寿司

どこよりも詳しく「かっぱ寿司」田邊前社長の逮捕事件を解説。いま回転寿司業界に何が起こっているのか?(3ページ目)

「かっぱ寿司」の田邊公己前社長がはま寿司の営業秘密を不正に取得したとして、不正競争防止法違反の容疑で逮捕、起訴された。なぜこのような事件が引き起こされたのか、田邊前社長の略歴やかっぱ寿司の沿革、営業データの重要性などをもとに、回転寿司評論家が解説する。

米川 伸生

執筆者:米川 伸生

寿司ガイド

回転寿司業界の今後

おとり広告事件以降、業績が急降下中のスシローも、原点である「おいしさ」に立ち返り、真摯な営業努力を重ねればこの苦境を抜け出すことは可能であろう。業界の絶対王者とまでいわれた背景には、他社には真似のできない取り組みを行なっていたことにある。店舗内での鮮魚切りつけや有名寿司店とのコラボ商品などは恐ろしく手の込んだオペレーションが必要となり、ナショナルチェーンが行うにはリスクが高すぎる。

アルバイトでも寿司を製造できる手軽さからここまで多店舗展開をしてきた回転寿司業界の流れに逆行する動きを行なっているのがスシローであり、それがおいしさの評価へとつながっているのだ。おとり広告の件、偽装マグロの件など不祥事が続いてしまったが、現場と本部の関係を密にすればまた信頼は取り戻せるだろう。

では、かっぱ寿司はどうであろうか? スシローには「おいしさ」という揺るぎない柱があるのに対し、かっぱ寿司は何を強化し、何を訴えかけていけば良いのかが不透明。くら寿司には「エンターテイメント」という武器があり、はま寿司には平日一皿90円キャンペーンによる「安さ」という武器があった。値上げによってこの武器は失ったが、いまはゼンショーHDの企業力を生かした「肉寿司」を推している。これまで未開拓の商品分野に新たな可能性を感じる。

かっぱ寿司は元祖平日一皿90円キャンペーン(ランチ90)の成功者として、各社が軒並み値上げをする中、100円寿司のラインナップをこの10月から充実させると発表していた。こちらも原点である「安さ」に立ち戻ったわけだ。この差別化で一定数、他社からの客の流入が期待でき、それが新たな武器となって立て直しへとつながる目論見を立てていたことと思う。それが、今回の事件によって台無しに近い形になってしまった。もしも筆者が客だとしたら、どういうモチベーションでかっぱ寿司に行く気になるのかが分からない。しかもいまは耐えることができても、安さを武器に長くは戦えない。他社になく自社だけが持てる武器を見つけられるかが、かっぱ寿司の命運を決めることになるだろう。

特急レーンとタッチパネルの一早い導入と大型店舗化で業界トップにのし上がったかっぱ寿司。インパクトのあるイノベーションにすがるしかないのかもしれない。

【参考】
※1:2022年10月1日、NHK NEWS WEB(https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20221001/1000085455.html
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