亀山早苗の恋愛コラム

「お姉ちゃんなんだから」と抑圧された過去…母娘関係は修復できる?

母娘関係には何か母・息子とは違う独特の感情が行き交っている。それが自身の子育てに影響するという女性もいる。大人になった今、母娘関係の修復をすることはできるのだろうか。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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大人になってから母娘関係は修復できるのか

毒親

親にまったく褒められずに育ったと感じている人は男女問わず少なくないが、母娘関係には何か母・息子とは違う独特の感情が行き交っている。それが自身の子育てに影響するという女性もいる。大人になった今、母娘関係の修復をすることはできるのだろうか。

 

母から抑圧されて育って

「私は母親から依存されつつ、でも認めてもらえず褒められもせず、抑圧されて育ったと思っています」

イズミさん(38歳)はそう言う。三人姉妹の長女で、いつも「あなたはおねえちゃんなんだから」と言われて育った。妹ふたりをかわいがるのは当たり前で、妹たちがケンカをするとまったく関係ないイズミさんが怒られた。

「あなたはおねえちゃんなんだから、この家をきちんとまとめて継いでいかなければいけないんだから、と言われていました。別に家柄がいいわけでもなんでもないのに。父は女ばかりの家族が苦手だったのか、あまり家族と関わろうとしませんでしたね。もしかしたら、母は父にもそうやって圧をかけていたのかもしれませんが」

母はイズミさんに、よく夫の愚痴をこぼした。父親の悪口を聞かされるイズミさんは、それによって父への認知が歪まされたかもしれないと今になると思うそうだ。イズミさんは、妹たちに学費がかかるという理由で短大しか行かせてもらえなかった。妹たちは四年制の大学へ行っている。自分のほうが成績がよかったのにというかすかな恨みが残った。

「だから20代後半になってから、夜、飲み屋で働きながら大学に通いました。純粋に勉強したかったんですが、母は『嫌味なことするのね』と言っていましたね」

彼女は、大人になってから初めて、「自分は母を嫌っているのだ」と気づいたという。だが、彼女の良識は、母親をそんなふうに思ってはいけないと感じていた。

「よく考えたら、私は小さいときから母に褒められたことがない。子どもを褒めてくれない母を、ずっと好きでいるような顔をしないといけないのかと悩みました。母は商売をしていたので、大学を出た私に自分の仕事を手伝うように強要してきたんです。もう今しかチャンスはないと思って、それを断り、家を出てひとり暮らしを始めました。小さな会社ですが就職もできたし、副業もしていいということだったので飲み屋のバイトも続けていました。とにかく物理的に親と離れたかった」

離れてみたら、少し母と自分を客観視できるようになった。妹たちとの関係は悪くない。離れていれば、母との関係ももう少し穏やかになるかもしれないと彼女は思っていた。

 

結婚して子どもが生まれて

32歳のとき、つきあって間もない2歳年上の彼との間に子どもができた。

「こんなことを言ってはいけないと思うんですが、一瞬、産まないほうがいいかなと思いました。私自身が親になれるとは思えなかったし、子どもをもつのが怖くもあった」

妊娠したことを知った彼は大喜び。翌日、婚姻届をもってきた。イズミさんは自分が抱えている親への気持ち、親になることの不安を彼にすべて話した。

「彼は、イズミはおかあさんじゃないし、おかあさんはイズミじゃない。オレたちふたりがしっかり親になればいいんじゃない? イズミがおかあさんにされて嫌だったことは子どもにしなければいい。そんなにガチガチに考えずに、楽しい仲間が増えたと思おうよ、と言ってくれたんです。できた人なんですよね」

その言葉に押されるように彼女は婚姻届を出した。あまり気が進まなかったが、実家に彼を連れていって親にも会わせた。母親が失礼なことを言ったらどうしようと思ったが、母は完璧に「娘の結婚を祝う母親」を演じてみせた。

帰宅すると母からメッセージが届いていた。「あの人の出身大学はどこなの?」と。イズミさんは返事をしなかった。

「子どもが生まれたとき、さすがにしらばっくれるわけにもいかないので連絡はしました。母は病院に飛んできた。お祝いやねぎらいの言葉があるかなと思ったら、『あなた、ちゃんと育てられるの? 私が手伝わないとダメでしょ』と。さすがに私がキレて、母を病室から追い出してしまいました」

そういうことをするのは自分に我慢が足りないからだと落ち込んだ。しかし、母を避けたい気持ちは強く、退院してからも連絡はしなかった。

「ただ、子どもを見ているとかわいいんですよ。こんなにかわいいのに、母はどうして私を褒めなかったのか。歩けるようになってやんちゃなことをしたり、イヤイヤと反抗されても、今、こんなにかわいいんだから何でも許せると私は感じた。でも母は私を産んだとき、そうは思わなかったのだろうか。それがどうしても聞きたかった」

イズミさんは、母親に子どもを見に来てと電話をかけた。母はまた飛んできた。私を産んだときかわいいと思ったかと尋ねると、その返事が興味深かった。

「そりゃ、あなたは私にそっくりだったのよ。かわいいに決まってるじゃないって。母は自分の分身を愛したんですね。大きくなって自我が目覚めて、私が自分の分身でないとわかったから、言うことを聞かせないと気がすまなくなっていった。そういうことなのねと母に言ったら、『あなたが何を言いたいかわからない』と。どうして褒めてくれなかったのと核心をついたら、『褒めたらろくな人間にならないでしょう。それにしても、もうちょっとエリートの男は周りにいなかったの?』って。もうそれ以上、何かを言う気が失せました」

イズミさんは母に絶望し、母はイズミさんが折れたと思い込んだ。その後も手伝いに来ようとする母を彼女は拒んだ。年に1度くらいしか祖母と孫は顔を合わせていない。

「子どもは来年、小学校に入るんです。母との関係を修復したほうがいいのだろうかと思っているのですが、やはりそういう気持ちになれなくて」

夫は自分が間に入ると言ってくれるのだが、それもイズミさんにとってはいいとは思えない。母との関係修復の道のりは険しく、遠い。
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