ウイルス・菌が食品についていたら……調理時にできる感染対策
食中毒の原因にもなるウイルスや菌。料理で感染しないための対策法は?
まず、生で食べるサラダや果物は手と同じで「よく洗う」ことが基本。手の場合はアルコール消毒や石鹸などでしっかり洗うことが推奨されていますが、食品は基本的には流水で洗えば十分です。どうしても気になるのであれば、台所用洗剤の中には野菜や果物を洗うことができる商品もありますが、残留しているかもしれないウイルスや菌よりも、洗浄がうまくいかず洗剤が残ってしまう可能性があります。洗剤が残ってしまっても健康被害はないとはいわれていますが、気持ちのいい話ではないので、あえてオススメはしません。
そして肉や魚などは「中心までしっかり加熱する」ことが重要です。以下で詳しく解説します。
<目次>
食中毒の原因にもなるウイルス・菌の違い
ウイルスと細菌の違いは、学術的にいえば、細胞を持っているかどうかの違いです。細胞は生き物といえますが、ウイルスは生き物の定義には当てはまりません。ウイルスは細胞を持っていないため、他の生物の細胞に侵入し、その生物の細胞が増殖する際に一緒に増えます。“他力本願で嫌なやつ”ですね(笑)。「生き物」の定義に当てはまらないため、よく使われる「ウイルスが死ぬ」といった表現は実は不正確。学術的には「不活性化する」と表現します。(※このため、ウイルスと菌を一緒に解説するのは少し難しいのです。今回はひとまとめに解説する場合、ウイルスに対しても「死ぬ」「死滅する」という表現を残しますが、ウイルスのみに対してはなるべく「不活性化する」という表現を使いたいと思います。わかりにくい方は頭の中で「ウイルスが死ぬ」と解釈してください)。一方で、細菌は細胞を持っている「生き物」なので、栄養さえあれば自力で増えることができます。どちらも肉眼では見えないくらい小さいですが、細胞を持っている分、細菌のほうが大きいです。詳しく知りたい方は、AMRリファレンスセンターの『細菌とウイルス』をご参照ください。
加熱調理の効果は? → ウイルス・菌に有効だが例外に注意
ウイルスも細菌も、加熱によって死滅(不活性化)します。ウイルスは細胞に寄生しており、細胞と共存しています。細菌は細胞を持っています。いずれも細胞にはタンパク質があるので、加熱をすることで死滅します。ただし、「芽胞」を作るボツリヌス菌やウェルシュ菌は加熱直後は毒性を失っても、時間が経つと芽胞から増殖し、再び毒性を持つことがあります。
カレーやシチューなどの煮込み料理で食中毒が多いのはこれらの細菌が原因です。「一晩寝かせたカレー」は確かに味がなじんで美味しいのですが、しっかりと確実に再加熱してから食べるようにしてください(この話を看護師さんたちにしたことがありますが、師長クラスでも驚いていた方もいました。意外と知られていないことかもしれません)。
冷蔵・冷凍保存の効果は? → ウイルス・菌は死滅しない
ではウイルスや菌のついた食材を冷蔵庫や冷凍庫に保存した場合はどうでしょう? 残念ながら、ウイルス・菌は、冷蔵・冷凍では死滅せず、そのまま耐えることができます。しかし多くは冷蔵・冷凍では増殖することはできません(冷蔵の場合、増殖のスピードが遅くなるだけのこともあります)。冷凍した鶏肉から食中毒菌であるカンピロバクターが検出されるなどの報告例(「カンピロバクター食中毒」(東京都福祉保健局))もあるので、冷凍しても完全に死ぬことはないと思っておきましょう。
一方で、冷凍して死ぬわけではありませんが、製造工場などで、殺菌・滅菌して作った冷凍食品は衛生管理がしっかりしていますので、解凍・再冷凍を繰り返さない限りは、衛生的で安心です。しかし一旦解凍したものを再冷凍した場合はもう保証の範囲外ですので、ここも注意が必要です。
長期保存の効果は? ウイルスは不活性化するが、菌は死なない場合も
ウイルスの場合は、一定の時間、物に付着したり空気中に浮遊したりした状態のままで細胞に侵入できなかった場合、不活性化します。細菌の場合は、栄養がなければ死滅しますが、栄養分と一緒に保存すれば死滅しません。
「手洗い・食材管理・加熱」で上手にウイルス・菌対策を
病院や学校などの調理場でも、ウイルス対策や感染症予防のために、家庭ではできないような特殊なことを行っているわけではありません。食品に付着しているかもしれないウイルスや菌以前に、まずは健康な人が調理をすることが大前提。現在は新型コロナウイルス感染症が流行しているため通年となっていますが、コロナ以前にもインフルエンザなどの流行期には、調理を行う人たちが厨房にウイルスを持ち込まないために、出勤時の体温チェックなどを実施してきました。そのうえで、調理担当者は調理をする前や、調理作業が変わるたびに「手を洗うこと」を徹底的に行います。これは現在のような非常時に限らず、常に徹底して行っていることです。院内調理を担当する調理師や栄養士は、人参を切った→手を洗う→フライパンを振る→手を洗う……というくらい、一つ一つの作業の間に何度も手を洗います。
手洗いをしっかりすることと、食材の衛生管理、加熱による完全滅菌をしっかりと守れば、食事からウイルスや菌に感染するリスクは十分減らせると思います。こまめな手洗いによって手荒れをしてしまう場合は、「ワセリン」で保湿するのがよいでしょう。予防のために就寝時にワセリンを塗って綿手袋をして寝るのもおすすめです。
できることを工夫しながら、非常時でも安心して、豊かな食生活を楽しみましょう。
【関連記事】