発達障害の子育ての難しさ
子どもが生まれたからといって、すぐに親になれる人はまずいないでしょう。ましてや、子どもが「ちょっと普通の子と違うのではないか」と気づいたとき、親としてどう対応していけばいいのか、悩めるところです。今回は、発達障害の子を「厳しく育てること」「受け入れて育てること」、それぞれのメリット・デメリットについてお伝えしたいと思います。
端的にいうと、「厳しく躾ける」か「手伝う」か。当事者や、その保護者の話を聞いていると、いずれかの傾向があるようです。
筆者は、50歳になってから発達障害ADHD(注意欠如・多動症)と診断されました。しかし、私たちの子ども時代は、発達障害という診断名もなく、配慮されるより厳しく育てられることが多い時代でもあったと思います。
現在、20代後半の筆者の長女も発達障害ADHDです。彼女の小さいころにも、やはり発達障害という言葉はあまり聞かれませんでした。私は、海外の書籍から発達障害という言葉を知り、その後も、書籍やネット上の情報を参考にしつつ、保育士としての直観で彼女の個性を重視して育ててきました。
そんな私の周囲には、なぜか20~30代の発達障害当事者がたくさんいて、この10年ほど、さまざまな形でサポートをしてきました。彼ら彼女らからは「できないことを親が手伝ってくれていた」という話をわりとよく聞きます。当事者の保護者の方と繋がるケースも多いのですが、同世代の保護者の方からも「手伝ってしまう」とよく聞きます。自身が厳しくされてきた人が多い世代なのかもしれません。
こうした、当事者の子育て経験、当事者のサポート経験、そして、当事者から見た見解をお伝えします。
発達障害には、ASD(自閉症スペクトラム)の特性と、ADHD(注意欠如・多動症)の特性、2本の大きな柱があります。どちらが多いかで診断名がつきますが、実は、そのどちらの特性も持ち合わせているといわれています。詳細は、臨床心理士や精神科医など専門家の情報をご参照ください。
発達障害ASDの子の傾向、ADHDの子の傾向
発達障害を持つ子の特性の事例を挙げます。(ASDの子の傾向)
・他の子と関わって遊ぼうとしない
・表情が乏しいので、楽しいのかどうかわからない
・こだわりが強く、思い通りにならないと癇癪(かんしゃく) を起こす
(ADHDの子の傾向)
・先生の話を聞かずに一人だけ走り回る
・お店の商品などを次々に触ってしまう
・忘れものが多く、机やカバンの中が片づけられない
ASDの子を持つ場合、親は「ちゃんと関わってやっていないのではないか」、ADHDの子を持つ場合、親は「躾ができていない」と周囲に責められがちです。
「厳しく育てること」のメリット・デメリット
「普通の子」として育てようと厳しくすることには、どんなメリット・デメリットがあるのでしょうか。(メリット)
・自分の特性の「短所の面」について自覚することができる
・世間一般の常識を知ることができる(客観視への一歩)
・どうすれば乗り越えられるかの工夫や努力を早くから重ねることができる
(デメリット)
・「短所」を叱られ続け「長所」に気づきにくく、自己肯定感は低め
・自分の感情やペースを尊重してくれなかったことで大人への不信感が残る
・人に甘えず自分でなんとかしなければと抱え込みがち
親から欠点を指摘されることで自分を客観視して、早くから努力したり工夫を凝らしたり、試行錯誤と小さな成功体験ができているかもしれません。
その結果、「自己効力感」「自己有用感」を得られる可能性もあります。ただ、根本的な「自己肯定感」については周囲からの評価ほどには感じられない人が多いようです。これは世間一般に通じることでしょう。
「受け入れてサポートして育てる」ことのメリット・デメリット
発達障害と知っていても知らなくても、子どもが「できないこと」は、親としては気になりますよね。受容しようとした結果、つい「手伝って」育ててしまいます。20~30代の当事者の話では、叱られつつも親が手伝ってくれていたという話をよく聞きます。そのため「失敗から立ち直る」という経験が少ないように感じます。
(メリット)
・自分の特性を長所として捉えることができる
・自己肯定感が育ち芸術的な自己表現を素直にできる
・人に頼ったり甘えたりできる
(デメリット)
・社会や大人に対する甘えが残っている
・人に歩み寄ることや、特性をごまかしたり生かしたりの試行錯誤の経験が少ない
・自己を客観視できておらず「目標設定」が高く挫折しがち
無意識に大人や社会に対する甘えが根底にあったり、大人になったり社会に出たりしてから、一気に壁を感じて、自己嫌悪したり挫折したりする傾向があるように思います。
これらのメリット・デメリットは、あくまでも「傾向」であり、本人の生まれ持った性格や生育環境にもよります。
厳しさと包容力。要はそのバランスであることは、子育て全般に通じることですよね。
「当事者」として筆者が感じた親の厳しさ
子育て全般についていえることですが、子育てに「唯一の正解」などありません。子どもの数だけ、子育て方法があるともいえます。
親がよかれと思って、教育に関する書籍を読み、環境と時間を管理をして、生活習慣を身につけさせて、手本を見せて……ということをしても、それが子どもにとっては「支配」「過干渉」「毒親」という感想を持つことにもなりかねません。実は、これは筆者の感想です。
しかし、そのおかげで、どう生きるかを10代から考え、コミュニケーションなど一般の人に合わせる努力を重ねましたし、場所を選ばない「手に職」をつけようと、保育士やリフレクソロジストの資格を取得し、いろいろな人に会えるライターの仕事を選び、フリーランスとパートの二足の草鞋をはく、というワークスタイルに落ち着きました。今では厳しさのメリットも感じ始めています。
筆者自身は長女に対して、基本的に手伝わず本人がどうしても困ったら手伝うというルールを自分に設けていました。特に片づけは手伝わざるを得なくなることが多かったものの、時間割などは本人に任せました。でも、特性を長所として捉えて受容していたためか、「もっと厳しくしてほしかった」と言われます。ないものねだりですね。
いずれにせよ大切なのは、その子の特性を、一旦、ありのまま受け入れること。そして、「この子は、親の私に、なにかを教えてくれているのかもしれない」と捉える心のゆとりと、子から学ぶ姿勢を持つことではないでしょうか。
唯一無二の存在であるわが子の、特性に興味と好奇心を持ち、「自分流の子育て」をカスタマイズして、子どもとともに成長していきましょう。
結果はすぐに出ませんし、注いだ愛情も伝わるのにタイムラグがあります。不安になることも多々あるでしょう。でも、親の愛情は必ずいつか、子に伝わりますよ。