亀山早苗の恋愛コラム

母親の介護に必死な夫、なんだかモヤモヤする私は狭量なのか

誰にとっても親の介護が問題になっている昨今。その問題が浮上したとき、夫婦の間に微妙な亀裂が入ることもある。自分の家庭がありながら介護を続けていくのは大変なことだ。

亀山 早苗

執筆者:亀山 早苗

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母親を必死に介護する男たち

介護する男

誰にとっても親の介護が問題になっている昨今。その問題が浮上したとき、夫婦の間に微妙な亀裂が入ることもある。自分の家庭がありながら介護を続けていくのは大変なことだ。

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夫が母親の介護をしたいと言い出して

「今、夫は母親の介護をするために実家に戻っているんです」

そう言うのはトモカさん(43歳)だ。48歳の夫の母親は80歳。夫亡き後20年あまり元気にひとり暮らしをしたきたのだが、2年前に自宅で転倒して以来、足腰が不自由になってしまった。最初は近くに住んでいた夫の妹一家がめんどうをみていたのだが、昨年、妹の夫の仕事の関係で一家は海外へ。夫は悩んだ末、自分が介護することに決めたのだという。

「とはいえ、実家は自宅から2時間かかる場所。当然、会社勤めを続けるのはむずかしいわけです。夫は会社を辞めると言い出した。うちのひとり息子はまだ高校生。これから学費もかかる。私自身も仕事を続けていますから、生活はなんとかなりますけど将来的には不安でした」

夫婦で話し合ったが妙案は出ない。施設に預けるという考えは、夫にはまったくなかったという。トモカさんからすれば、施設に預けてなるべく頻繁に会いに行くのがいちばんだと思っていたそうだ。

「それが現実的でしょう。私は自分の親にはそうするつもりです。だけど夫は『おかあさんと一緒にいたい』と泣いて。それほど母親への思いが強いとは思っていませんでしたから、ちょっとびっくりしましたね」

施設という言葉をトモカさんが出した瞬間、夫は険しい顔をして黙り込んでしまった。その様子を見て、好きにさせるしかないと彼女はあきらめた。

「ただ、夫の生活費までは出せませんからね、それだけはなんとかしてほしいと。夫は、実家のあたりの行政を頼ってヘルパーさんに来てもらい、短時間のバイトをしたり家でできる仕事をしたりしているようです。あとは義母の年金と貯金でなんとか最低限の生活はできているみたい」

それにしても、とトモカさんは続ける。

「家事などゴミ出しくらいしかしなかった夫が、母親のためには三度の食事を作ったりお風呂にいれたり、いろんなことをしている。私たち家族って何だったんだろうと思いますね」

母親の介護という問題が出てきて、夫は仕事も家族も「捨てた」と彼女は感じている。それは今後の夫婦関係にも大きな影響を及ぼすだろう。

 

母のためにすべての時間を捧げる独身男性

男性ひとりで母親の介護をする話を、最近、特によく聞くようになった。バツイチ独身のタクノリさん(44歳)も、日々を母親に捧げているという。

「バツイチで親元に戻ったのが7年前。その直後に父が亡くなって、以来、母は僕のために家事すべてをやってくれた。母の作った料理は、僕の心身の支えでした」

そんな母が1年前に脳梗塞を発症、半身に麻痺が残った。一時は自力で歩くこともできなかったが、リハビリのかいがあって、現在は杖を頼りに少し動くことができるようになった。

「基本的には僕が家事をやっていますが、体調のいいときは母が夕飯のおかずを一品作ってくれたりするんですよ。涙が出ます。離婚して戻った僕を心配して病気になったのかもしれない。そう思うと、仕事以外の時間はすべて母のために使おうと思うんです」

そんなタクノリさんには恋人がいた。だが母が倒れてから、1年ほどつきあっていた彼女との間がぎくしゃくするようになった。

「彼女と会う時間がなくなったので、しかたがないですよね。彼女は手伝うと言ってくれたけど、母の介護を彼女にさせるつもりはありません。かといって外でデートする時間もとれない。たまには外で気分転換をしてくれば、と母も言ってくれるのですが、僕としては母のことが心配で自分のために時間を使う気にはなれないんです。正直に彼女にそう言ったら、『それって異常。ドン引きするわ』とフラれてしまいました」
 

親の介護は立派なことなんだろうけれど……

彼女の気持ちがよくわかると言ったら、タクノリさんに呆れたような顔をされてしまった。母親の介護に積極的になる男性はおそらくやさしい人なのだろうが、母への思いがなんとも湿度の高いものだからこそ、彼女も引いてしまったのではないだろうか。母と息子の密着感が、彼女にとっては心地いいものではなかったはずだ。

親の介護に打ち込むことは決して悪いことではない。親孝行として褒められるべきなのかもしれない。だが、あくまでも自分の人生あっての介護ではないだろうか。そんなふうに言うと、冷たい人間だと思われるかもしれないが……。


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【マンガ/前編】母親の介護に必死な夫、なんだかモヤモヤする私は狭量なのか
【マンガ/後編】母親の介護に必死な夫、なんだかモヤモヤする私は狭量なのか

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