結婚って何だろう~「必要とされなくなった」さみしさを、しみじみ語る40代女性
生きるとは、結婚とは、恋愛とは……。そうした壮大な問いを自分に課すと、とたんに苦しくなることがある。人の営みだからといってしまえば簡単だが、そうはいかないさまざまなものを抱えて生きていくのが人間でもある。
生きることは思い通りにいかないことを知るための道なのだろうか。
あっけなく子どもが巣立って
30歳で職場の同僚と結婚、31歳でひとり息子を授かったミチコさん(47歳)。もうひとり子どもがほしかったのだが授からなかった。
「私は子育て中心、子どもが小学校に上がってからはパートで仕事をしてきました。息子は小さいときから自立心が旺盛だったんですが、高校は遠方の全寮制の学校を希望したんですよね。それはちょっとショックでした」
首都圏に住んでいるのだから、大学を出るまでは一緒に暮らすのが当然だと思っていたからだ。だが息子は別の道を見ていた。
「全寮制の高校を出たら、日本の大学に行くか留学するか。いずれにしてももう、自宅で親子三人一緒に暮らすことはないみたいです」
少しさみしそうにミチコさんはそう言う。
「夫は今、仕事が非常に充実しているようです。出張も多いし、今さらだよなと言いながらフランス語の勉強も始めている。『オレのことは気にしなくていいから、きみももう一度、独身に戻ったつもりで好きなことをすればいいよ』と言うんですが、私はなんだか突き放されたような気分で……」
高校に入った息子からは、めったに連絡がない。たまに携帯で連絡をとっても「元気だよ、毎日楽しい」という返事が返ってくるだけ。
「夫も息子も、私なんてもういてもいなくても同じなのかなと思って」
必要とされることに喜びを見いだしてきたミチコさんだからこそ、自分の存在価値すら揺らいでいる。ならば親はどうか、と電車で30分ほどのところに住む両親に連絡をすると、ふたりともそれぞれ趣味や地域の活動で忙しいという。
「70代後半ですが、両親は元気で……。結局、私だけが何をしたらいいかわからない状態なんです」
やりたいことを見つけるといっても、今まで家族が最優先だったのだから、おいそれとは見つからないとミチコさんは嘆く。
外に出るのが億劫になっていく
現在、ミチコさんは週に3回、パートで仕事を続けている。「仕事をやめたら、本当に外に出なくなってしまうので無理やり続けています。でも夫は平日、ほとんど家で食事はとらないし、週末もゴルフだサッカーだとつきあいや遊びで忙しく、あまり接点がないんですよね。だからずっとひとりでさびしくてたまりません」
パート先には仲間もいるが、「ミチコさんはもう自由でいいわね」と言われるばかり。たまにみんなでお茶を飲みに行ったりもするが、話はあまり合わない。
「学生時代の独身の友人とも会いましたが、彼女はバリバリのキャリアウーマン。やはり話が合わないんですよね」
自分の存在がマイナーだと感じられると、人は「話の合う人がいない」と思いがちだ。立場の違いを乗りこえて人間関係を築いていくしかないのかもしれない。
「パート以外は家にひきこもっていたんですが、今年になって映画を観たいとふと思ったんです。私、学生時代は映画研究会にいたんですよ。それでひとりで映画を観に行くことが多くなりました」
だからといって、孤独感が解消されたわけではない。映画館を出てふっと空を見上げ、涙がこぼれたこともあるという。
「結婚して子どもを育てて、その子があっという間に離れていって。ふと気づいたら夫とも心身ともに距離がある、親には親の生活がある。生きることも結婚生活も、なんだか虚しい。その思いが消えません」
子どもがいてフルタイムで働き、夫は協力もしてくれないから忙しくて何もできない、いつか自分の好きなことを思う存分やれる時間をもつことができるのだろうか、と悩んでいる30代、40代の女性たちも多いだろう。忙しすぎるのもストレスだが、「私がやらなくて誰がやる」と思えることがあるのは、それなりにいいことなのかもしれない。
「私なんて、今、自分が消えても誰も困らないだろうなと思うんです。家族は悲しいと思ってくれるかもしれないけど、実質、誰も困らない。そういう存在である私ってどうよ、と感じますね」
やりたいことだけをできる人生でもある。これをまた羨ましがる人たちも少なくはないだろう。本当は「子だくさんの肝っ玉母さん」になりたかったというミチコさん、人生は思い通りにはいかないものだ。