亀山早苗の恋愛コラム

宇多田ヒカル、サッカー横山久美選手も…「カミングアウト」するもしないも本人次第。当事者の声はさまざま

セクシュアリティと聞くと、それだけで「もう、めんどうだから当たらず触らずにしておきたい」という声もある。だが、差別やハラスメントにつながりやすい件だからこそ、誰もが一応、頭に入れておく必要があるのではないだろうか。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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カミングアウト……するもしないも本人次第

元なでしこジャパンで現在はアメリカのチームに所属している横山久美選手が、トランスジェンダーであることを公表した。また、歌手の宇多田ヒカルさんは自身の性自認をノンバイナリーとし、「男女の枠組みをあてはめない」と言っている。
 
カミングアウト

セクシュアリティと聞くと、それだけで「もう、めんどうだから当たらず触らずにしておきたい」という声もある。だが、差別やハラスメントにつながりやすい件だからこそ、誰もが一応、頭に入れておく必要があるのではないだろうか。

そもそもセクシュアリティとは、広くは「人の性のありよう」のこと。狭義では、性的指向(人の恋愛感情や性的関心が、どの性別に向かうのかの指向)であり、性自認(自分がどの性別であるのかという認識)のことだ。現在、それをSOGI(ソジ=Sexual Orientation and Gender Identity※)という。

一般的に知られるようになったLGBTは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーの頭文字をとったもので、その人そのものを指す。SOGIはあくまでも人の属性を表しており、そこに違いがある。

ただ、セクシュアリティに関しては最近、非常に細分化されている。性自認だけでも、知られているトランスジェンダーだけではなく、自分が男女のどちらかであるとは思っていないXジェンダーがいて、さらに男女の中間だと自認する中性、男性かつ女性だと自認している両性、ときによって男性であり女性であると流動的だと自認する不定性、男女どちらでもないと自認する無性などがある。

サッカーの横山選手は、「日本ではずっと隠していた。ドイツやアメリカでプレーをするようになって、もっとオープンになってもいいんだなと思った」と話している。日本だったら「彼氏いるの?」と当たり前のように質問されるが、ドイツやアメリカでは「彼氏か彼女、どっちかいるの?」と聞かれるそう。それだけLGBTが当たり前であり、SOGIについても鷹揚なのだろう。

公表できる人はすればいいし、できない、したくないという人もいるだろう。受け入れられない不安を抱えたまま、公表するのはリスクが大きいと考える人もいるのだ。

 

オープンにできない私

同性愛者のチアキさん(35歳・仮名)は、金融関係の会社に就職して12年がたつ。彼女自身は自分が小学生の頃から同性に惹かれると気づいてはいたが、公にはできなかった。

「高校生のとき、大好きな子がいて、告白しようかどうしようか悩みに悩んで……。でも結局、恋愛感情をもっているとは言えなかった。好きだとは言ったけど、彼女は『私も。一生つきあおうね』と言われて。彼女の頭の中には、私が恋愛感情をもっていることを想像すらできないんだろうなと思いました」

大学時代、好きでもないのに男性とつきあったことがある。それも「周りから、“普通の人”だと見られたかったから」だ。しかし相手に恋愛感情を抱くことはできなかった。

「それって相手にも自分にも不誠実なことだから、それ以降、男性とはつきあっていません。20代後半で一度だけ、アプローチされて女性とつきあったんです。たぶん、彼女には私が同性愛者だとわかったんだと思う。1年ほどのつきあいだったけど、すごく楽しい時間でした。ただ、彼女は実際にはレズビアンというよりは性自認が女性でも男性でもなくて、恋愛対象も多岐にわたっていたので私はつきあい続けることができなかった」

自分は男女いずれか、そして恋愛対象も異性と決まっている人が大多数の世の中、そういう人は何も考えなくていいなと思うこともあるとチアキさんは言った。

「本当は、“私はこういう人間です”と言えたらラクなのかもしれないと思うこともありますが、私の職場ではむずかしいし、親に言ったら卒倒されそう。先日も、職場の結婚したばかりの同僚が『うちの夫の友だちに会ってみない?』と言うんです。恋人がいなそうに見える私に紹介してくれるつもりだったんでしょう。ありがたいけど、本音を言うとよけいなお世話なんですよね。紹介してとも言ってないのに。だから『実はちょっとつきあい始めた人がいるので』と嘘をつきました」

嘘をつくたびに心が揺れる。いっそ本当のことを言いたいとも思う。それでもやはり思い切って言うことはできない。すべてが崩れていくとわかっているから。

「社会全体が、どういうカミングアウトをしても驚かない、そういう人もいるよねと細かい詮索はしないまま、当たり前のように受け入れてくれるようになればいいなとは思います」

カミングアウトするかどうかは本人の選択だが、言ったことで他者に漏らされたりそれでからかわれたりするような不安はいつまでもつきまとうのかもしれない。

ある人のパートナーが男性であれ女性であれ、その枠に当てはまらない人であれ、それがその人の他の人間関係や社会的な活動に悪影響を及ぼすような世の中であってはならないのではないだろうか。


「LGBT」「SOGI(性的指向・性自認)」ってなに?(日本労働組合総連合会)
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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