同じ言葉をぶつけられても、怒る人もいれば落ち込む人もいる。その場では流しても、あとからくよくよ考えてしまう人もいる。受け止め方は人それぞれ。他人が「そんなことで傷つくなんて、メンタル弱いね」と言ってはならない。
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夫はストレートな人

結婚して12年、10歳のひとり息子がいるヤスエさん(43歳)は、ときおり夫の言葉に「はあ?」となることがあるという。夫は2歳年上で、公私ともに認める体育会系。「気さくで気のいい兄貴分」を自称し、実際、職場でも後輩には慕われているようだ。

「だけど夫はシンプルというか率直というか単純というか。とにかくいつも元気で、言葉の裏など読み取れない人。中学から男子校で武道をやっていて、大学は理系。クラスにふたりしか女子がいなかったそうです。職場も女性は内勤、夫は男性ばかりの現場仕事。女性と話すことなんてほとんどないんじゃないでしょうか」

ヤスエさんは、高校時代の同級生が夫と同じ会社に勤めていたので、その縁で紹介された。当時、彼女は失恋したばかりで、次の恋などできないと会うことすら断った。だがその友人曰く、「今どき珍しいくらい律儀なヤツだから、話のネタに会ってみて」と言ったという。友人も同席してくれるというので、3人で会った。

「なぜか夫となった彼は、私のことが気に入ったみたいです。友人が言うように律儀な人だったし、体育会系の礼儀正しさもあって、話していてちょっとホッとしたんですよね。だから誘われるままに2回、3回と会ってしまった。3回目のデートのあと、彼から『結婚を前提につきあってください』と言われました。『結婚前提という約束は守れないかもしれないけど、もっとあなたのことを知りたいとは思ってる』と言いました。彼、ものすごく喜んで走り出しちゃったんですよ。微笑ましかった」

週に1回は会うようになって5か月ほどたったとき、プロポーズされた。「僕はあなたを失ったら生きていけない。結婚してください」というストレートな言葉だった。ストレートすぎてロマンティックではなかったが、ヤスエさんはその言葉を受けた。

結婚生活は、夫の実家近くでのふたり暮らし。ヤスエさんも仕事を続けていたから、あまり義実家には近づかなかった。義理の関係はほどよく距離をとったほうがいいと思っていたからだ。

「だけどシンプルで率直な夫は、『おふくろがさ、ヤスエさんはウチに来ないね。私のことが嫌いなんだろうかって言ってたよ』と平気で言う。義母が話したままの言葉を伝えているんでしょうけど、それは義母も私も迷惑ですよね。そのあたりの配慮ができないんですよね」

義母が自分をよく思ってないかもしれないと感じると、ますます足は遠のいていく。
 

私を理解しようとしない夫

そんな夫だから、ヤスエさんの話をきちんと聞いてはいない。

「息子を保育園に預けて共働きを続けたので、ママ友といえるほどの友人はできなかった。それでもママたちから別のママの噂話をちょっと聞いたりして、嫌な気分になったりすることもあるわけですよ。夫にちらっとそんな話をしたら、『で?』って。いや、それだけと言ったら『意味のある話じゃないんだ』と片づけられた」

息子が学校で友だちとケンカをしたときも、心配するヤスエさんに「男なんだからケンカくらいするよ」と一言。男だからケンカしていいということにはならないでしょと言うと、「つまんないこと考えるね、女は」と他人事。

「単純だから持ち上げれば何でもやってくれるし、いいところもあるけど、とにかく人の心理を読もうとしないんですよね」

つい先日、仕事で後輩の凡ミスに巻き込まれて残業を余儀なくされ、疲れきって帰ると義母と夫と息子が食事を終えてくつろいでいた。

「お義母さんに来てもらってすみませんでした、というと、夫は『こんな時間まで働かなければいけないの?』と言い出して。いろいろあったのよというと、いろいろってなんだと言う。簡単に説明したら、『それはきみのせいじゃないでしょ』と。ただでさえ疲れているんだから、ちょっと座らせてと座ると、『ヤスエって体力もないしメンタルも弱いよね』と急に言い出したんです」

夫によれば、おふくろがやってくれたんだから、さっさとキッチンを片づけてから座るのが礼儀だろ、ということらしい。目上の人に礼を尽くさないのはよくないと息子にまで説教を始めた。

「わかったから、と言ってテーブルの上の食器を集めて洗い始めたんですが、私だって何も食べてないわけですよ。全部洗って、さあ、何か食べようと思ったら私の分は何もない。『え、ヤスエさんは食べてくるって聞いてたから』と義母。夫まで『残業だったら食べてくると思うよ』とわけのわからないことを言い出して。しかたがないからインスタントラーメンを作って食べたけど、ますますへこみましたね」

義母は早々に帰っていったが、その夜、寝室で思わずため息をつくと、寝ていると思った夫が「また、ため息」と言った。

「仕事なんてさ、全力でやればいいだけじゃん。どうして仕事で神経をすり減らすのか、オレにはさっぱりわからないんだよと言うんです。人間関係とかいろいろあるでしょと言ったら、『仕事と職場の人間関係は別でしょ。仕事だけしていればいいんだよ』って。あなたはそれですむかもしれないけどと言ったら、『つまんないことで悩んで、うじうじして。ほんと、メンタル弱いよね』といじってくる。もういいかげんやめてと、その日は私、息子の部屋で寝ました」

メンタル弱いよね。この言葉がヤスエさんをどれほど傷つけているか夫には自覚がない。夫は職場の人間関係で悩まないタイプかもしれない。だが悩む人もいるのだ。想像すればわかるだろうと思うが、自分とまったく違う思考回路の人のことを想像できないからヤスエさんは傷ついてしまうのだ。

「夫はこういう人だからと私が諦めればいいだけの話なんですが、それでも言葉って怖いですよね。心に入り込んで呪文みたいになっちゃうから」

メンタル弱くて何がいけないのか。今度、ヤスエさんはそう反論しようと思っているとつぶやいた。
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