食生活・栄養知識

糖質ゼロとは何か?主な糖質の種類・特徴・炭水化物との関係

【薬学博士・大学教授が解説】「糖質ゼロ」と書かれた食品やビールは何となく健康的なイメージがあると思いますが、そもそも「糖質」とは何でしょうか? 糖質と炭水化物については、科学領域と栄養学分野では少し捉え方が異なるようです。主な糖質の種類と特徴についてわかりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

「糖質ゼロ」とは? 炭水化物が入っているのになぜ糖質ゼロなのか 

糖質ゼロビールのイメージ

糖質ゼロ表記のビールや食品が人気のようです。健康的なイメージがありますが、実際にはどのようなものでしょうか?

最近は、健康志向の高まりから、「糖質ゼロ」の飲食品が増えています。とくに清涼飲料水は糖質含量が多く、カロリー制限したい人にとっては大敵です。しかし飲んだときの爽快感がやめられないという人も多いので、糖質をカットした「ダイエット○○○」や「○○○ゼロ」といった炭酸飲料は救世主的な存在になっているようです。他にも、糖質ゼロのビール、ゼリー、お酢、ハムやベーコンまで登場しています。さらには、糖質ゼロ麺まで開発され、糖質ゼロと表示された即席麺まで売られています。糖質ゼロブームはどこまで広がるのでしょうか。
 
ただ、ちょっと待ってください。「糖質ゼロ」と聞くと漠然と体にいい感じがすると思いますが、何がゼロなのか正しく理解できている人は少ないかもしれません。
 
私自身もたまに、糖質ゼロ・カロリーゼロのゼリーをおいしく食べていますが、外装の成分表示を見てみると「100gあたり炭水化物9.8g」のように書かれています。一般に、糖質と炭水化物は同じものをさしますから、「炭水化物が入っているのに、なぜ糖質ゼロ表記?」という疑問が湧いてきます。
 
そもそも糖質とは何でしょうか。また糖質と炭水化物の関係はどうなっているのでしょうか。「糖質」という言葉を正しく理解し、「糖質ゼロ」製品とどう向き合えばいいのかを考えていただけたらと思います。
 

糖質とは……漢字のなりたちと化学的定義

「糖質」は、「糖」のような性質をもった物質の総称です。では、そもそも「糖」とは何でしょうか? 漢字には「読めなくても字形から意味がわかる」という特徴がありますので、「糖」という漢字から見てみましょう。
 
「糖」は、こめへん(米)の右に、「家屋の中で杵を両手で持ち上げてある場所にたたきつけるようにして何かを突き固めている様子」を表す「唐」が組み合わされてできた漢字で、米を水と混ぜながら突き固めてできる「あめ(飴)」を意味するそうです。つまり、漢字の成り立ちから考えると、「糖質」とは「あめのようなもの」です。
 
また、その昔の「糖」は、おそらく主に「砂糖」や「蔗糖」をさしていたと思われますが、世界的には紀元前からサトウキビを栽培して、砂糖を製造していたという記録があります。日本に砂糖が伝わったのは、754年に来朝した鑑真が持ってきたというのが通説です。鑑真の積荷のリストに「石蜜」「蔗糖」とあり、「石蜜」は氷砂糖、「蔗糖」は黒砂糖だとされています。いずれにしても、「糖」の文字が使われていた時代に、まだその実体は分かっていなかったというのは間違いありません。

その後、近代科学によって糖の研究が行われ、少し専門的になりますが、「糖とは、多価アルコールの最初の酸化生成物であり、ホルミル基 (−CHO) または カルボニル基 (>C=O) を一つ持つ化合物」と明確に定義されました。ちなみに、ホルミル基を持つ糖はアルドース(aldose)、カルボニル基を持つ糖はケトース(ketose)と分類されます。
 
この明確な糖の定義に従って、よく耳にする具体的な糖の種類と特徴をいくつかご紹介しましょう。
 

代表的な単糖の種類……グルコース・ガラクトース・フルクトース

代表的な単糖として、グルコース・ガラクトース・フルクトースが挙げられます。

■グルコース(ブドウ糖
グルコース(glucose、ブドウ糖)は、分子式 C6H12O6で表される単糖(アルドース)です。その英名は、「甘い」を意味するギリシャ語の「glykys (グリキス)」に由来しています。ちなみに、お菓子の「グリコ」も同じ語源です。また、ドイツの化学者が1747年に干しブドウ(レーズン)から初めて単離したことから、和名では「ブドウ糖」と呼ばれています。私たちが、植物に貯蔵された多糖のデンプンを食べたときに、消化管内で分解されて最終的に体内に吸収されるときの形が、このグルコースです。私たちが活動するために必要なエネルギー源となる栄養素として利用されています。ただし、糖尿病で問題になる「血糖値」は、血液中のグルコース濃度のことですから、糖尿病の方が糖質制限をするときには、まさにこのグルコースの摂取量を減らすことが求められているのです。
 
■ガラクトース
ガラクトース(galactose)は、グルコースと同じ分子式 C6H12O6で表される単糖(アルドース)ですが、化学構造が少しだけグルコースとは異なっています。乳製品に入っていることから、「乳」を意味するギリシャ語の「galaktos」から命名されたそうです。ちなみに、宇宙の「銀河」のことを英語でgalaxyと言いますが、これもギリシャ語のgalaに由来しています。「銀河」は別名milky wayとも言いますが、galaxy自体が「ミルクのようなもの」という意味なのです。また、乳に関係する糖だから、和名で「乳糖」と呼びたくなりますが、そうは呼ばれません。「乳糖」は、後述する別の二糖のことをさすので、間違えないように注意してください。残念ながら、ガラクトースに和名はありません。
 
■フルクトース(果糖)
フルクトース(fructose、果糖)も、分子式C6H12O6で表される単糖ですが、ケトースの一種であるという点で、グルコースやフルクトースとは異なります。ハチミツや果汁などに多く含まれています。その英名は、まさにフルーツ(果実)を意味するラテン語の「fructus」に由来しています。それに対応して、和名は「果糖」です。フルクトースは、体内で脂肪に変わりやすい特徴があり、摂り過ぎると健康を害する可能性があります。甘味がグルコースの2倍あり、清涼飲料水や加工食品の甘味成分として添加されていることが多く、糖質制限の観点からは最も要注意の糖と言えるでしょう。
 

代表的な二糖の種類……マルトース・ラクトース

代表的な二糖は、マルトースとラクトースです。

■マルトース(麦芽糖)
少し専門的ですが、単糖2分子が結合して1分子となったものを二糖といいます。その代表は、グルコース(ブドウ糖)2つがα-1,4-グリコシド結合という形でつながり、分子式C12H22O11で表されるマルトース(maltose、麦芽糖)です。その名は、「モルト」(malt、麦芽)に多く含まれることに由来します。大麦の種子中には、不活性のアミラーゼが多量に含まれており、これが発芽によって活性化されると、種子中のデンプンが分解されてマルトース(麦芽糖)が生成されるのです。モルトは、ビールの原料としても有名ですね。

■ラクトース(乳糖)
他の二糖としては、ガラクトースとグルコースがつながったラクトース(lactose、乳糖)や、グルコースとフルクトースがつながったスクロース(sucrose、蔗糖、ショ糖)などがあります。ラクトースは、人や牛を含む哺乳類の乳汁に豊富に含まれており、その名は「乳」を意味するラテン語「lac(lacto)」に由来します。スクロースは、砂糖の主成分で、テンサイやサトウキビなどから得られ、その名はずばり「砂糖」を意味するフランス語「sucre」に由来します。
 

代表的な多糖の種類……デンプンなど

■デンプン
たくさんの単糖がグリコシド結合によりつながったものを、一般に多糖といいます。その代表は、多数のグルコースがグリコシド結合によってつながり、分子式 (C6H10O5) nで表されるデンプン(澱粉、ラテン語: amylum 、 英語: starch)です。陸上植物が光合成によって作り出したグルコースを貯蔵しておくための一形態であり、植物の根・茎・種子に多く含まれています。

私たちが食物から摂取したデンプンは、唾液や膵液に含まれる消化酵素のアミラーゼによって、上述した二糖のマルターゼ(麦芽糖)に分解され、さらに小腸に存在するグルコシダーゼによって単糖のグルコース(ブドウ糖)にまで分解されて体内に吸収されていきます。

■セルロース
セルロース (cellulose) は、植物細胞の細胞壁および植物繊維の主成分です。多数のグルコースがグリコシド結合によりつながったもので、デンプンと同じ分子式 (C6H10O5)nで表されますが、立体構造が異なるため、ヒトの消化酵素では分解されません。そのため、野菜や果物、穀物類から摂取されるセルロースは、不溶性の「食物繊維」として整腸作用などを示します。

ちなみに、セルロースは、一部が腸内細菌によって分解され、生成したグルコースが体内に吸収されてエネルギーとしても利用されます。デンプンは100gで約400kcalのエネルギーを産生するのに対して、食物繊維のセルロースは100gで0~200kcal(一定ではない)であると考えられています。食物繊維は必ずしも「カロリーゼロ」ではないのです。

もう一つ有名な食物繊維として、グルコマンナン(glucomannan)があります。グルコースとマンノース(mannose)がおよそ2:3の割合でグリコシド結合したもので、コンニャクの主成分であるため、別名「コンニャクマンナン」とも呼ばれています。ヒトの消化酵素では分解されず、また胃の中で水を吸って何十倍にも膨れるため、糖質制限や便秘解消に良いと言われています。カロリーは「ほぼゼロ」(100gで20kcal程度)とみなしてよいでしょう。
 

炭水化物とは? 科学領域と栄養学分野で実は異なる捉え方

上で紹介した糖類は、すべて分子式が「CmH2nOn」で表されるものです。これはCm(H2O)n と読み取ることができ、「炭素に水が結合した物質」のように見えるため、「炭水化物」とも呼ばれるようになりました。しかし、後に関連する化合物(糖の誘導体など)も含めた総称となり、分子式がCm(H2O)nとならないものもあります。

化学および生物学など多くの科学領域では、炭水化物と糖質は物質として同等なので、同じものとして扱われます。百科事典など調べても、「炭水化物または糖質は、単糖を構成成分とする有機化合物の総称である」「糖質とは炭水化物のこと」などと説明されているものが多いです。

ところが、栄養学の分野では、食物として体内に取り入れられエネルギー源となるものに限って「糖質」(たとえば、グルコースやデンプン)と呼び、炭水化物でありながら体内の消化酵素では消化できないものは「食物繊維」(たとえば、セルロースやグルコマンナン)と区別するよう提唱されています。栄養になるかならないかに重きをおく学問分野ならではの考え方なのでしょう。

栄養学では、私たちが食べものとして摂取する三大栄養素を「炭水化物、タンパク質、脂肪」と説明していますが、ここで言う炭水化物は、実際のところ、栄養源として利用される(カロリーがある)「糖質」に限られることになり、炭水化物すべてをさしているわけではないでしょう。ですので、栄養学において「炭水化物=糖質+食物繊維」と扱うのでしたら、三大栄養素は「糖質、タンパク質、脂肪」と言うべきだと私は思います。学問領域による違いを整理しないと、このような表示を見た時に、多くの消費者は混乱してしまうのではないでしょうか。
 

表示だけを鵜呑みにせず、成分表示のチェックも大切

このように「糖質」「炭水化物」という言葉は、実は非常にあいまいに使われているのが現状です。

何となく漠然としたイメージだけで表示を鵜呑みにするのではなく、たまには成分表示にも少し目を向けてみるとよいかもしれません。具体的にどんな物質が入っていて何が入っていないのかが分かると、自分に本当にあった商品選びのポイントがつかめてくると思います。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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