんや私は、どこかに愛社精神を残している世代だけど、今どきはそんなものどうでもいいと思っている人も少なくない。ひとつの会社にいればいいというものでもありませんしね。寂しいけど」
結局、ベテランたちがある種の価値観をアップデートしていかない限り、会社の未来もないのではないかとアヤコさんは危惧している。
本人に聞いてみると
アヤコさんは気になって、サオリさんを誘って食事に行き、いろいろ聞き出した。「サオリさんはスキルアップはきちんと図っている。今の社内の事情もわかっています。それでもあえて、“人との関係”を最優先させたいと考えている。なぜなら、それが仕事における最後の砦にもなるから、と。気持ちはわかる。でもそう考えていない人たちが多くなっていると私は言いました」
リモートワークが主体になっていた時期、アヤコさんは同僚と雑談したい思いが募っていた。だが、再び出社が当然になってくると、20代半ばの後輩は「会社に来るのが面倒くさすぎる」と退職していった。
「もちろん、それだけが原因ではないと思いますが、その人は結局、完全にリモートでできる仕事に転職したそうです。そういう若い世代がいることを私たちは認識する必要があるのかもしれません」
もうひとつ、サオリさんには「先輩の言うことを聞きなさい」という口癖があるとか。これは年齢の問題だけではなく、彼女の価値観によるところも大きいだろう。
「サオリさんは、もともと長幼の序を重んじるようなところがある。まじめで親の言うことを一生懸命聞いてきた“いい子”なんです。それがそのまま今も続いている。自分が上司や先輩の言うことを聞いてきたんだから、あなたたちも聞きなさい、聞くのが当然、目上の人が言うことに間違いはないと邪気なく信じているんです。そこはさすがに後輩の反発を招きますよね」
サオリさんといろいろ話して、アヤコさんは我が身を振り返ることを改めて学んだという。
「うちの営業部長は50代ですが、若い世代からとても愛されているんです。明るくて、後輩や部下からツッコまれても笑い飛ばすような性格。もちろん押しつけはしない。でも何かあったら庇ってくれる。そのくらい度量が大きくないと、今どきの上司はやっていけないのかもしれません」
さて、自分はどういう先輩や上司になれるのか。どこを目指せばいいのか。嫌われないようにするだけが生き残る道ではない。周りを活かして自分も活きる。そんな道を探りたい。
「世代の違いだけで片づけていい話でもないし、社内だけでのことでもないような気がするんです。どんなコミュニティや組織においても、いろいろ考えていかなければならないなと思っています」
多様な個人差と、組織や集団としてのまとまりをどう折り合わせていくのか。いつの時代も人々はその問題と向き合ってきたのかもしれない。