「大人になる」ってどういうこと? 18歳成人を迎える子どもたちに
高校生には無限の可能性が眠っている。大人の安易な助言で子どもの可能性を阻んではいけない
「大人になること」は、発達心理学では「アイデンティティを明確にして社会的責任を果たしていくこと」と説明されています。アイデンティティとは、自分らしさや自分らしい生き方のこと。社会的責任とは、社会の一員として社会に貢献する務めを担うことです。
憲法には「教育、勤労、納税」という国民の三大義務が定められ、これらは大人が担わなければならない社会的責任とされています。しかし、こうした義務を果たすためだけに生きていく道を考えるのはむなしいことです。自分を「社会のコマ」としか思えなくなり、生きる意味がわからなくなってしまうでしょう。
高校生の年代の子どもたちがいちばん関心を寄せているのは、「自分らしさ」を社会のなかでどう生かして生きていくか、というテーマではないでしょうか。つまり「アイデンティティ」に根付いた進路や生き方を見つけることに、いちばん関心を向けているのです。その思いを尊重し、まずはアイデンティティに根差した進路を選び、その上で社会的責任を果たす方法を考えさせる。子どもの将来を考える際には、この順番で検討していくことが大切なのだと思います。
高校生の子に避けるべきアドバイス……可能性を閉ざす7つのNGワード
高校生の子には、無限の可能性が眠っています。ですが、どんな大人になるのか想像できず、将来ビジョンを描けていない子の方が多いでしょう。だからこそ、子どもの可能性を閉ざすような言葉を繰り返さないよう、気をつけなければなりません。特に次の7つの言葉を不用意にかけないよう、注意していきましょう。- 「あなたの能力では、○○はあきらめた方がいい」
- 「夢みたいなことを言ってないで、現実的な進路を選びなさい」
- 「その分野に進んだところで、稼げないからやめなさい」
- 「就職に有利だから、○○の学校に行きなさい」
- 「あなたは〇〇が苦手だから、その分野は避けるべき」
- 「あなたは〇〇が得意だから、この仕事に就くべき」
- 「女(男)にはその分野は無理。女性(男性)が働きやすい分野に行きなさい」
上の7つの言葉は、子どものためを思って伝えている言葉かもしれません。でもこうした言葉を繰り返されると、「自分は何のために大人になるの?」という疑問しか浮かばなくなってしまうでしょう。
私の失敗談……大人の助言で進学した大学時代の後悔
実は私にも、高校時代に周りから上のような言葉をかけられ、進路選択を誤ってしまったという苦い経験があります。私は高校時代から心理学やソーシャルワークに関心があったのですが、大学では英語英文学科に進みました。理由は「心理学を学んだところで、カウンセラーの仕事なんて少ないんだからやめた方がいい」「英語が得意なんだし、英語を学べば仕事にも有利だから、英文科に行ったほうがいい」といった大人たちの助言を真に受けて英語英文学科に進んだのです。ですが、入学してから非常に後悔しました。たしかに受験英語は得意でしたが、大学で学ぶマニアックな英語英文学にまったく興味がわかず、授業をサボッてはサークルやバイトに逃避する日々。その結果、成績も悪く、当然ですが就活もうまくいきませんでした。結局は30代に入ってから心理学やソーシャルワークを学び、高校生の頃に憧れていたカウンセラーになれたのですが、高校時代、他人の助言に惑わされず、自分の希望に沿った進路を歩んでいたら、もっと早く自分らしい人生を築けていたのかもしれないと、50歳を過ぎた今でも感じているのです。
カウンセリングでも多い「アイデンティティの迷子」からの悩み相談
カウンセラーとなった今も、アイデンティティを深めずに進路を選んでしまった人たちの悩みをたくさん耳にしています。例えば次のような悩みです。「就職には理系が有利」と勧められて理系の大学に進んだものの、好きになれない授業にうんざりしながら成績も伸びず、劣等感を募らせていく人。「医療職には食いっぱぐれがない」と言われて医療職に就いたものの、医療の仕事に興味を持てず、仕事もハードで疲弊していく人。「子育てと仕事の両立は無理」と諭され、好きだった仕事を途中であきらめて後悔している人。「公務員になれば安泰」と言われて公務員になったものの、仕事に興味がわかずにむなしさを募らせていく人。
自分の心で感じる「アイデンティティの芽」を無視して「何が有利か」という周囲の助言ばかりに耳を傾けて進路を決めると、いずれはアイデンティティとのミスマッチに直面してしまうことになってしまいます。青年期は一生の中でいちばん学習能力が高く、勉学に時間を費やせる年代です。そうした貴重な年代をほんとうにやりたいことのために使えないのは、長い人生を考えると、とてももったいないことではないでしょうか。
断定・否定は「呪文」となり、子どもの決断力を阻害してしまうリスクも
大人は、子どもの「アイデンティティの芽」を大切にし、その芽を子ども自身が育て、成長させられるように導いてあげることが必要なのです。成績だけを見て「あなたには無理」と決めつけたり、「その分野では稼げない」などと端から否定したりしてしまってはいけません。こうした言葉は「呪文」となり、子どもが自分らしい人生を生きる力を阻んでしまうからです。子どもの可能性を広げるためにも、まずは上記でお伝えした「7つのNGワード」を子どもに伝えないように気をつけましょう。そして、子ども自身が思い描く夢を否定せずに受け止め、社会的責任を果たしながらその夢を実現する方法を、子どもと一緒に模索していただければと思います。