格下相手にベストメンバーで戦う理由とは?
ラグビーW杯が大きな盛り上がりを見せているなかで、サッカー日本代表が2022カタールW杯アジア2次予選を戦った。9月のミャンマー戦に続いて連勝を飾ったチームは、森保一監督の就任から1年強を経て、順調にレベルアップしているのか。日本代表は10月10日に2022カタールW杯アジア2次予選第2戦でモンゴルと対戦し、6対0で快勝した。同15日にはアウェイでタジキスタン戦に臨み、3対0で勝利した。
タジキスタン戦に臨んだサッカー日本代表。当初は鎌田大地(後列右端)が1トップに入ったが、後半はポジションを変更し、南野拓実(前列右から2番目)が2ゴールを決めた(写真:JFA/アフロ)
モンゴルはFIFA(国際サッカー連盟)ランキングが183位で、タジキスタンは115位である。31位でアジア2位の日本にとっては、負けるはずのない相手である。
それだけに、森保一監督のメンバー選考が一部で議論を呼んだ。
23人の代表メンバーのうち20人までが、「海外組」と呼ばれるヨーロッパでプレーする選手だった。しかし、W杯予選のような公式戦でピッチに立てるのは、先発と交代を合わせて14人である。「相手は格下なのだから、先発で出られない選手、出場時間の短い選手は、わざわざヨーロッパから呼ばなくてもいいのでは?」との疑問の声があがったのだった。
スペイン1部のマジョルカに所属する久保建英は、タジキスタン戦の残り数分間の出場のみに終わった。出場のなかった海外組もいる。「せっかく呼んだのに使わないのか」との印象が広がっていくのも、しかたのないことだったかもしれない。
森保監督には明確な意図がある。
日本を含めた世界各国の代表チームは、FIFAが定めたスケジュールに基づいて活動する。次回は11月で、その次は来年3月だ。
活動期間は限られているが、そのたびにチームを前進させなければならない。そこで、森保監督は試合だけでなく練習も含めて、チームの底上げを図っていこうとしているのだろう。
今回であれば、10月7日の集合から15日の試合までの9日間を通して、チームの練度を高めていこうとしたのである。試合はもちろん日々のトレーニングも、重要な位置づけを持つ。ベストメンバーを招集したのはそのためだったのだ。
大迫不在時のオプションは?
戦術的なポイントは、大迫勇也を欠いたなかでの戦いぶりだった。森保監督が採用する4-2-3-1のシステムで、大迫は「1」にあたる1トップの役割を担ってきた。ドイツ・ブンデスリーガのブレーメンに所属するこの29歳は、最前線でボールを収めて攻撃の起点となる。ポストプレーヤーと呼ばれる彼がいることで攻撃に厚みが生まれ、指揮官が求める連動性が生まれていくのだ。もちろん、シュートシーンでの決定力にも信頼感がある。
モンゴル戦では、永井謙佑(FC東京)が1トップを務めた。彼はスピードを最大の武器とするが、モンゴルは自陣深くに守備網を張り巡らした。走り込むスペースはほとんどない。それでも、「3の右」で起用された伊東純也のドリブル突破が、相手の網を広げた。右サイドバックの酒井宏樹の攻撃参加も効果的で、日本は6対0で大勝した。
続くタジキスタン戦では、鎌田大地が1トップに入った。モンゴル戦と同じくスペースを見つけにくいなかで、ドイツのフランクフルトでプレーする23歳も攻撃の起点に成り得ない。1トップではなく「3の中央」が適正ポジションだけに、他でもない彼自身が居心地の悪さを感じているようだった。
勝利を引き寄せたのは、後半のポジション変更だった。トップ下といわれる「3の中央」でプレーする南野拓実(ザルツブルク/オーストリア)が、鎌田とポジションを入れ替えたり、2人が横並びになるようなポジションを取ったのだ。
森保監督就任後の日本代表で、南野は最多得点をマークしている。大迫のようなポストプレーは得意としていないが、DFと駆け引きをしながら背後を突いたり、ゴール前で瞬間的にフリーになったりする感覚は鋭い。タジキスタン相手に前半は無得点だった日本だが、後半は南野が2得点を挙げるなどして3対0で勝利したのだった。
「W杯で通用するのかどうか」でチームの現在地を評価して
大迫に代わるポストプレーヤーを探すのは、率直に言って難しい。タジキスタン戦の後半に見られた南野と鎌田の位置関係は、大迫不在時のオプション作りの参考になるだろう。いずれにしても、チームの現在地を評価する出発点は「W杯本番で通用するのかどうか」だ。保有戦力を無駄なく、かつ効果的に生かせる組み合わせに、11月14日の予選第4戦でもトライしていくべきだ。