子どもの育ちにおける「三密を避ける」ことの功罪
新型コロナウイルスの第4波や変異株の広がりなどが心配されていますが、学校や園は感染予防に努めながら、1年前のように全国一斉休校にはならず新学期が始まりました。昨年は、感染予防のために「三密(密閉、密集、密接)」を避けながら、様々な活動に取り組むことが求められました。その結果、感染を過度に心配し、これまで行っていた活動を取りやめるケースがみられました。
しかし本来、子どもは人との関わりの中で様々なことを学ぶため、専門家からその弊害も指摘されています。例えば、こども環境学会の代表理事である仙田満氏は、2020年5月「新しい生活様式を画一的でなく、年齢層毎の行動様式を」という緊急提言をしました。その中で「こどもの成長において密接は重要である。こどもは触れ合うことによって成長していく。」「新たな生活様式という画一的なものでなく、小さなこども、学童、青年というようにそれぞれの年齢層に合わせた生活様式のガイドラインを示すべきと思われる。」と記しています。
人との関わりが難しい状況だからこそ、「心理的・精神的な密」を工夫しながら保っていくことの重要性がこれまで以上に大切になってくるということでしょう。
学校の一斉休校で起こったこと
2020年3月の一斉休校により、これまで当たり前として存在していた「学校」が強制的にストップされ、子育て世代を中心に大きな混乱をもたらしました。子どもの育ちには主に「学校教育」「家庭教育」、学習塾や運動などの習い事、地域の子ども会といった「社会教育」など様々な要素が関係してきます。そんな中、一斉休校により子どもの育ちの支えのひとつ「学校教育」がなくなる、もしくは非常に小さなものになるということが起こりました。
学校がなくなっても、他の部分の支えによって学びや育ちを維持できた家庭があった一方で、学校への依存度が高い家庭ほど、休校の影響を大きく受け崩れてしまいました。
例えば、家庭での学習習慣が付いていない子の場合、学校から単に配られたプリントに取り組むだけでは、十分な定着になりませんでした。体育の授業や休み時間もなくなり、外出も控えなければいけない中、子どもは運動不足の状態になりました。食事の栄養は学校給食に任せていたというような場合、発育に厳しいものがあったでしょう。子どもが家庭にいる時間が長くなったことにより、虐待件数が増えたという報告もあります。学童なども閉鎖になり「居場所」としての学校の役割に気付かされることにもなりました。
このように一斉休校が様々な形で子どもの育ちへ影響を与えたことにより、改めて学校という存在の大きさ、家庭(保護者)の役割などを考える機会になったのです。
物理的な密を避けながら“精神的な密”を保つ工夫
「三密を避ける」ことは人と人との空間をあけることであり、「物理的」な密を避けることを意味します。しかし、人と人との距離が物理的に離れるような状況だからこそ、心理的・精神的な密を保つことにとても意味があります。子どもの健全な育ちを問い直すべきに状況において、運動遊びの良さが見直されています。こういった遊びは運動能力を高めるだけでなく、コミュニケーションスキルも育むといわれています。
オンライン、ソーシャルディスタンスでできる 学級あそび&授業アイスブレイク 鈴木 邦明・ 赤堀 達也 (著, 編集) 明治図書出版
また、GIGAスクール構想の進展に伴い、学級や授業の新しい形としてオンラインやソーシャルディスタンスでできるアクティビティも模索されています。
例えば、タブレットなどの動画撮影機能を利用し「60秒動画で友達に本を紹介しよう」という国語の授業です。また、都道府県を学ぶ際、遠隔にある学校と交流をしながら、教科書に載っているような地域の特産品や自然などを紹介し合うという方法もあります。これは外国語活動(英語)の一部として取り組むこともできます。
またこのような学習における活用はもちろん、コミュニケーションツールとしても力強い可能性を秘めています。休校中にZoomなどを用いて「朝の会」を実施していた学校では、先生や友だちと実際に会えない期間に人との関わりが生まれていました。家庭においても、孫と祖父母がデジタルツールを使って、頻繁に関わることができたというようなケースがみられました。
SNSなどはトラブルのきっかけとなることも多く注意が必要ですが、人と人との物理的な距離を近くすることが難しい状況では、悪者扱いするばかりでなく良い形で活用していけるでしょう。
新型コロナウイルスの流行は、これまでの学校や家庭のあり方などを問い直す良いチャンスです。子どもの育ち、学びがより良いものとなるよう、周りにいる大人はしっかりと考え、行動していきたいものです。
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