息子の結婚に口を出したくはないけれど……
今どきの姑世代は、子どもに心配をかけたくないと精神的にも経済的にも自立することを目指してきた。子どもの結婚にも「口を挟まない」と決めていたはずだ。だが実際に息子が結婚するとなると、やはり「息子のためを思って」という思いが出てきてしまう。
相手が年上だと知って
マサエさん(59歳)は、昨年、離れて暮らしている30歳になる長男から「結婚したい人がいる。このコロナ禍で式はすぐには挙げられないけど、彼女が妊娠したので婚姻届だけ出すつもり」と連絡をもらった。
「親に会わせないうちに婚姻届なんてダメ、と思わず言ってしまいました。でも帰るに帰れないと息子が言うので、テレビ電話でいいから会わせなさい、と」
大学入学で東京へ送り出してから、マサエさんは長男は巣立ったのだと自分に言い聞かせていた。子どもは巣立つものだから、あとは彼の好きなように人生を歩んでくれればいいとも思っていたはずだった。だが結婚と聞いたとたんに、「私にきちんと会わせなさい」という思いがわいてきてしまった。
「数日後、彼女ともテレビ電話で話しました。そのとき初めて、息子より5歳年上でバツイチだと知らされたんです。本人の学歴を聞いたら高卒だという。お父さんの仕事は、と言ったら息子が『そんなことどうでもいいだろ』と割り込んできて電話を切られてしまいました。そばに夫がいたので、こんな結婚はさせられないとついわめいてしまったんですよ」
夫も、そしてその場にいた長女も「好きにさせればいい」という態度だったため、マサエさんの怒りは沸点に達したそうだ。
「家族になる人の素性を知りたいと思うのは当然でしょと言ったら、長女が『別に家族にならなくていいよ。おにいちゃんの妻だというだけのことでしょ』って。『ヘンな人だったらどうするの』と聞くと、『おかあさんから見た“ヘンな人”が、世間でヘンな人とは限らない』と。夫は私たちのやりとりの最中にお風呂に入ると行ってしまうし、誰も家族のことを考えていないんですよ」
だが長男の妻は妊娠しているのだ。親が何を言っても、これから親になろうとしているカップルを止めることはできない。
あきらめるしかないと悟って
好きなように生きていきなさい。そう言い続けた手前、結婚に反対するのはおかしいと長女に指摘され、マサエさんは日が経つにつれて怒りがくすぶっていくのを感じていた。「爆発できないんですよ、長女にダブルスタンダードだと批判されるから。でも怒りやモヤモヤは消えない。息子が自分の人生を決めることと、私たち家族にも影響がある結婚とは、何かが違うと思うんです」
コロナ禍が、息子たちとの分断に拍車をかけたのかもしれない。思い立ってすぐ会いに行くことができない。悶々としているうちに日は過ぎて、この春、初孫が生まれた。
「長男が写真つきのメッセージを送ってくれました。おめでとうと伝えたものの、今は会いに来なくていいよと言われました。なんだかんだ言っても、うちの長男ですからね。こういうことを言うとまた娘に『古くさい』と怒られますが」
マサエさんは自分でもわかっているのだ。言っていることが矛盾していること、そして昔ながらの嫁姑の感覚などもう古いということも。
「私も若いとき、夫の母親に逆らったりもしました。だけどあの時代は、姑は子どもに面倒を見てもらおうと思って生きていた。私たちは面倒をみてもらおうなんて思っていません。ただ、結婚するなら息子より若い初婚の人がよかったなというのが本音です。二人目の子をこれから産むのも大変でしょうし」
マサエさんの気持ちの裏には、年上の妻に翻弄される自分の息子が不憫だという思い込みがあるのではないだろうか。いくつになっても母親は母親、幼かった息子の幻影が消えないのだ。親の希望を裏切って、子どもは成長していくものなのではないだろうか。今も息子を“子ども扱い”しているのを認めなければ先には進まない。
「娘にはよくそう言われています。おにいちゃんだって、30歳を超えてるんだよ、いい大人をつかまえて、ああしろこうしろって言わないほうがいい。奥さんは“嫁”じゃないから。お母さんとは他人だからって。そういうものですかね……。家族なのにね」
姑世代にとって、子どもを自立させることと、自分の影響力が及ばなくなることとは別だと考えがちなのかもしれない。
「早くコロナが終息して、息子たちが遊びに来られるといいなと夫はのんびり言っています。あの人は何でも受け入れる。私ひとりがモヤモヤを抱えているんですよ」
娘に「悟りなさい」と言われたとマサエさんは苦笑した。子どもを必死に育て上げたのに、裏切られた感じが抜けないのだろう。だがおそらく、長女の言うことは正しい。