亀山早苗の恋愛コラム

「女だからでしゃばるな」と育てられた女が、結婚に幻滅して選んだ道

この国では、何でもいまだにステレオタイプでカテゴライズされることが多い。「男だから」「女だから」が顕著な例だろう。そういう言葉にひっかかってしまうと、人より生きづらくなるのも確か。それでも日々闘ってしまう女性がいる。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

恋愛ガイド

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「女だから」に苦しめられてきた女性がとった道とは

女だから

この国では、何でもいまだにステレオタイプでカテゴライズされることが多い。「男だから」「女だから」が顕著な例だろう。そういう言葉にひっかかってしまうと、人より生きづらくなるのも確か。それでも日々闘ってしまう女性がいる。

 

「女の子だから」と言われて育った

2歳上の兄と3歳下の弟にはさまれた女の子として、北陸地方のとある兼業農家に育ったサヤカさん(37歳)。

「私の年齢でも、親戚や祖母などに『女の子は勉強なんてできなくていい』と何度言われたことか。私はたまたま兄や弟より勉強ができたんですよ。そのたびに『男より前に出てはいけない』と言われてムカついていました」

彼女は「知る」ことが好きだったのだという。だが家では、勉強時間を削るように母から家事を言いつけられた。兄や弟はまったく手伝わされなかったのに。

さらにスポーツもできたため、学校では目立つ存在だったが、母はそれも心配していたという。

「いつも『女だから控えめにしておけ』という圧力を感じながら大きくなりました。兄は大学受験に2度失敗して、結局、農業を手伝っていました。私は東京の大学に受かって……。周りは反対しましたが、父が賛成して行けと言ってくれた。それで行けることになったんです。『おとうさんのひと声がなかったら行けなかったんだからね』と感謝を強要する母親にはうんざりしましたけど。それにそもそも、女は大学に行く必要はない、だけどそれを許してくれたおとうさんすごい、という発想もどうかしてますしね」

サヤカさんの言うことは至極、まっとうなのだが、いまだにこうした考え方が残っている地域や人々がいるのは事実だ。

東京の大学に進んだサヤカさんは、解放された気分で日々、学業、友人とのつきあい、アルバイトにサークルとめいっぱい楽しんだ。

「田舎には帰りたくなかった。だから自分のやりたいことを見つけて仕事にしていく。そういう思いで4年間を過ごしました」

幸い、第一志望の会社から採用通知を受け取った。

 

好きな人に巡り会えたのに

職場は男女の賃金格差もなく、女性が働きやすかった。彼女の職場選びは「男女差のないところ」だったのだ。

「仕事は厳しかったけど、がんばればそれだけ認めてもらえる。それが私には心地よかった。遠慮しないで生きていけるのはすがすがしいことですよね」

20代後半、学生時代の友だちが少しずつ結婚していった。そして結婚となると、あんなに自由を謳歌していた友人たちが急に、「うちの田舎の親戚みたいなことを言い始める」とサヤカさんは知った。

「東京で生まれ育った友人でも、『彼の実家に初めて行くときは、やっぱり花柄とかの柔らかめのワンピースがいいよね』とか『結婚したら夫を立てないとうまくいかないと思うの』などと言い出して……。今までの人生を棒に振るの?と言って友人に嫌われたこともありました」

東京に出てきてようやく「自由」をつかみ、自分で働いたお金で好きなことができるのを心から喜ばしいと思っていたサヤカさんには、なぜ結婚となると、女性たちが従来の「女だから」という考え方をするようになるのかまったく理解ができなかった。

「30歳のとき、友人の結婚式で知り合った男性がいるんです。彼は『人間は何より自由が大事』というタイプ。気が合ってつきあうようになりました。彼との時間は楽しかった。美術館巡りをしたり旅行をしたり。何を言っても否定されない、女だからでしゃばるなと言われることもありませんでした」

気楽につきあっていければいい。そう思っていたのだが、ある日突然、自由が大事だと言っていた彼が「結婚しよう」とぽつりと言った。

「どうしてと思わず聞いてしまいました。すると彼、『オヤジが余命宣告されちゃったんだよ。結婚しろって心配していたから、せめて結婚したよってあなたを連れて帰りたいんだ』と。親のために結婚するわけ、と思ったけど、彼の悲しそうな顔を見るとそうも言えなくて」

サヤカさんは結婚に同意した。式はせず、夫の実家に行ってみんなの前で写真だけでも撮ろうと話し合った。

「夫の父親は喜んでいましたね。それを見て、私も悪い気はしなかった。写真を撮って夫の実家に来てくれた人の前で婚姻届を書いて」

帰京してから新居をどこにするかなど検討を始めた。まずは夫の父親に会って早く結婚することが先決だったので、何も決めていなかったのだ。

「私は同居しなくてもいいと思っていたんですが、彼は『結婚したらちゃんと同居しなくちゃ』と。そして『仕事は続けるの?』と言ったんですよね。びっくりしました。『私があなたにそう聞いたらどうするの?』と尋ねると、『男にはそう聞かないでしょ』って。仕事は続けるに決まっていると強く言いました。そうしたら彼、『あんまり家庭に支障のないようにね』ときた。いやいや、ちょっと待って、私たちの結婚って、そんな従来通りの役割に則ったものなの、あなたはそんな不自由な人だったのと思わず言いました」

すると彼は、もともと結婚はしないつもりだった。だけど結婚すると決めたからには、きちんと夫として男として役割を果たしたい、と告げたのだそう。

「げんなりです。本当に幻滅した。彼ですらそういうことを言うのか、と。女性の尊厳を守るとか自由を大事にするというのは独身時代限定のことだったんですね、彼にとって。そういう人と一緒にはなれない。すでに婚姻届は出してしまいましたけど、翌日、すぐ離婚届をもらってきました。彼は『それだけはやめてほしい。せめてオヤジがいなくなるまでは』と泣き出してしまって。どんどん私の見たくない彼の姿が現れてきて、この結婚が大失敗だったと気づきました」

そのまま同居することはなく、数ヶ月後、彼の父が亡くなってすぐに離婚届を出した。ただ、それですっきりしたわけではなく、むしろ子どものころの「女だから勉強しなくていい」「でしゃばるな」という言葉が戻ってきて、苦しんでいる。

「結婚するなら夫らしく王道を行きたい。そんな彼の気持ちがわからなかった。夫として王道を行くのは、妻の仕事に反対することなんでしょうか。先に結婚していった友人たちにその話をしたら、『夫の稼ぎだけで暮らせればいいよね』とか『彼、責任感が強くていいじゃない?』なんて言われて、さらにがっくりきました」

恋愛は自由な「つもり」でいても、結婚となると従来の男性優位の立場に、女性自身も考え方が変わってしまう。それは決して自由ではない。

サヤカさんはそれからも「結婚後も対等につきあえる人」という視点で男性を見ている。なかなかこれと思う人には出会えないそうだ。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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