スゴすぎるけどもったいなかった!本丸御殿の基礎知識

名古屋城の本丸御殿がついに完成し、2018年6月8日に全面公開。御殿建築の最高峰とうたわれた雄姿が10年もの歳月をかけて復元されました。
本丸御殿

本丸御殿は京都・二条城と並ぶ近世城郭御殿の最高傑作とうたわれた。往時の雄姿を完璧に再現した10年におよぶ復元工事で、この度いよいよ全面公開


江戸時代の建築・美術をこれほど大規模かつ完璧に復元する事業は他に例がなく、名古屋が……いや日本が世界に誇る歴史ミュージアムと言っても過言ではありません。

まずは本丸御殿の基礎知識から。名古屋城は徳川家康が、豊臣方との戦いの重要拠点として築城。1612(慶長17)年に天守閣が、3年後にはその隣に本丸御殿が完成します。1634(寛永11)年にはいっそう豪奢な上洛殿(じょうらくでん)が増築されました。

当時の建築・美術の粋を集めて作られた本丸御殿ですが、実際にはほとんど使われることはありませんでした。尾張藩初代藩主・義直と春姫がここに住んだのは最初の5年間ほど。将軍の宿泊所としてわざわざ建てられた上洛殿も、大政奉還までの200年余の間に活用されたのは数回だけでした。

1930(昭和5)年には国宝第1号に指定されますが、太平洋戦争末期の1945(昭和20)年、空襲を受けて天守閣もろとも焼け落ちてしまいます。天守閣と本丸御殿が焼失していなかったら名古屋城は文句なしに世界遺産になっていた、ともいわれ、本丸御殿はいろいろな意味で“スゴすぎる上にもったいなさすぎた”存在といえるのです。

上洛殿は建築・美術・工芸の最高峰の技術の結晶

本丸御殿の復元工事は2009(平成21)年から始まり、2013(平成25)年には玄関と表書院が公開、2016(平成28)年には対面所・下御膳所が公開と、段階的にお披露目されてきました。そして今回の第3期工事完了で建物としては完成(障壁画などの美術作品は復元模写の作業が続いています)、晴れて全面公開となりました。
本丸御殿

第1期工期完了から公開されていた玄関。車寄のふくよかな丸みをもった唐破風(からはふ)が優美


内部の公開自体は何年も前から始まっていたわけですが、今回の完成披露がこれまで以上に注目を集めているのには理由があります。この度公開されるのは、御殿の中でも最も格式が高く、最も豪華絢爛な上洛殿を中心とした箇所だからです。つまり、最大の目玉がついに全貌を明らかにするのです。

同時に、焼失前のオリジナルにとことん忠実な復元であることも特筆すべきポイントです。名古屋城は近世城郭では他に例がないほど図面や多数の写真といった史料が残されています。だからこそ建物も装飾品も、江戸時代に作られた通りの姿でよみがえらせることが可能だったのです。
本丸御殿

第1期公開の目玉は玄関一之間の「竹林豹虎図」。当時の日本人は虎や豹を見たことがなく、豹は虎の雌だと考えられていた



絵画、彫刻など進むごとに豪華になる意匠に注目

本丸御殿は書院造りという建築様式の建物です。書院造りは格式を重視して作られ、部屋ごとに明確な使用目的があり、基本的な構造として奥へと進むほど意匠もどんどん豪華になっていきます。絵画や天井や欄間に注目し、比較しながら進んでいくとその変化がよくわかります。

まず注目したいのが部屋や廊下を彩る絵画の数々です。本丸御殿は江戸時代の一流絵師集団・狩野派による名作のオンパレード。戦火を免れた1047面もの障壁画が現存し、国の重要文化財に指定されています。御殿の復元にともなって絵画も復元模写が進められ、描かれた当時の色彩をよみがえらせています。
本丸御殿

上洛殿とともに増築された梅ノ間。将軍をもてなす尾張上級家臣の控えの間として使われた


本丸御殿

上洛殿は6つの部屋で構成される。写真は二之間


本丸御殿

将軍・家光の御座所、上段之間。最も格が高い部屋で天井や金具もきわめて豪華


絵のモチーフには格があり、御殿の奥へと進むほどに上級とされる画題の作品が現れます。虎や豹などの走獣は実は最も格が低く、花鳥、人物、山水の順番でグレードが上がっていきます。玄関ではインパクトのある豹虎図が見られ、上洛殿の最上級の部屋では渋い山水の水墨画が飾られるなど、その他の意匠とは対照的に段々と落ち着いた作品に移行していくのが面白いところです。

欄間も注目ポイント。部屋だけでなく廊下にも設えられ、中でも一之間前の廊下の「笹椿に山鵲」(ささつばきにさんじゃく)の彫刻欄間は立体的かつまばゆいほどの極彩色で圧巻の美しさです。
本丸御殿

豪華絢爛な彫刻欄間。一之間の前の廊下に取り付けられた「笹椿に山鵲」は今回の全面公開のハイライトのひとつ


廊下や部屋の金具、天井などのディテールにも注目しましょう。ふすまの引手や長押し、柱の釘隠しなど、御殿内には約3000点もの飾り金具が取り付けられています。一点一点職人による手作業で繊細な細工が施され、すべてが見事な伝統工芸品です。
本丸御殿

釘隠しなどの飾り金具にも超絶技巧による細工がほどこされている


天井は玄関付近は現在の住宅にも見られるごく普通の様式ですが、奥へと進むほど升目が細かくなったり漆や金具が使われるようになり、最も格式の高い上洛殿上段之間では蒔絵が施された漆塗り格子に天井板絵がびっしりはめ込まれています。
本丸御殿

将軍専用に作られた湯殿書院。湯を張った湯屋ではなく、サウナ式蒸し風呂だった


このようにどこに目を向けても美術、工芸、建築の最高峰の技術の粋が注ぎ込まれ、施設まるごと歴史ミュージアムといえるのです。
本丸御殿

ボランティアガイドやボイスガイドを活用して鑑賞するとより理解が深まる

そして多くのミュージアムがそうであるように、スゴさや価値を理解するにはそれなりの情報や知識が必要です。見たまま感じたままも悪くはありませんが、ボランティアガイドの解説に耳を傾けたり、音声ガイドを利用するなどして、学習しながら鑑賞することをおすすめします。

本丸御殿

本丸御殿ミュージアムショップではマグネットやピンズ、クリアファイルや手ぬぐいなどここでしか買えないオリジナルグッズも数々ある

 

天守閣、金シャチ横丁で名古屋城観光がいっそう充実

本丸御殿

5月7日から調査のために入場禁止となった天守閣だが、正面側からの姿は当面従来のまま。記念撮影するのに支障はない


名古屋城は天守閣の木造復元に向けて、2018年5月7日から天守閣への入場が禁止となりました。しかし、少なくとも2018年度いっぱいは石垣などの調査が行われて、解体工事に取りかかるのはその後。名古屋城観光にとって必須の“天守閣の金シャチをバックに記念撮影”は当面、従来通り楽しむことができます。
本丸御殿

金シャチ横丁は正門側の義直ゾーン、東門側の宗春ゾーンに合わせて19店舗が並ぶ。義直ゾーンでは「矢場とん」、味噌煮込みうどんの「山本屋総本家」など代表的な名古屋めしが食べられ、宗春ゾーンでは新進気鋭の名古屋の人気店が軒を連ねる


さらに正門と東門付近には金シャチ横丁が2018年春にオープン。名古屋めしを中心としたグルメ・ショッピングスポットで、名古屋城での食事や買い物はぐっと充実したものとなっています。
本丸御殿

城周辺を周遊する人力車。2人乗りで3000円~


見ごたえいっぱいの本丸御殿の完成で、江戸時代の武家文化を伝える史跡としての価値が格段に高まった名古屋城。天守閣に登れないんじゃ……なんて躊躇することなく、名古屋の最重要スポットとして足を運ばない手はありません。歴史ファンはもちろん、アート、クラフト、建築に興味のある人など幅広い趣向の人たちにおすすめです。


<DATA>
●名古屋城
住所:名古屋市中区本丸1-1
アクセス:地下鉄市役所駅より徒歩5分、浅間町駅より徒歩12分、なごや観光ルートバス・メーグルで名古屋駅より22分
TEL:052-231-1700
開園時間:9:00~16:30(閉門17:00まで)※8月31日までは~17:30(閉門18:00)
休園日:12月29日~1月1日
料金:大人500円、中学生以下無料
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