体内のコラーゲンの増えすぎで起こる病気……膠原病、肺線維症など
息苦しさなどの症状が出る肺線維症。体内でコラーゲンが増えすぎることで起こる病気です
たとえば私たちがケガをすると、傷口がふさがった部分が硬く盛り上がって跡になってしまうことがありますね。これは、傷の修復過程でコラーゲンが作られるからです。具体的には、傷の部位で「線維芽細胞」というものがコラーゲンを産生・分泌することで、肉芽組織が作られ、瘢痕化して、弾力性が失われた硬い傷跡になります。コラーゲンの本来の役割は皮膚を守ったり修復したりすることですから、コラーゲンが増えた場所では、皮膚は柔らかくなるどころか、むしろ硬くなるのです。
また、体内のコラーゲンが増えすぎると、病気になることもあります。「膠原病(こうげんびょう)」という病名を聞いたことはありませんか?「膠原」はまさにコラーゲンのことですので、「コラーゲン病」と言い換えることもできます。コラーゲンの異常を伴う病気の総称ですので、強皮症や関節リウマチなどもこれに含まれます。
何らかの原因で皮膚や臓器の硬化が起こることを一般に「線維化」とも言いますが、この「線維化」もコラーゲンを含む膠原線維が過剰に増えた結果として起こるものです。肺で線維化が起きた場合は「肺線維症」、肝臓で線維化が起きた場合は「肝線維症」または「肝硬変」となります。いずれも、命に関わる重い病気です。
「美と健康のためにコラーゲンを増やすことが大切」と信じて疑わない人に、コラーゲンの役割や働きを正しく知っていただくために、今回は体内のコラーゲンが増えすぎて起こる病気の一つである「肺線維症」について解説しましょう。
肺線維症とは……過剰なコラーゲンによる命に関わる病気
肺は「肺胞」という小さな風船のような袋状の構造がたくさん集まってできており、私たちはこの肺胞の薄い壁を通して体内に酸素を取り込んでいます。何らかの原因でこの肺胞の壁に炎症や損傷が起こると、それを修復しようとしてコラーゲンが過剰に作られ、肺胞の壁がどんどん分厚く硬くなっていきます。これが「肺線維症」です。肺胞から体内に自然と酸素が取り込まれるのは、肺胞の壁がとても薄いからです。この壁がコラーゲンによってどんどん分厚くなってしまったら、酸素が通りにくくなります。また、私たちが胸の筋肉を動かしたときに、肺が膨らんだり縮んだりして呼吸ができるのは、肺胞が柔らかいからです。肺胞がコラーゲンによって線維化して硬くなってしまったら、呼吸しづらくなります。一度線維化してしまった肺は、元の柔軟な肺に戻ることはありません。
肺線維症の進行のスピードは患者さんによって大きく異なりますが、平均余命は診断後3~5年と言われています。中には急に悪化して2ヶ月以内に亡くなってしまう方もいらっしゃいます。ただし、今は「抗線維化薬」と分類される薬が開発されており、治療によって改善する方もいます。具体的には、「ピルフェニドン」と「ニンテダニブ」という2種類の薬で、線維芽細胞の増殖やコラーゲン産生を抑制すると考えられています。これらを使い分けて進行を遅らせることが、現在の主な治療法です。進行してからでは治すのが難しくなりますので、「早期発見」がカギを握ることは言うまでもありません。
コラーゲン入りのサプリメントは危険? 害はないが、効果も薄い
「えっ! じゃあコラーゲンのサプリメントやドリンクはすぐに止めた方がいいの?」と思われた方もいるでしょう。
しかし、ご安心ください。これだけ市場にたくさんのコラーゲン関連のサプリメントなどが出回っているにもかかわらず、それによって肺線維症や肝硬変になってしまったという話は聞いたことがないのではないでしょうか。この状況を考えると、サプリや飲食物から適量を摂る分には、おそらく大丈夫です。
一方でよく考えてみると、この事実は、コラーゲン入りの製品を一生懸命飲食しても、体内のコラーゲンをそれほど増やすことはできていないことの証明にもなるかもしれません。個人的には、今まで利用していなかった方は、科学的にあまり意味がなさそうなものに手を出す必要はないと思います。もしこれまで利用してきて気に入っているという方は、害はないと思いますので、「お守り」のつもりで続ける分にはよいかもしれません。