依存症

大麻が神社で1000円?違法なマリファナだけではない「大麻」の意味

【薬学博士・麻薬研究者が解説】「今、大麻をもっています」と言われたら、ほとんどの人が違法なものを連想して驚いてしまうでしょう。しかし実は「大麻」は神社のお札や、ただの植物としての「大麻草」を指す言葉でもあり、ややこしいのです。「大麻」の意味と、誤解を招かない呼び分けをご紹介します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

大麻=違法な薬物だけではない? 意外な場所の「大麻」

神社で大麻(たいま・おおぬさ)?

神社の授与所で見つけた「大麻」の文字。もちろんあの「大麻」とは別のものです

「大きな麻(あさ)」と書いて「たいま」と読みますが、この言葉には実は色々な意味があり、少々厄介です。突然筆者が「大麻をもっています」と言ったら、ほとんどの人が「違法な薬物」を連想してびっくりするでしょうが、必ずしもそうとは限りません。「大麻」に関する誤解や混乱が生じている主な原因は、この言葉の複雑さと、多くの人が何を指しているか意識しないでいい加減に使っていることにあるように思います。

信頼できる情報源としてよく利用される『広辞苑』(岩波書店)で「大麻」の意味を調べると、こう書いてあります。

たいま【大麻】
① 伊勢神宮および諸社から授与するお札
② 幣(ぬさ)の尊敬語。おおぬさ。
③ 麻(あさ)の別称
④ アサから製した麻薬。栽培種の花序からとったものをガンジャ、野性の花序や葉からとったものをマリファナ、雌株の花序と上部の葉から分泌される樹脂を粉にしたものをハシシュといい、総称して大麻という。喫煙すると、多幸感・解放感があり、幻覚・妄想・興奮を来す。

要するに、
・神事に関わる道具としての「大麻」(①と②)
・植物としての「大麻」(③)
・薬物としての「大麻」(④)
の大きく3つの異なる意味があるのです。それぞれの意味を見てみましょう。
 

神社で大麻1000円? 神事に関わる「大麻」

初詣や合格祈願などで神社に行ったときに、社務所に立ち寄ってみてください。どこかに「大麻 1000円」といった表示が見つかるはずです。「えっ、神社が大麻を堂々と売っているの?」と驚くかもしれませんが、この場合の「大麻」は、お神札(おふだ)のことを意味しています。当然ながら、決して神社が薬物の密売をしているわけではありません。

神道では、木の棒の先にたくさんの紙垂をつけた道具を使い、人や物の前で左右に振ってお祓いをします。この道具が「幣(ぬさ)」であり、「ぬさ」を称賛して「おおぬさ」とも言います。「おおぬさ」を作るのに、昔は主に麻の繊維が使われていたので、「大麻」と漢字をあてて「おおぬさ」と呼ぶようになりました。今では「麻」という漢字は「ま」と発音するのが一般的なので、いつしか「たいま」と言うようになったのです。これが広辞苑にでていた②の意味の成り立ちです。
 
また、平安時代の末期には、多くの人々が伊勢神宮をお参りするようになっていましたが、全国各地にも信仰を広めるため、伊勢神宮の神職員である「御師(おし・おんし)」と呼ばれる人々が、全国津々浦々に赴いて御祈祷を行いました。このとき、「おおぬさ」を使ってお祓いをしたお神札を配ったことから、これを「御祓大麻(おはらいおおぬさ)」と呼ぶようになりました。

そして、伊勢神宮での祈祷を経て頒布されるお神札を「神宮大麻(じんぐうたいま)」、あるいは単に「大麻(たいま)」と呼ぶようになったのです。
 
江戸時代後期には、全国の約9割もの世帯が「神宮大麻」を受けていたとの記録もあり、当時の人々にとって「大麻」と言えば、広辞苑にでていた①の意味(お神札)が最も馴染み深かったに違いありません。
 
なお、神宮大麻は、現在も、伊勢神宮をはじめ全国の神社で頒布されています。しかし、今は「大麻」と言えば「違法な薬物」を連想する人が圧倒的に多いため、神宮大麻が配りづらくなっているそうです。このため、神社界には、違法な薬物としての「大麻」の名称を改めてほしい、大麻取締法という法律名を変えてほしいという要望があるそうです。
 

 植物としての「大麻」…大麻草は栽培等が法律で規制されている

「大麻」という言葉にはいろいろな意味がありますが、おそらく人間よりも前からこの地球上に存在したであろう「アサ」という植物が、すべての起源であることはほぼ疑いがないでしょう。

植物の「アサ」は、西アジアから中央アジアにかけての地域を原産地としますが、非常に繁殖力が強く、今では日本を含め世界中に広く分布しています。肥料や農薬を使わなくてもどんどん育つので、かなり古くから人々はアサを栽培し、生活に利用していたようです。

日本でも、福井県の鳥浜貝塚(縄文時代草創期から前期にかけて、今から約12000~5000年前の集落遺跡落)から、人々が栽培していたとみられるアサの種が発見されています。

特にアサの茎をはぐと丈夫な繊維がとれるので、衣服や袋などを作るのに利用されるようになりました。先に解説したように、神事に使う「ぬさ」を作るのにも利用されました。皮をはがれた残りの茎の心材は、「おがら」とも呼ばれ、工芸品や燃料などに使われます。

また、実からとれる油は食用、燃料などさまざまな用途に使われるほか、実をそのまま食べることもできます。今も七味唐辛子に入っている「麻の実」は、アサの実そのものです(参考記事:「七味唐辛子の中身の「麻の実」が大麻取締法に触れない理由」)。栄養豊富で、鳥や小動物の餌としても使われています。アサは、人間にとって非常に身近な作物だったのです。
大麻,アサ,漢字

戦前まで用いられていた「アサ」を意味する漢字



ちなみに、アサの漢字は、今では「麻」と書くことになっていますが、昔は右のような文字が使われていました。部首の『广(まだれ)』は、床・店・庫・廊などの漢字にも使われていることから分かるように、建物や屋根を表します。

また、まだれの中に入っている字形は、林(はやし)とはまったく関係なく、アサの茎をならべて繊維をはぎとる様子を表しています。

そして、この漢字が「麻」に変わったのは、第二次世界大戦後のことです。戦前に使用されていた漢字を整理し、日常的に使用する数を減らそうという試みの中で、「書きやすさ」を優先して変えられてしまったのです。実はこの措置が、その後の混乱を生み出したのです。
 
さて、単に「アサ」と呼ばれていた植物が、今ではなぜ「大麻」と呼ばれるようになったのでしょうか。

麻繊維の原材料としては、アサが元祖でしたが、その後、アサと同じように丈夫な繊維がとれる他の植物も利用されるようになり、それらの植物は「苧麻(チョマ)」、「亜麻(アマ)」などと呼ばれました。つまり、元々固有の植物を指していた言葉が、繊維利用される植物全般あるいはその繊維類を意味するようになっていったのです。

『広辞苑』を引くと、こう書いてあります。

あさ【麻】
① ㋐ 大麻、苧麻、黄麻、亜麻、マニラア麻などの総称。またこれらの原料から製した繊維。(以下省略)
 ㋑ アサ科の一年草。中央アジア原産とされる繊維作物。(以下省略)

 「麻」だけでは、植物と繊維のどちらを指しているか、植物ならどの麻を指しているのかも、よくわからなくなってしまったのです。そこで、元祖「アサ」は、早く大きく成長する特徴から、特に「大麻(おおあさ・たいま)」と区別して呼ばれるようになった言われています。

しかし、厄介なことに、「大麻」だと、「神札」や「薬物」を意味することもあるので、植物そのものに対して「大麻」という言葉は使わないほうが良いと筆者は思います。

植物そのものを指す言葉としては、「草」をつけて「大麻草(たいまそう)」という呼び方が考案されています。いまだに植物学の世界でも、「アサ」「大麻」という呼称も使われているようですが、元祖アサの植物そのものを指すときには、混乱を避けるために「大麻草」と呼ぶよう統一すべきでしょう。

なお、大麻草そのものが危険なわけではありませんが、大麻草から「乾燥大麻」(いわゆるマリファナ)などが製造され、薬物の一種として利用されることがあるため、大麻草は法律で規制されています。詳しくは、この後、薬物としての「大麻」と合わせて解説します。
 

「大麻取締法」で規制される薬物としての「大麻」(マリファナ)

『神農本草経』は、後漢から三国時代(紀元100~200年ごろ)に作られた中国最古の本草学書で、伝説の皇帝「神農」が自ら試した植物や薬草の効果をまとめたものとされています。その中には、上品(生命を養う目的の薬)の一つとして、「麻賁」(マフン:大麻草の花)と「麻子」(マシ:大麻草の実)が収載されています。かなり古くから、大麻草は薬の原料植物としても注目されていたようです。

わが国で、薬としての「大麻」という言葉が正式に登場した書物としては、『日本薬局方』があります。「方」の漢字が使われているように、法律ではなく、その時代によく使用される医薬品の品質を適正に保証するために、薬剤の標準的な調合法や処方などを記した解説書です。

初版の日本薬局方(第一局方)は、ドイツの薬局方を参考に作られ、1886(明治19)年に公布されましたが、その中に「印度大麻草」および「印度大麻越幾斯(エキス)」が収載され、その後、第5改正日本薬局方(1932~1951年)まで収載されていました。
  
ここで注目したいのは、「大麻草」が、植物全体を指していない点です。日本薬局方に収載された「印度大麻草」は、インド北部で採取される品種の大麻草の雌株の花穂部分を指しており、そこから生じる樹脂には特有の香りがあって、それを嗅ぐと酔ったようになると解説しています。今で言う「マリファナ」の原料に相当するものです。

また、「印度大麻エキス」は、印度大麻草(主に花穂部分)を加工して薬効成分を濃縮した製剤です。「大麻草」と「大麻」の使い分けにまだ混乱が見られるものの、薬として効くものを「大麻」と呼ぼうと国が決めたわけです。

しかし、1915~1919年(大正4~8年)に編纂された戦前の代表的辞書である『大日本國語辭典』(金港堂書籍)には、薬物としての「大麻」という意味は、載っていません。1886年に日本薬局方が公布され「大麻」という用語を国が定めたにもかかわらず、どうして一般には認知されていなかったのでしょうか。

実は、初版の日本薬局方は、主にオランダの薬学者であるアントン・ヨハネス・コルネリス・ゲールツ(Anton Johannes Cornelis Geerts)博士が草案を書きました。当時「欧米の先進国に追いつけ追いこせ」の明治政府としては、近代の薬事行政の形を整えるべく、ゲールツ博士の用意したオランダ語版の内容を吟味することなく、そのまま日本語に訳しただけと言われています。

一方、日本で古来から繊維などの産業用として栽培していた大麻草は、日本薬局方で解説されていたような「麻酔性」を示す成分が少ない品種で、おそらく医薬品として利用できるものではありませんでした。海外で扱われていた「印度大麻(草)」という医薬品が、翻訳過程でそのまま収載されてしまっただけ(悪く言えば、“パクリ”)で、日本では普及していなかったものと思われます。

明治末期から昭和初期には、内服で鎮痛薬や催眠剤として、外服で巻煙草にして喘息薬として用いられたこともありますが、薬としての「大麻」は、それほど利用価値が高いものでもなく、広く普及するには至らなかったようです。結局、1951(昭和26)年の第六改正日本薬局方において削除され、それ以後収載されていません。

法律で、はっきりと「大麻」という言葉が定義され、私たち日本人にとっても、薬の一つだと認知されるようになったのは、実際のところ、

・「大麻取締法」(昭和23年7月10日法律第124号)

ができてからでしょう。

「大麻取締法」の冒頭には、「大麻」という言葉の定義がこう記されていました。

第一条 この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。


現在の規制薬物としての「大麻」を定義する、重要な一文ですが、少々わかりにくいので、要約しますと……

・学名カンナビス・サティバ・エルという植物の全体を「大麻草」と呼ぶ。
・法律で規制対象とする「大麻」に相当するのは、大麻草の成熟した茎並びに種子を除いた部分、つまり葉と花穂の部分そのものと、葉と花穂を加工して作られた製品(抽出により得られる化学成分も含む)のこと。
・大麻草の成熟した茎そのものは「大麻」ではないが、茎を加工して作った樹脂(成分が濃縮されたもの)は「大麻」に該当する。
・大麻草の種子を使った製品は「大麻」ではない。

なお、2023年12月6日に大麻取締法を改正する法案が国会で可決・成立し、2024年12月12日から実際に施行されました。これにより、大麻取締法は

・「大麻草の栽培の規制に関する法律」(昭和23年7月10日法律第124号)

に変わりました。この中では、「大麻草」と「大麻」が次のように定義されています。

第二条 この法律で「大麻草」とは、カンナビス・サティバ・リンネをいう。
2 この法律で「大麻」とは、大麻草(その種子及び成熟した茎を除く。)及びその製品(大麻草としての形状を有しないものを除く。)をいう。

これまでと大きく変わるのは、大麻草から抽出される成分(薬としての効果を示す化学物質)は、「大麻」から除外される点です。また、これとあわせて、「麻薬及び向精神薬取締法」という別の法律も改正され、その中で新たに「大麻」は「麻薬」の一つと定義されることになりました。したがって、これからは、「大麻草」という植物の種子及び成熟した茎を除いた部分と、その部位を原料にして製造される「乾燥大麻」や抽出される一部の化合物(幻覚作用を示すTHCと呼ばれる物質)が、「麻薬」として厳しく規制されることを申し添えておきます。

いずれにしても、歴史的な言葉の成り立ちから考えると、薬物としての「大麻」は、明らかに“新参者”です。いろいろな意味で使われる「大麻」の混乱をなくすなら、“新参者”が譲るべきではないかと筆者は思います。

薬物を意味する「大麻」の代用になる言葉の一つに、「マリファナ(Marijuana)」があります。メキシコで、野草として自生していた大麻草の葉や花穂を乾燥させたもの(いわゆる「乾燥大麻」)をタバコのようにまいて喫煙する風習が生まれ、スペイン語で「安いタバコ」を意味する「マリファナ」が通称になったとされています。

スペイン語で「ともに酔わせる」を意味するMariguana、もしくはポルトガル語で「中毒」を意味するMariguangoに由来するという説もあります。

大麻草から作られる他の製品には、「大麻樹脂」(大麻草の花穂や先端部の葉から出てくる樹液を固めたもの。「ハシシュ(Hashish)」または「ハッシッシ」とも言う)や、「チャラス(Charas)」(手もみによって作られる大麻樹脂)などもあるが、世界で押収される製品のおよそ80%が乾燥大麻であることから、「マリファナ」という呼称が、最も認知度が高いようです。

ちなみに、薬物関連の国際条約では、薬物としての「大麻」をCannabis、大麻草をCannabis plantと称しています。これに合わせて、日本でも大麻を、「カンナビス」とか「カナビス」と呼ぶ人もいますが、あまり聞き慣れないので、ピンとこない人の方が多いに違いありません。

混乱を避けるために、筆者が各所で薬物としての「大麻」を指すときには、できるだけ「マリファナ」という言葉を代用することにしていますが、薬物事犯が報道されるたびに「大麻」という言葉が使われている現状では、使い分けが非常に難しいと感じています。

たかが言葉、されど言葉。それが何を意味するのかきちんと定義することはとても重要ですし、その区別ができるようになるだけで、「大麻」に対する理解は飛躍的に向上することでしょう。
できるだけ多くの方が、「大麻」という言葉に複数の意味があることを知り、場面に応じて使い分けられるようになることを願います。 

大麻に関する正しい知識を深めたい方は、ぜひ筆者の著書『大麻大全』(武蔵野大学出版会)をお読みください。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
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