亀山早苗の恋愛コラム

「オレと同じだけ稼げるようになってから言えよ」という夫に“人としての価値”はあるのか?

結婚して子どもが産まれて育児のために退職せざるをなかった女性は、どこかで「夫に養ってもらっている負い目」を感じていることが多い。一時的に役割分担をしているだけとは思えないのは、男女平等で育ったことの功罪かもしれない。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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結婚して子どもが産まれ、手助けも望めなかったために退職せざるをなかった女性は、どこかで「夫に養ってもらっている負い目」を感じていることが多い。一時的に役割分担をしているだけとは思えないのは、男女平等で育ったことの功罪かもしれない。
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経済的に依存している状態に耐えられないけれど、だからといって子育てを放棄するわけにもいかない。女性にとってはつらい選択だ。
 

子ども3人、夫のモラハラ

「あの日のことは一生、忘れません」

そう言うのは、ヒロエさん(44歳)だ。27歳のとき、3歳年上の職場の先輩と結婚。ずっと仕事を続けるつもりだったが、28歳で長男、30歳で長女、31歳で次女を産み、「力尽きた」という。

「共働きでも夫は家事も育児もほとんどやらない。本人はやっているつもりだったようですが、たまに赤ちゃんのおむつを替えるのとゴミ出しだけですよ。あとはすべて私がやっていました。次女を産んだあと半年ほどで職場復帰したんですが、仕事中に倒れてしまって……。過労とひどい貧血で、このままだと本当に命を落とすよと言われ、それを夫に伝えたら『誰も仕事を続けてくれとは頼んでない』と。私が専業主婦になったら経済的に大変だよと言うと、『しかたないよ』って。釈然としなかったけど、とにかく自分の体がしっかりしていないと子どもたちがかわいそうですから。泣く泣く退職しました」

末っ子が小学校に上がってやっとほっとした6年前、ヒロエさんは仕事を再開することを決意した。

「とはいえ正社員で雇ってくれるところはありません。まずはパートからだと思って、昼間の数時間、近所のスーパーで働き始めました。夫が『オレの妻がスーパーでバイトだなんてみっともない』と言ったのも忘れられない。こんな差別的な人が父親だなんて。子どもたちへの悪影響を心配しました」

さらに信じられなかったのは、徐々に仕事の時間を増やしていったヒロエさんが、代休で家にいた夫に「午後から天気が悪くなるみたいだから、雨が降りそうだったら洗濯物を取り入れておいてくれる?」と言ったときのこと。「だったら干すなよ」と言われたのだという。

とにかく家事に手を出そうとしない夫だったのだ。
 

お金を稼ぐことが「人としての価値」なのか

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3年前、ヒロエさんは職場のパートたちのリーダーになった。このままがんばれば正社員への道も開けると上司に言われて張り切っていた。

「子どもたちの学校へも時間をやりくりして行きました。代わりに他の日に残業しなければならないこともありましたが、そんなときは昼休みに家にいったん戻り、塾へ行く長男の軽食を作ってまた職場へということもありました。職場が近いからできた。もう夫には頼らないと決めていましたから」

それでもつい、夫に「週末、時間があったら換気扇の掃除をしてくれないかしら」と頼んでしまったこともある。そのとき夫は言ったのだ。

「オレと同じだけ稼ぐようになったら言ってもいいよ」

頼まなければよかったと彼女は深く後悔した。そして、いつか夫と同じくらいの収入を得てやると決心した。

「その後、必死で仕事をしました。だけど気づいたら、長女が摂食障害になりかけていた。私は夫へのリベンジに燃えていたけど、もっと大事なことがあるのではないかと反省したんです。仕事を減らし、子どもたちと一緒にいる時間を増やしました。過干渉にならないよう、でも無関心にならないよう、適度な距離をとりつつ子どもたちを見守ろうと思って。母親が仕事をしているからどうこう、ということではなく、うちの子たち、特に長女は神経質で繊細なんですね。だから私の不在が彼女によけいな負担をかける。次女は私がいるときにがーっとしゃべって満足するタイプなんですが、長女はもうちょっときちんと見ていないといけない」

夫へのリベンジは「今でなくてもいい」とヒロエさんは開き直った。あと5~6年たてば、子どもたちは嫌でも自立していく。自分の人生はそのときまでじっくり考えよう、と今は思っている。

「ただ、最近、少し時間的なゆとりができたので考えるんですが、人間ってそんなに稼がないといけないものでしょうか。人にはいろいろ役割がある。家で子どもの面倒を見ている主婦も、ひたすら稼いでいる夫も、人の価値としては一緒でしょ。もっといえば無職だろうと1億稼いでいようと、価値の上下はないはず。同じように稼いでから言え、という夫の心理がわかりません。

じゃあ、稼がずに消費する一方の子どもという存在は何? 私と夫、ふたりの子どもなのに、その子たちの面倒もろくに見てこなかった夫の価値はどこにあるのか……。そんなことを考えてしまいますね」

独身時代感じていた彼への信頼と愛情は、結婚17年で完全に消えてしまった。それは彼女だけが悪いのか、あるいは夫だけが悪いのか。それともふたりに原因があるのだろうか。愛と信頼は、その消滅のプロセスがはっきりしない。気づいたら「愛も信頼もなくなっている」ことが多い。結婚って何なんだろう。ヒロエさんは小声でつぶやいた。
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