一方で、私が驚いた日本の栗のお菓子は、岐阜の老舗菓子店・すやの「栗きんとん」。スペイン菓子・ポルボロンを思わせるほろっと溶けるような食感で、口に入れるとまったりとした濃厚な栗の味が広がります。レトロなパッケージもお気に入りです。
スペインの栗菓子ともおせちの定番メニューとも違う!
私が暮らしていたスペインでも栗は人気の秋、冬の味覚。毎年秋になると、街中の道端に小さな屋台が出て、石炭で栗を焼いて販売しています。焼き栗はスペイン語で「カスターニャス・アサーダス」というのですが、その香ばしい香りは、私にとって懐かしいバルセロナの秋冬の香りです。新聞紙をコーン型に折った容器にたくさんの焼き栗が詰まっています。
もうひとつ、スペインで食べられる栗のお菓子があります。それは「マロングラッセ」。甘く煮た栗を砂糖でコーティングしたものでありフランス菓子として有名ですが、栗が採れるスペイン北部のガリシア地方でも生産されています。スペインのマロングラッセはフランスのものと比べて、しっとりしているのが特徴です。
このような栗のお菓子があったので、スペイン滞在中も栗を食べられなかったわけではありません。しかし、帰国したときにすやの「栗きんとん」を食べたときには驚きました。一般的に知られているおせち料理の栗きんとんではありません。
あれはあれで好きなのですが、すやの「栗きんとん」を食べた日から、私にとっての栗きんとんは「おせち料理のひとつ」ではなくなりました。
家族ぐるみで大好きな高級感のある味わい
亡くなった私の祖母は、菓子処として知られる島根県松江市の出身で、全国のおいしい和菓子に目がありませんでした。その祖母が、私のスペイン滞在中に実家を訪れたときに持ってきたのが、すやの「栗きんとん」です。実家ではそれ以来家族でハマっていたようで、私がスペインから帰国した際に「すごくおいしい和菓子」として、食べさせてくれたのです。口のなかで溶けるようでありながら、小さな栗の食感も残り、飲み込んだあとも口のなかに幸せな余韻が残ります。初めて食べたとき、「この繊細さはスペインのお菓子にはないかも……」と感激しました。
値段は見ていなかったものの、一度食べて「上等なお菓子」という位置づけになったのです。
初めて食べたあの日から、すごくていねいに少しずつ口に入れて味わって食べるようにしていたのですが、ものすごくお腹がすいていたある日、妹が差し出してくれた「栗きんとん」を思わず一口で食べてしまったことがあります。
すると、「今、一口で食べた! これは一口で食べるお菓子じゃない! もうあげないよ!」と妹に怒られてしまいました。高級感のある味わいを考えると、確かに妹が言ったことは一理あります。
レトロなパッケージは外国人へのお土産にもおすすめ
すやは、元禄年間の時代に酢の店として創業したのが始まり。元禄とは1688年から1704年までの時代のこと。そんな昔からあるお店がお酢屋さんからお菓子屋さんになり、現在も残っているというのですから、歴史を感じさせます。
栗きんとん自体は岐阜県中津川の名産であり、多くの菓子店が販売しているのですが、すやのものは、パッケージも素敵です。
外国人の方へのお土産にぴったりな浮世絵風の絵がプリントされています。「とっても高級な素晴らしいお菓子をもらった!」と喜んでくれることうけあいです。
箱を開けるとひとつずつ小分けで包装されているため、プレゼントされた外国人の方は一口で食べてしまうかも。でも、ちょこちょこ小口で食べる習慣がないだけで、おいしさにはきっと感動してくれると思います。プレゼントした外国人の方が一口で食べてしまっても、怒らずに見守ってあげてくださいね。