亀山早苗の恋愛コラム

一流の夫を持つ“幸せな女”を演じ続ける…欺瞞だらけの母を捨てた私

家の中のことは他人には言わない、身内の恥は隠す。それが日本では昔から一般的だ。だが、それを「欺瞞」だとして、母と精神的に縁を切ったと話してくれた女性がいる。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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母親の欺瞞に耐えかねて、「母をあきらめた」私

プライドの高い母

家の中のことは他人には言わない、身内の恥は隠す。それが日本では昔から一般的だ。だが、それを「欺瞞」だとして、母と精神的に縁を切ったと話してくれた女性がいる。

 

父は浮気三昧、母は泣いてばかりいた

「私は家の中では、ほとんど幸せだと思ったことがないんです」

そう言うのはヒロミさん(40歳)だ。研究者の父と専業主婦の母との長女として生まれた。3歳年下の弟がいる。父は寡黙で、研究以外に興味がないように見えた。母は見栄っ張りで、いつも「頭のいいおとうさんと結婚できて幸せ」と言っていた。

「だけど私、知っているんです。母は夜中、よくひとりで泣いていました。少し大きくなってわかったんですが、父はどうやら浮気ばかりしていたよう。大人になってから思い出したんですが、小学校に入る前くらいだったかな、私、父に『今日はおとうさんと出かけよう』と連れ出されたことがあるんですよ。電車で二駅くらい先で降りて、少し歩いて一軒の家に入りました。そこにきれいなおねえさんがいて、お菓子とか出してくれて。そのあと、その家にいた女の人と公園に行って遊んだんですよね。昼に行って夕方くらいに帰りましたけど、帰り道、父にたっぷりお小遣いをもらって、今日のことはおかあさんにも誰にも言ってはいけないと言われたんです」

父親はどうやら愛人との密会のアリバイに、幼い娘を使ったようだ。そんなことが何度かあったとヒロミさんは言う。

中学生になるころには、父親が週の半分くらいしか帰ってこないのも愛人宅にいるからだとわかっていた。それでもたまに父がいる日曜日など、母はウキウキしながらたくさんの料理を作った。父がそれで饒舌になるわけでもないのだが、母はひとりでしゃべりまくって「今日は楽しいね、ヒロミ」と同意することを強要してきた。

「それでいて、その晩、母は父にネチネチ言いながら泣くんですよ。もちろん、父がいけないのはわかっている。だけど母の態度にも私は疑問をもっていました。私はわかっているから、おかあさん、離婚しちゃえばと言ったこともあります。母は、『何を言ってるの、おとうさんがいちばん好きなのはおかあさんなんだからね』と血相を変えて怒っていましたね。他に女性がいることなど認めたくなかったのかもしれません」

表向きには母はいつも「幸せ」をアピールしていた。家族旅行などしたこともなかったが、近所の人には「うちの夫は研究が忙しくて時間がとれない。社会的に意義のある仕事をしている夫って、家庭的じゃないんですよねえ」などと嘆きながら自慢をしていた。

「ウソばっかりと思っていました」

ヒロミさんは苦笑する。

 

母と違う人生を歩みたいのに

大学は実家から遠いところを選んだ。母は「なぜ」と言ったが、彼女は答えなかった。就職して東京に戻ったがすぐにひとりで暮らし始めた。父は相変わらずの暮らしをしていたようだし、弟も実家を出た。母は「幸せな家庭」を演出することができなくなっていった。

「そうしたら今度は縁談ですよ、私の。『早いうちに結婚すれば、私もまだ元気だからいくらでも育児ができる』って。私の子を自分が育てるつもりでいるんですよね。そこでまた“家庭”らしきものができるから、それで幸せをアピールしようとしたんでしょう。私はもううんざりだ、と言いました。おかあさんの欺瞞につきあいきれない、と」

もうすでに、母を「あきらめていた」ヒロミさんだが、そこで初めて完全に母を突き放した。それからは数ヶ月に1度、電話で安否確認をする程度のつきあいだ。一方で、父とはときどき食事をする。

「どうやら相手をとっかえひっかえ、今も誰かとつきあっているようです。いい年してよくやると思うのですが、実は父は情の深い人で、困っている女性を助けずにはいられないところがあるみたい。ではなぜ母を大事にしないのか。父曰く、母の大げさな対応がどうしても鼻につく、と。『あの人は嫉妬では泣かない。プライドから泣くんだ』って。嫉妬なら心が揺さぶられるけれど、本人のプライドのために哀れなオンナを演じるから、どうしても感情移入ができない、と。わかる、と私も言いました。

今でも近所には、『一流企業で出世している優秀な娘と、大学で教鞭をとるできすぎた息子がいる。夫は研究者を退職して別の研究所に三顧の礼で迎えられた』と話しているそうです。私は中堅企業で別に出世なんかしてないし、弟は地方大学の非常勤だし、父は別の研究所で補助職に潜り込んだだけ。母だけは見栄と虚飾の世界に生きているんですよね」

その母がいる限り、ヒロミさんは自分は結婚できないと思って生きてきた。そして実際に結婚していないし、特に結婚願望ももっていない。結婚して自分が虚飾に生きる可能性が否定できなかったからだ。母をあきらめても、母の影響力からは逃れられないかもしれない。その恐怖感が彼女から結婚という選択肢を奪ってきた。

「今もパートナーみたいな男性はいるんですが、やはり家庭持ちなんですよね。自分だけを見ない人だから安心して愛せるような気がしています」

どう生きようが本人の自由だ。だが、彼女が「母だけでなく、自分自身をもあきらめている」ならそれは過剰反応なのではないか。自分だけを見てくれる人を求めるのは、ごく自然なことではないかと思えてならない。
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