京急の新造車両
京急がこのほど公開したのは、1000形1891-1号編成。1000形は2007年から製造されているので、「新型」ではない。何年にも亘ってマイナーチェンジを繰り返してきたので、さまざまなバリエーションがある。 今回の車両は、2016年に製造された1800番台がさらに進化したもので、4両編成2本が製造された(1891-1号編成と1891-2号編成)。ロングシートからクロスシートに切替可能な座席
一番のポイントは、ロングシートからクロスシートに切替可能な自動回転式座席だ。通常の通勤通学輸送として走る場合は、満員の乗客を混乱なくさばくため、乗り降りしやすいロングシート(ベンチ式座席)を取り入れている。しかし、座席指定列車やイベント列車として運転する場合は、ゆったりと座り、旅気分を味わえるようクロスシートに切り替える。 こうしたデュアルシートは、高価な車両を少しでも有効に活用するための方策。すでに東武鉄道のTJライナー(東上線)とTHライナー(地下鉄日比谷線&東武スカイツリーライン直通)、西武鉄道のSトレインと拝島ライナー、京王電鉄の京王ライナー、東急電鉄のQシート(大井町線&田園都市線直通)に採用されていて、実績のあるものだ。コンセント、ドリンクホルダーなど快適に過ごすための諸設備
クロスシートとして運行するときは、座席下にある電源コンセントを使うことができる。他社の車両では窓側席しか用意されていないものもあるけれど、京急の車両はすべての座席に配備されている。また、前の座席の背面にはドリンクホルダーがある。帰宅時の座席指定列車ではペットボトルや缶飲料を購入して乗りたくなる人が多いので、揺れることのある車内でこぼすことのないようにホルダーがあるのは便利だ。 座席幅は一人分が460mm。快特や座席指定のウイング号に使われている2100形よりも10mm広くなり、少しではあるけれどゆったりしている。また、座席シートは三浦半島の旅を彷彿とさせる波をイメージしたデザインに変更。しゃれているばかりでなく、抗菌・抗ウイルス座席シート地を採用したので、コロナ禍の時代にあって安心な車両となっている。 ドアと座席の仕切りの様式も変更された。強化ガラス製の仕切りを採用し、ドア付近に立つ乗客や所持する荷物と着席している乗客とが接触してトラブルとなることを防ぐため、相互干渉を考慮した高さにしている。
復活した前面展望席
京急の電車というと、運転席のすぐ後ろに前向きのクロスシート席があり、子どもや鉄道ファンに楽しみを与えてきた。しかし新型車両が登場するにつれ、いつしか消えてしまった。そこで今回、この京急らしい前面展望席4席が復活。関東一の俊足で鳴らす京急の迫力ある走りを再び堪能できるようになった。とはいえ、人気の座席だけに競争率は高くなりそうである。トイレを2カ所新設
京急に乗って品川駅から終点の三崎口駅まで乗車すると、1時間5分、都営地下鉄浅草線との乗換駅泉岳寺からなら1時間8分かかる。トイレが近い人や体調が必ずしも万全でないときは不安になることもあろう。ましてや、ビールなどを飲むとどうしてもトイレが近くなる。これまで人気の「ビール電車」運行時は、トイレ休憩を考慮した列車ダイヤを作成していた。以上のような事情を配慮して、京急としては初となるトイレ付車両となった。 トイレは2カ所、2号車が大型の多目的トイレ、3号車が男性用トイレである。多目的トイレが1カ所だと、揺れる車内で男性が用を足す場合、どうしても汚れがちとなる。したがって、男性向け小用トイレを設けたのは、女性でも安心して利用できることになり、評判もよくなるのではないだろうか。電車内にトイレを設置するために、京急では車両基地に汚物処理施設を新設したという。 このほか、車椅子スペースを1&4号車に、ベビーカー&大型荷物置場ともなるフリースペースを2&3号車に設置した。さらに車内防犯カメラを各車両に3台設置、車内で立っているときに使う吊り手の径と太さを拡大して握りやすくするなど、バリアフリー・安全対策にも配慮している。新造車両の運行予定は?
この新造車両は、2021年の大型連休明け5月6日(木曜)、座席指定列車「モーニング・ウィング3号」から運行開始となる。始発駅の三浦海岸駅を朝6時9分に4両編成で発車、金沢文庫駅で2100形8両を増結し、12両編成で品川駅を目指す(到着は7時28分)。京急沿線に住んでいないと、体験乗車はハードルが高い。多くの人が気楽に乗ることのできる「ビール電車」などのイベント企画を期待したいけれど、具体的なことはコロナ禍が終息してからになる見込みである。
取材協力=京浜急行電鉄