亀山早苗の恋愛コラム

今も心を苦しめる前職場でのセクハラ・パワハラ体験…逃げた僕を「無責任だ」と責める人も

映画や文学など芸術の分野でも、常態化していた「セクハラ」が問題視されるようになってきた。それは芸能界に限った話でなく、あらゆる業界で存在してきた。男女問わず、パワハラ・セクハラ被害に遭った経験のある人たちにしてみれば、ようやく……なのだろう。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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映画や文学など芸術の分野でも、「セクハラ」が俎上にのるようになってきた。どの業界でも長きにわたって、そういう実態があったことがようやく問題視される時代になったということだろう。
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思い出したら苦しい過去のパワハラ

「独身のころ働いていた職場でのパワハラ、セクハラを最近、思い出すようになりました。ずっと自分の中で封印してきたんだと改めて感じています」

そう言うのはショウコさん(44歳)だ。30歳のとき結婚するまで、ある中堅企業で仕事をしていた。

「よくある話ですが、その会社は、女性を仕事をする人間としてではなく、男性社員の結婚相手、幹部の愛人相手にしか見ていないようなところがありました。私も先輩から『あいつとつきあってみれば?』と3歳年上の社内の男性とお見合いみたいにセッティングされたことがあるんです。だけど私はその男性に好感をもっていなかったので、先輩の顔を立てるために一度だけ3人で食事に行って断りました。そうしたら、それ以降、先輩から仕事での重要な情報を共有してもらえなくなって」

あげく、残業をしているときにその先輩に襲われた。無理矢理、ブラウスに手を突っ込んできたため、やめてくださいと大声を出したとき、たまたま巡回の警備員がやってきた。

「助けてと叫んだので、ことが公になり、先輩は解雇されました。これはラッキーだったんだけど、その話におひれがついて、私が先輩をはめたという噂が流れて。二次被害がひどかったですね。ターゲットがはっきりしないので、こういう噂は止めようがありません。そうすると次は幹部が、『きみも大変だね』とおためごかしに近づいてきて、飲み会のときに手を握られたりお尻を触られたり。飲み会が盛り上がって誰も見ていないところでやるので、ここで騒いでいいものかどうか悩みました。しかもその幹部は、人望も厚い人だったから私が訴えてももみ消されるとわかっていた」

結局、幹部からのセクハラについて彼女は声を上げることができなかった。そのまま結婚を言い訳に退職したが、その後、その幹部は女性社員との不倫が公になって問題視された。しかもただの不倫ではなく、「強要された不倫」だったと女性が証言したのだ。

「その女性社員は私も知っている人。私がきちんと対処していれば彼女はそんな目にあわなかったかもしれない。結婚後、産まれた3人の子どもを育てながら、義母の病気の介護もしていたので、ほとんど思い出すこともなかったんです。でも2年前、義母を看取り、いちばん下の子も小学校に入ったので、ちょっとだけ余裕ができた。そしてセクハラが話題になっている今、急にあのころのことが思い出されてきて、ちょっと精神的に不安定になっています」

彼女の中ではまだ解決していないのだ。
 

女性上司からのセクハラ体験に苦しむ男性

なかには女性上司からのセクハラに苦しんでいる男性もいる。

「新卒で入った会社で4年目に女性が上司になったんです。もともとは明るくていい先輩だったから、彼女が上司なら仕事がしやすくなるとみんなが思っていた。ところがこの人、パワハラ・セクハラ男性と変わらない。というか、もっとひどかったんです」

ユウタロウさん(38歳)は今でもトラウマになっていると過去の話を始めた。性別に関係なく、権力をもてば暴走するタイプはいるということだろう。彼女は人のいいユウタロウさんを標的にしたという。

「業績が上がらないときは、『ユウタロウがもうちょっと働いてくれれば……』と彼女の上司に言っていたそうです。ときには他部署の人にまで僕のことを悪く言う。それも『私がなんとか彼をしつけます』と自分のアピールも交えて言うから、みんな僕が“できない社員”だと認識していく。僕の知らないところで、じわじわとそういう方向にもっていったそうです。僕に対しては食事や酒に誘うから、てっきり上司に好かれていると思い込んでいた。飲みに行っていきなり股間を握られたこともあります。『私を満足させてくれたら、きみのしたい仕事をさせてあげるけど』とあからさまに誘われたことも」

当時、ユウタロウさんは、ある企画を上司に提案していた。それがうまくいくのなら彼女の誘いに乗ってもいいと思っていたという。だが、そのときは上司が飲み過ぎてしまい、そのまま帰宅した。

「現実に戻ると、そういう関係にならなくてよかったと思ったので、それ以降はやんわり断っていました。そうしたらあるとき、飲み会の席でたまたま、当時、34歳だった僕がなぜ結婚しないのかという話題になり、彼女が『役に立たないからじゃないの? あっちが』と言ったんです。さすがにその言い方はないだろうと女性社員が言いだし、そこから上司のセクハラが問題視されはじめたんです」

彼は結局、渦中にいるのが耐えられなくなって1年後に退職。そのとき、「あの女性上司はひどいよ、ほかにも被害者がいるのに、負け犬になってもいいの?」と女性社員たちから非難を浴びた。

「僕は逃げたかった。でも周りは被害者が逃げるのを阻止しようとする。社会的責任があるんだよと言われたこともありましたが、そんなことより僕は自分の精神状態が悪くなるのを恐れました」

その後、彼は転職して今に至る。昨年、結婚して今年の秋には子どもも産まれる。前職の知人とはすでに連絡をとっていないので、あの女性上司がどうなったかも知らない。

「もうあのときのことは思い出したくない、考えたくもない。僕は妻にはすべて話しました。妻は心から理解してくれて一緒に泣いてくれた。この人がいてくれれば、もうそれでいいと思いました。セクハラやパワハラは、それ自体が解決したとしても心の中では一生終わらないんじゃないでしょうか。男女関係なく」

声を上げることは大事だが、声を上げることなく逃げたことがよかったと思う人もいる。被害にあった人の人生はそれから先も続くのだ。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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