埼玉の人気菓子店「アカシエ 北浦和本店」のケーキからわかる、新たな魅力とは?
2018年10月11日、浦和の「パティスリー・アカシエ」が、「アカシエ 北浦和本店」をオープン。移転ではなく、浦和区仲町にある「浦和店」との2店舗体制での新たなスタートです。新店舗は、以前より最寄りJR駅から近く、JR京浜東北線・根岸線「北浦和」駅から徒歩7分。「北浦和公園」を抜けた住宅街の中にあります。イートイン席も併設され、華やかな生ケーキ類はもちろん、ギフト菓子もいっそう充実!
埼玉県さいたま市浦和区に開業して11年。これを機に、店名も「ACACIER アカシエ」にリブランドし、ロゴもリニューアル。興野 燈(きょうの・あかし)シェフがこれまで出会ってきた全国の素材とその生産者、つまり「人」との繋がりと絆を大切に、フランス菓子の「パティスリー」という業態にこだわることなく、本当に魅力あるものを埼玉から発信していこうというお店なのです。
「アカシエ」の新しいロゴの3つの輪は、人と人との繋がりを表しています。外側にある3つのしずく形のものは、それらの人の頭。両手を広げた3人が、手と手を繋いでいる様子を抽象的に表現したものです。その3人とは、「生産者、加工者・販売者(パティシエやヴァンドゥーズ)、 消費者」。興野シェフは、ここ数年、各地の農家さん訪問や交流を通じて、これらの繋がりを特に強く意識するようになり、お菓子を通じて、三者全員がHAPPYになれることを目指していらっしゃいます。さらに、このしずくは、果実のしぶきでもあり、鮮度やみずみずしさも表しています。
そして、少し回転しかかっているような向きなのは、「型にはまらず、まだまだ回り続ける」という意味。整った左右対象ではなく、あえて少し動きを出しているのが、いかにも興野シェフらしい。もう一つ、この図は、上から見たフランス菓子の「サントノレ」のデザイン。「アカシエ」のスペシャリテとして知られている「アントワネット」のベースでもあり、興野シェフの原点であるフランス伝統菓子の意匠も織り込まれているのです。
「アカシエ 北浦和本店」の外観は、ブランドカラーであるオレンジを配しながらも、木目ベースのやさしい雰囲気。パリの街にありそうないかにもフランス風の建物というのではなく、どこか京都を思わせるような和風建築の縦格子や木目、洋風にも和風にも見える照明などを採り入れています。これも、興野シェフが目指す新たな店づくり、ブランドづくりの一環なのです。
外壁に描かれた「Le Marché du Sucré」は、“甘いもののマーケット”といった意味。「パティスリー」や「ショコラトリー」といった定義ではなく、より自由に、興野シェフが各地で出会ったフルーツの魅力的な一次加工品や、お菓子の素材まで含めて知ってもらい、販売していきたいという気持ちが込められています。
まず、「アカシエ 北浦和本店」の生菓子のショーケースは、左右で雰囲気が異なるのに注目!左のケースには、「アントワネット」や「エクスキ」、「アリババ」「デリス・マカダミア」「ラム・レザン」「パレ・オール」「スーヴニール」「ミルフイユ・トラディショネル」「オペラ」「モンブラン・パリジェンヌ」、さらに各種「マカロン」などなど、「アカシエ」を代表する生菓子が勢揃い。もちろん、秋から冬にかけて登場する、和栗を使った「モンブラン・ジャポネーズ」など、季節限定の品も並びます。
そして、木製の台で温かみのある雰囲気を醸し出す右のケースは、農家さんから届く旬のフルーツを主役とした、ショートケーキやタルトが並ぶスペースです。たとえば「タルト・フレーズ・トチオトメ」は、宮城県山元町の農家さんから届く「とちおとめ」苺を使ったタルト。
「アカシエ」にはもともと、「フレジエ」という、フランスの伝統菓子である苺のケーキがありますが、このタルトシリーズは、フルーツの魅力を最大限活かすための形状や製法を試行錯誤して生まれた、「アカシエ」独自のスタイルです。
ポイントの1つは、バターとカスタードクリームを合わせた濃厚なムースリーヌクリームの中に、大ぶりのフルーツをごろっと閉じ込めていること。これにより、フルーツの旨み、みずみずしさが閉じ込められ、口の中で噛んだ時に、じゅわっと果汁があふれ出ます。時には皮ごと使うことでフルーツの香りや旨味を余すことなく活かし、ほどよい酸味や甘味がクリームのコクと合わさって、得も言われぬ味わいを生み出します。
もう1つのポイントは、表面の仕上げ方です。生のフルーツを単に山盛りにするというのではなく、あえて口当たりにも配慮して薄くスライスし、上から薄くジュレをかけています。これにより、彩り豊かで華やかな見た目になるのはもちろん、フルーツが乾いたり、種類によって色が変わったりすることも防ぐことができます。さらに、そのまま飾るとなると、形や見た目が揃った綺麗な果実だけを選別して、少しでも遜色があれば別の用途に回す、といったやり方になりますが、この仕上げ方であれば、多少形が揃っていなくても、無駄なく使うことができるのです。
農家さんのフルーツに対する愛情に触れた興野シェフが考案した、オリジナルスタイルのタルトは、初夏はさくらんぼ、夏は桃やマンゴー、晩夏から秋はぶどうなど、季節に応じた品が登場するので、毎年、楽しみですね!
同様に、ショートケーキも、苺は定番ですが、季節のフルーツを使ったものが登場します。「ル・ショートケーキ・オ・フレーズ」にも、宮城県山元町産の「とちおとめ」を使用。生地にアーモンドパウダーが入っているのも特徴です。
オープン時には、秋らしい「ル・ショートケーキ・オ・ポワール・マロン」も登場。農家直送の洋梨をサンドし、和栗のクリームも使用。生クリームにもほんのり栗の香りをプラスしたり、スポンジにキャラメルシロップを打ったりと、フルーツだけ変えて全く同じ構成、というのではなく、素材に合わせてきめ細やかな微調整をしているのも、興野シェフらしいこだわりです。
そして、感動の一品が、秋から冬の限定となる、青森県産の「紅玉」を使った「タルト・タタン」。以前にも特集でご紹介していますが、興野シェフが、フランス・ロワール地方のタルト・タタン発祥の地に伝わるレシピを習って再現された、思い入れのある品です。
りんご満載「タルト・タタン」おすすめ6選
今回の「北浦和本店」には新しいオーブンも導入して、焼き方もさらに試行錯誤を重ねました。企業秘密として、私からは詳しくは申し上げませんが、最初は、鍋にりんごを詰めてガス火で焼いていくという伝統のスタイル。それを鍋ごとオーブンに入れ、しかも途中でオーブンを変えるという、より手間のかかる工程にされています。
「スーシェフをはじめスタッフが頑張ってくれたおかげで、日に日に理想的な焼き上がりになってきた」という興野シェフ。しかしながら、フルーツは、その年、収穫時期によっても状態が変わります。それに合わせて微妙に調整をするのが職人仕事。もちろん、基本的なコツとノウハウは積み重ねつつ、こうすれば常に完璧というマニュアルはなく、都度、一番いいやり方を見極めながら、これからも「アカシエ」のタルト・タタンは進化していくことでしょう。
左のショーケースの中で、今の「アカシエ」ならではの、特にお勧めしたいケーキが、「サヤマニエール」。2018年5月にNHK-BSプレミアムの番組『極上!スイーツマジック』でも紹介された品で、「抹茶」スイーツではなく、埼玉県産にこだわった「お茶」の魅力を余すことなく表現しようと生み出されたお菓子です。
埼玉県のお茶処「狭山市」のお茶農家さんを訪ね、お茶の品種や特性について学んだ興野シェフ。各品種の茶葉の特徴を活かすため、抽出温度や使い方も変えて、「ユメワカバ」の華やかな香りが感じられる生クリームに、玉露「ゴコウ」の凝縮された旨みを極限まで引き出したホワイトチョコレートのガナッシュ。一番なじみのある「ヤブキタ」の深蒸し茶は、苦みや渋みも感じられるシロップにして、それをしみこませたスポンジと、全てのパーツにお茶を使い、それぞれの魅力を複合的に味わえるように仕立てています。
ネーミングは、「狭山(サヤマ)+manière(マニエール)=流儀」の意味。
「全国各地の素材を見にいくようになり、地元である埼玉県の素材に改めて目を向けようと思うようになった」という興野シェフ。埼玉ならではの、自分らしいお菓子を発信していきたい、という熱い思いを、ぜひ味わってみてください。
もちろん、これらのプティガトーサイズの生菓子には、今のところ、店舗限定品はなく、従来の浦和区仲町の「アカシエ 浦和店」にも同じものが並びますので、お近くの方は、引き続きご利用いただけます。
続いて、「北浦和本店」オープンに合わせて新登場した、手土産にぴったりの生菓子や焼き菓子をご紹介します。あの幻の品も、ついに定番で登場!さらに、興野シェフのセレクトによる“マルシェ”的な売り場、そこに並ぶ品とは?