マンションの防災設備ってどんなものがある?
マンションは鉄筋コンクリート造りの高層建築物で、管理会社が管理しているから「防災」も安心!などと考えてはいませんか? たとえ防災設備が備わっていたとしても、いざというときに居住者が使いこなせなければ、何の意味もありません。「防災の日」(9月1日)などをきっかけにして、マンションの防災設備についてきちんと理解しておきましょう。
まず、どんなマンションでも火災などの災害で死傷者が出ないように、建築基準法や消防法で最低限の防災設備を設けることが義務付けられています。マンションの規模や高さによって異なりますが、主に次のような防災設備が設置されることになっています。
- 消火設備:火災の際に消火するための設備で、消火器や屋内消火栓設備など
- 警報設備:災害発生の危険を知らせる警報設備で、自動火災報知設備や非常警報設備など
- 避難設備:避難はしごなどの避難器具や誘導標識など
- 消火活動上必要な施設:消防用水や連結送水設備、排煙設備など
このほか、11階以上のマンションならスプリンクラー、高さ31メートル以上なら非常用エレベーターなどの設置が必要となります。タワーマンションで高さが100メートル以上の場合、はしご車が届かないのでヘリポートなどの設置が推奨されています。
こうした設備は主に、火災を想定したものです。地震対策としては、巨大な地震で建物が倒壊しないように建築上の耐震基準が設けられています。最近では、東日本大震災の教訓から、ガスや水道などのライフラインの配管が地震の揺れで損傷しづらいようにしたり、防災備蓄庫を設けたりといったマンションの事例も増えています。
タワーマンションの防災設備見学に同行!備蓄や避難方法は?
では、実際にどんな防災設備があるのでしょうか? ザ・パークハウス晴海タワーズ ティアロレジデンス(2016年3月竣工、49階・地下2階、総住戸数861戸)の管理組合が、居住者向けに「防災設備見学ツアー『ぶらティアロ』」を実施するというので、同行させてもらいました。見学ルートは以下の通りです。
- 1階 エントランスホール(災害対策本部設置場所)
- 地下2階 非常用発電機、消防用設備、免震設備
- 2階 地域用防災備蓄倉庫
- 20階 高層ELV非常時着床場所、各階備蓄倉庫
- 屋上 ホバリングスペース
エントランスに集合後、1階の防災センターへ。ここは、被災時に管理組合の「災害対策本部」が設置されます。近くに自動販売機が設置されていましたが、被災時にはこの飲料も非常用飲料として活用するそうです。
被災時に「災害対策本部」が設置される防災センター
地下2階には、ライフライン上の重要な設備が設置されていますが、防災設備としては「非常用発電機」と「消防用設備」があります。
非常用発電機は、地下と屋上に計3基設置され、外部からの電力供給が停止した場合、給水ポンプや非常用エレベーター(2台)、共用廊下の一部の照明、防災センターなどに約3日間、電力を供給することができます。各住戸に電力が供給されるわけではないので、お間違いのないように。
このマンションは免震構造なので、地下に免震設備があります。見学ツアーでは免震設備の見学を通じて、マンションの構造についても理解を深めてもらおうと考えられています。なお、免震構造の場合、給水管は接合部をゴムでつなぐことで地震の揺れでも伸縮してはずれないものになっていたり、建物が揺れるときに建築物同士がぶつからないように、「エキスパンションジョイント」という余白部分が設置されていたりします。そうした説明も受けながら、ツアーは進んでいきます。
2階には、地域防災備蓄倉庫があります。倉庫内の一部は中央区に貸与されており、区の備蓄品が置いてあるのですが、マンションの災害対策本部で使う発電機や担架、マンホールトイレなども置かれています。
マンションの備蓄倉庫はほかにも、全フロアに居住者用の非常用飲料水や非常食、トイレ処理セットを備蓄した倉庫があり、拠点階(4~6フロアごとに1カ所)には無線機やLEDヘッドライト、救出工具セット、応急処置セットなども収納されています。
各階の備蓄品は、1人当たり次の数だけ配布できるように計算して備蓄されています。
- 非常用飲料水 1.5L 5本
- 非常食 8食
- トイレ処理セット 20袋
最低3日間、理想は7日間の備蓄を各家庭でするようにというのが行政の指導ですから、見学ツアー参加者は、「これだけでは足りないので、我が家でも備蓄したほうがよいと思った」そうです。
さて、エレベーターの昇降中に地震が来たらどうなるのでしょう? このマンションでは、揺れをセンサーが感知して、低層用エレベーターは最寄り階に、高層用エレベーターは20階に停まるようになっています。20階が着床階なのは、高層用エレベーターを利用するどの階の人にも、階段で上り下りする際の負担が小さいからだそうです。
屋上には緊急救助用ヘリコプターのホバリングスペースがあります。足下に大きく書かれた「R」はレスキュー(Rescue)、ヘリコプターが上空でホバリングしながら救助できる場所を表しているのです。ちなみに、「H」の場合はヘリポート(Heliport)、ヘリコプターが離着陸して救助できる場所になります。
屋上で見学ツアーは終了しました。大規模なタワーマンションなので、防災設備が充実していて、見どころが多いのが特徴です。一般的なマンションでは装備されていないものもたくさんありました。ただし、このようにして、「自分のマンションの防災設備はどういったものがあるのか」、「防災設備をどう使うのか」を知っておくことはとても大切なことです。
火災時に居住者が行う「初期消火」が適切かどうかは、火災被害を左右します。消火器の場所も知らなければ、初期消火が十分にできません。揺れを感知するセンサーが付いていないエレベーターなら、揺れを感じたらすべてのボタンを押して、最寄りの階に停まるように自ら行動することが「閉じ込め防止」につながります。このように、「防災設備がどこまで助けてくれて、自分が何を準備しなければならないか」を理解することが、マンションで暮らす人には大切な防災対策になります。
スーパー防災マンションに学びたい、防災マニュアルや防災訓練
さて、今回取材したマンションは、管理組合の取り組みによって「スーパー防災マンション」になった事例と言ってよいでしょう。入居が始まってから約2年しか経っていませんが、管理組合発足以降、「防災訓練」や「安否確認訓練」などを積極的に行っています。安否確認訓練では861戸中309戸もが参加したほど防災意識が高いマンションになっています。
また、マニュアル策定委員会(※)が約1年かけて準備して、マンション独自の防災マニュアル「震災時活動マニュアル」も制定しました。中央区や管理会社からのアドバイザーの助言も受けながら、最終的には自分たちが使いやすいようなマニュアルにしたいということで、委員会のメンバー自らの手で作成したそうです。
筆者はこの「震災時活動マニュアル」の内容を見せてもらいましたが、実によくできていました。よくある防災マニュアルは一般論が多いのですが、このマニュアルは、実際に被災したら各戸は、各フロアは、災害対策本部は何をしたらよいのかを、発災期、被災生活期、復旧期と時系列で具体的に記載してあり、安否確認シートや各種リストなどの資料も付いていて、読めば被災時に役に立つ内容になっていました。
※このマンションでは、マンション単体で自治会が組織されており、管理組合と自治会の共同で防災マニュアル策定委員会を起ち上げていた。
「災害時活動マニュアル」と防災設備見学ツアーの資料
マニュアル配布だけでは防災情報が浸透しないものですが、防災設備を見学するツアーなど参加しやすい方法で防災に関心を持ってもらう工夫は効果的でしょう。
これらを企画したのは、管理組合の理事長の牧内真吾さんですが、「『ぶらティアロ』は人気番組の『ぶらタモリ』をヒントにしました」とのこと。見学ツアー参加者は、住んでいるマンションにこんな場所があるのを知らなかった、こんなルールになっていることを知らなかったと新しい気付きがあったようでした。
「自分たちの生活は自分たちで守る」ために、自分たちが住むマンションの防災設備について、もっと関心を高めてほしいと思います。