小学生で大麻所持も……タバコ・飲酒経験と薬物事犯の関係
大麻所持で逮捕される青少年は、喫煙や飲酒経験がある割合が高いという報告があります
同じように煙を吸うタバコと大麻(マリファナ)は、こうした少年たちにとっては、似たものなのかもしれません。
また、アメリカの高校3年生を対象にしたある研究調査によると、一度でも飲酒経験のある生徒は、ない生徒に比べて、その後にタバコやマリファナ、その他麻薬にも手を出してしまう確率が13~16倍も高かったというデータがあります。研究チームは、「アルコール飲料を飲み始める年齢を遅らせることができれば、他の違法薬物を使用する確率が下がることが期待できる」と提案しています。
将来を担う子どもたちが薬物問題で困らないようにするためには、教育が非常に重要です。最近では、セミナーを開催するなどして、薬物乱用防止のための啓蒙活動を行っている小中学校も増え、ある程度の成果はあげつつあるようです。「子どもにわざわざ薬物のことを教える必要はない」という意見もあるようですが、一番怖いのは、知らないで罠にはまってしまうことです。そうならないためには、できるだけ早く正しい知識を身につけておくことは大切です。
タバコと大麻はどちらが有害? 大麻の危険性が強調されているが……
「オーバードーズとは…社会問題化する市販薬の過剰摂取と問題点」でも解説したように、日本では「ダメ。ゼッタイ。」というスローガンを掲げ、薬物乱用防止のための啓蒙活動が行われてきました。この活動が一定の成果をあげていることは評価できます。ときどき薬物事犯のニュースが報道されることはありますが、その数は欧米に比べると圧倒的に少なく、日本は世界でも珍しいくらいクリーンな国だと誇ってもいいでしょう。ご尽力くださっている関係者の皆様に、この場を借りて御礼を申し上げたいと思います。
ただし、こうした薬物乱用防止キャンペーンに関連して、筆者が少々気がかりな点があるので、お話ししておきたいと思います。
たとえば、関西圏の未成年に広がる大麻汚染に対して、京都府警では「STOP!大麻!」キャンペーンを展開し、その一環として、京都府内の中高生を対象に「違法薬物に関するアンケート調査」を実施しておられます。その結果が「少年の非行・被害防止」のページで公開されていますので、興味のある方は是非ご覧ください。
このアンケート調査中に「たばこと大麻、脳の成長に害があるのは?」という質問項目があり、中高生いずれも80%近くが「大麻」と答え、20%近くが「たばこ」もしくは「わからない」と答えています。また、この結果を受けて、警察は「5人に1人が大麻の害を誤って認識している」と分析・結論付けているようです。
ちなみに、このアンケート調査の質問項目は、数年前まで「たばこと大麻、害が大きいのはどちらか」という内容でした。おそらく「害が大きい」が何をさしているのかが不明なので、より具体的に「脳の成長に」という説明を加えたものと思われます。
参考までに、数年前まで配布されていた「STOP!大麻!」キャンペーンの別資料には、「大麻はたばこより依存性が強く有害です」と明言した記述がありました。警察としては、「大麻はたばこより有害」と答えるのが正解で、そう覚えておきなさいとおっしゃりたいようです。実は筆者は、このアンケート調査には強い違和感を抱いていますので、薬学的な観点から補足したいと思います。
薬物の危険性比較は無意味! 子どもに伝えるべきは乱用の根本的な問題
薬学的にみると、マリファナもタバコも有害であることに変わりなく、どちらがどうということはありません。むしろ依存性という点では、タバコ(ニコチン)の方が強いという研究結果の方が多いです。上述のアンケート内で「害」という言葉がどういった意味合いで使われているのかはわかりませんが、警察によるアンケートですから、もしかしたら「犯罪に関わること=害」という考えによっている可能性もあります。「少なくとも成人なら認められているタバコよりも、完全に違法なマリファナの方が、関わると危ないよ」と伝えたいのかもしれません。
しかし、もし本当に子どもたちの健康を考えているならば、違法か合法は関係なく、「どちらも有害」と教えるべきではないでしょうか。それを、「タバコは大麻ほど害がない」と受け取れてしまうような指導は間違っていると筆者は思います。タバコと比べるのではなく、大麻そのものの有害性をきちんと教えればいいだけのことです。
また、学校で行われる薬物乱用防止に関する講演や学習プログラムで取り上げられるのは、覚醒剤が中心で、マリファナの説明は少ないようです。さらに酒やタバコの話はほぼゼロのようです。「違法ではないから説明しなくてもよい」と考えているのなら、認識不足を反省すべきだと思います。
子どもたちの教育において重要なのは、どんな薬物が危険かを伝えることではありません。どんなものにでも依存してしまう、「人間の心理」を理解させることです。
あまり目にすることのない薬物以上に、身近なところにある酒やタバコの話をした方が、よっぽどリアリティーがあります。
単に「違法だから」「逮捕されるから」という無意味な脅しは止めて、「なぜ未成年は飲酒が禁止されているか?」「飲酒して悪いことをする人がいるのに、どうして大人の飲酒は禁止されていないのか?」「親がタバコを吸っているのに、自分たちはどうして吸ったらいけないの?」といった子どもたちの率直な疑問に、きちんと向き合って議論していくことは、大きな学習効果をもたらし、本当の意味での薬物乱用防止につながると思います。