リアルな負担額はどれくらいなのか
平均値は一部の高額負担者により押し上げられやすい数値であることを考慮すると「通常50万円くらい」という医師たちの認識と大きなズレはなさそうに思うのです。
筆者は、がん保険への加入(あるいは見直し)を検討している人たちに、まずこうした情報を提供することにしています。数百万円もの出費を余儀なくされる大病であり、「がん保険での備えが必須」と考えている人が少なくないからです。
先に発言を引用した医師たちによると、数百万円ものお金がかかるのは、実効性が証明されていない民間療法等も含めた「何でもあり」の選択をした場合とのことです。
300万円程の実費がかかる先進医療にしても、本来は実験医療と呼ぶべきもので、効果が証明された小児がんの放射線治療などは既に健康保険の対象になっていることから、「先進医療特約目当ての保険加入は疑問」という共通の見解があったことも付記しておきます。
実際、50万円程度のお金であれば、保険に頼らず自分で支払うのが最も賢明な判断でしょう。自動車保険を検討する際、億単位のお金がかかることもある損害賠償責任については必ず保険で備える一方で、車を買い替えても中古で50万円前後と見られる場合であれば、車両保険には入らない、というような考え方と同じです。
保険はお金を用意する手段の一つですが、「お金を失いやすい手段」でもあります。保険料には、保険会社の運営費が見込みで含まれています。筆者が知る限り、いわゆる「掛け捨て」の保障目的の保険で、その割合を開示しているのは1社だけで、概ね20~30%です。情報開示していない会社では、それ以上の経費が保険料に反映されている可能性もないとは言えません。
「還元率」がもたらす大きなメリット
さらに保険料は、各種の給付金支払いが発生する確率も高めに見込んで設定されています。主要な保険会社の決算資料を見ると、例年、見込みと実績の違いから、保険料収入に対して10%程度の差益が生じていることも珍しくありません。差益等を配当金として加入者に還元する会社もありますが、保険料収入の数パーセント程度です。したがって、売れ筋の医療保険やがん保険などで、保険料のうち加入者に各種の給付金として還元されるお金の割合は多くて70%程度であり、70%未満であっても不思議ではない、と見ることができそうなのです。
1万円入金した場合、3,000円超の手数料がかかるようなATMを想像します。もしそうなのであれば、率直に言って暴利が疑われるシステムではないでしょうか。そこで、自己資金で対応できる額のお金は保険に頼らないことにするわけです。お金の心配をしながら高いコストがかかる手段を愛用するのは、本末転倒だからです。
筆者が、どうしてもがん保険に加入するとしたら、低料金で加入者に還元されるお金の割合が多い商品を選ぶことにします。出費が小さく、還元率が高いほど、失われるお金の額が少なくなるからです。
すると、「都道府県民共済」の商品を検討する手も考えられます。「総合保障型」「入院保障型」に加入している健康な人は、「新がん1型特約」を付加すると、60歳まで診断時に50万円の給付金を確保できます。
特約の掛け金は1,000円で、掛け金の還元率は80%台半ば近くとなっています。実質的には850円前後と見られるのです。現役世代が不測の事態に備える際、利用しやすい掛け金ではないでしょうか。
「新がん1型特約」には、入院時に1日5,000円、手術の際は5・10・20万円、がん先進医療の実費について1~150万円給付する保障もあります。
ただし、筆者はこれらの保障は不要かと思います。診断時に支払われる50万円は、入院費にも手術費にも使えるからです。
少々残念なのはこれが「特約」であることです。単身世帯が増える中、「死亡保障も入院保障もいらない、がんだけに備えられればいい」と考える人もいるはずです。「総合保障型」「入院保障型」への加入が前提というのは、使い勝手が悪いでしょう。がん診断保障もついた「こども型」は月々1,000円で単品販売されているのです。筆者はこれと同様の展開を望みたいと思っています。
(がんによる収入減に備える保険については、機会をあらためて書きたいと思います)
※この記事は、掲載当初協賛を受けて制作したものです。