妻のなにげない一言に気持ちがささくれ立って

かかあ天下

今の世の中、男だって生きづらいという声は静かに聞こえてくる。性被害を始め、多くの暴力は男性から女性へが圧倒的に多いのは明らかだが、家庭や職場で密かに「心折れながらも耐えている」男性は少なくないようだ。

 

家庭では妻が王様

「家というのは、本当に女性のものですよね。妻は完全に王様ですから」

ため息をつきながらそう言うのはジュンイチさん(46歳)だ。結婚して17年、15歳の長男と13歳の長女がいる。妻は長男が小学校に上がったときに仕事を辞めた。

「保育園なら夜まで預かってもらえたけど、小学校はそうはいかない。むしろここからだと妻は子育て意欲が急に増したようでした。とはいえ、とても私立の中学に進学させるような収入は僕にはないので、お受験だけは諦めてもらいましたけど」

子育ての過程で、妻は長男には「男の子なんだから、うじうじしないの」と言い、長女には「女の子なんだからかわいく振る舞うのよ」と教え込んでいた。ジュンイチさんは、そのたびに「男の子なんだから、女の子なんだからというのはやめたほうがいい」と言ってきた。

「僕自身が母親にそう言われて育ったんですよ。姉と妹にはさまれた長男で、僕自身は気が弱くて泣き虫だった。いつも両親に『おまえは男らしくない』と怒られていた。天体が好きだったのに、小学校に入ると近くの道場で柔道をやらされました。いつも逃げ回っていたので、結局、半年で辞めたけど。そんなとき救いだったのが近くに住む祖父母。祖父に天体望遠鏡を買ってもらったときはうれしかったなあ。朝まで空を見ていましたからね」

人には向き不向きがある。それは男女という性差だけで考えてはいけないことなのだとジュンイチさんは子どものころから思っていた。彼は今も、ボタンつけや裾のかがり縫いなどが得意で、娘の制服などは簡単に直してやれる。妻はそういう作業は苦手だ。

「できる人ができることをやればいい。だけど妻は、特に長男には期待が大きくて、文武両道を押しつけているんですよ。でも長男は僕に似たのか気が弱い。人と話すより犬と話すほうがわかりあえる、なんて言ってしまう子で、獣医になりたいようです。妻は『男なんだからもっと大きな夢を持ちなさい』って。獣医って大きな夢だと思うけど」

つい先日も、息子のテストの点が悪いとねちねち言う妻に、「もういいじゃないか」と彼は声をかけた。それが妻の怒りに火をつけた。

「だいたい、あなたが甘いのよ、父親なら父親らしくしてよ。だから息子がこんなことになるんじゃないの。男のくせにこの子には向上心がないのよって。男と向上心に何の関係もないだろと思わず吹き出したんですが、ますます怒らせてしまった。『だいたい、あなたが男のくせに息子をしっかり教育しないから』と言い出し、さすがに僕もカチンときてつい口げんかになってしまった。それが息子を傷つけたみたいで。『おとうさん、ごめんね』と言う息子が不憫でしたね。気の優しい子だから」

 

娘には「得をすること」を教える妻

一方で、妻は、娘には「女はかわいいほうが得をするの」と教え込んでいる。男には強くあれ、女にはかわいくあれという妻の方針を、ジュンイチさんは本当によくないとたびたび言っているが妻は聞く耳を持たない。

「娘はかわいく振る舞って先生からひいきされる味を知ったみたいです。でも一方で、そんんなことをしていると友だちから疎まれることもわかってきた。ときどき、そういうことで悩んでいるようですね。タイミングを見ながら、僕は娘にも、自分の好きなように自分の足で立って生きていけと言うつもりです」

なんだかんだ言っても、男はしょせん収入で決まるとか、近所の家の息子が東大に入った話をキラキラした目で語る妻に、ジュンイチさんは自分が責められているような気がして、困惑しているという。

「ずっとそういう態度だと、そのうち子どもたちにバカにされるぞと冗談交じりに言ったら、『それは私を侮辱してる言葉ね』と敏感に反応する。思春期の子どもたちを育てるのは大変だと思うけど、妻にはもう少し、“今の時代とこれから”を深く考えてほしいんですよね。そういう話をしたくても拒否されちゃうんで……」

子どもを育てるのは、自分の価値観を押しつけることではない。妻にそう言うと「当たり前じゃないの、そんなこと」と言われる。だが実際、妻は押しつけているのだ。それを自覚させるにはどうしたらいいのか、男の子も女の子も生きやすくするために親は何ができるのか。まずは親の価値観を改めるところから始めなければいけないのではないか。ジュンイチさんは妻が「子育てに挫折感を覚えたとき」をチャンスだと考えているそうだ。
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