妻を怒らせているのは自分だと気づかない夫
「妻はいつも不機嫌で怒っている」と言う夫たちは多い。一方でその原因が自分にあるとわかっていないと妻たちは考えている。不用意な発言、妻を下に見るような言い方などで、どれだけ妻たちが傷ついているか。「そんなにひどいことは言ってない。疲れているのに妻に気を遣わなければいけないの?」と無邪気に言った男性がいる。そういう言い方が人をムッとさせるのだが……。
妻を気遣う必要はないと思っている
「夫にとって私はどういう存在なんだろうと思うことがあります」
そう言うのは、ヨリコさん(42歳)。結婚して14年、12歳と10歳の子がいる。2歳年上の夫とは社内結婚で、上の子を出産してから下の子が2歳になるまで4年間、専業主婦として家事育児に専念していた。
「私はSEだったんです。この世界は日進月歩なので主婦をしながらも勉強は続けていました。いつか復帰したいと思っていたから。でもそんなとき、夫は『いいよなー、時間がたくさんあって』『子育てしながら勉強もできるなんて恵まれてるよね』と。恵まれている環境は自分が作ってやっていると思っていたんでしょうね。一度、ふたりの子を見てもらって、私がセミナーに出かけたことがあるんです。よほど大変だったんでしょう、それからは言わなくなりましたが(笑)。夫を黙らせるには、とにかく子どもたちを預けて自分が出かけてしまうことだと学びました」
それでも、折に触れて夫の不用意な一言には傷ついたり腹が立ったりを繰り返している。他の会社で働くようになったときも、夫は「別に働かなくてもいいじゃん」と言った。
「冗談じゃない。夫が悪いわけじゃないけど、夫の給料だけで暮らしていけると思っているのが間違いですから。どれだけ私の貯金を使ったか。夫の収入と家計をグラフにして見せてやりました。口で言ってもわからないから、わかりやすいグラフを作ってプリントアウトして……。そのあたりは得意なので。このときも夫は黙りましたね(笑)」
再度、仕事を始めてからは多忙を極めた。定時で帰れるはずだが、仕事に「予想外のできごと」はつきもの。特にSEとして期待されて入社したので、仕事があるのに無視して帰るわけにもいかなかった。
「夫に保育園のお迎えを頼んだら、いいよとは言ったものの、あとから『たかが主婦の仕事、残業なんておかしいじゃないか』って。だから今度は私がやっている仕事を一覧表にして夫のLINEに送信しました。1日の私の時間割も円グラフにし、それぞれどういうことをしたかを細かく知らせて」
夫は「こういうの、やめてくれない?」と言い出した。感情論で話せば「理屈で言ってよ」と言うのに、論理的な証拠を見せつけると「やめて」と泣き言を言う。それはおかしいじゃないかとヨリコさんは詰め寄った。
それでもわからない夫
「夫は自分が私に嫌がらせをされていると思っているみたいなんです(笑)。いつだって論戦をふっかけてくるのは夫なのに。先日、洗濯機が壊れたので乾燥機付きのものを買おうとしたら夫から大反対されました。『洗濯物はやっぱり日なたの匂いがしないと』と言うから、どういう論理なのかと……。うちみたいな共働きは乾燥機がないとやっていけない、あなたが毎日干して取り込んで畳んでくれるならいいけどと言うと、また嫌みを言うんだなと睨まれて。現状を把握していないのはあなたです、と反論しました」
乾燥機付きの新しい洗濯機が届くと、誰より便利だと感激していたのは夫だった。そんな夫をヨリコさんは、「ただのわがまま、ひねくれ者として接しています」と淡々と言う。
「夫の言うことに真正面から向き合っていたら、いくら時間があっても足りない。子どもには論理と感情をバランスよく自制して接していこうと思っていますが、夫には理屈だけで対処しています。そうすると今度は夫がどんどん感情的になっていくんですけどね。子どもより大人のほうが対応がめんどうです」
いまだに自分の「つまらない一言」が妻を怒らせるとわかっていない夫、ときどき「どうしてヨリコさんは不機嫌なの?」と尋ねてくることがあるそうだ。
「そういうときは、あなたがこういうことを言ったから、こういうことをしたからと事細かに伝えます。それでも夫は『だからって不機嫌になるのはやめたほうがいいよ、教育的によくないよ』と。私が不機嫌に対処するのはあなただけ、子どもたちにはいつも通り接しているから大丈夫よと微笑んでやります(笑)。こんなバトルをしているのもくだらないなと思っているんですよ。だけど夫は基本的に自分が上だと思いたがるので、それだけはさせないと私も闘っているんです」
夫が妻に文句を言うのは、自分の立場を優位だと思いたいがためだとヨリコさんは言う。確かにそうなのかもしれない。そして彼女は決してそれを許さないと心に決めている。