ハーレー883モデルのキャラクターを紐解く
ハーレーダビッドソンのラインナップでもとりわけ日本人に高い人気を誇るファミリー「スポーツスター」。なかでも排気量883ccのスポーツスターは日本で「パパサン」と呼ばれ、扱いやすさ、取り回しやすさもあって愛好家も多いモデルです。
なんともキリの悪い数値の排気量設計となっているパパサン、60年の歴史のなかから生まれた歴代883モデルを振り返りながら、それぞれのキャラクターを紐解いていきましょう。
883と1200の2タイプあるスポーツスター
この「スポーツスター」というファミリーには、883ccと1202ccクラス(正確には1202cc)という2タイプのモデルが並びます。排気量違いのエンジンを積み分けていて、近年ではそれぞれのタイプに個性的なキャラクターが与えられ、別々の世界観を演出するようになっています。
2018年最新ラインナップのスポーツスターファミリーでは、アイアン883と883スーパーローの2モデルが883ccモデル、フォーティーエイト、1200カスタム、ロードスターの3モデルが1202ccモデルとなります。
2003年以前と2004年以降で構造が異なる
XL883Rの2003年式(左)と2005年式(右)を比較。コンセプトを同じとするモデルながら、2005年式の方が長い車体となっている。また重量も後年式モデルの方が30kgほど重い。スポーツバイクながら、後者はクルーザー型にシフトしている
もうひとつ、スポーツスターを大きく分けるのが「2003年以前」と「2004年以降」での年式の違い。2004年にフルモデルチェンジをしたスポーツスターは、スタイリングこそ酷似するもののオートバイとしての本質は異なるものになりました。2003年以前のスポーツスターは「リジッドスポーツ」「エボスポーツ」と呼ばれ、2004年以降はエンジンのダイレクト感をやわらげるための特殊ゴムをフレームに搭載したことから「ラバーマウント」「ラバーマウントスポーツ」と呼ばれています。
▼2003年以前スポーツスターの特徴
- 車重が230kg前後
- エンジンが生む鼓動のダイレクト感が大きい
- スタイルが細い(ノーマルはもちろんカスタム映えする)
- 高速域での巡航はややしんどい
▼2004年以降スポーツスターの特徴
- 車重が260kg前後(リジッドより30kgほど重い)
- エンジンが生むダイレクト感はマイルド
- スタイルはリジッドに比べてややクルーザー型
- 高速域での巡航能力に秀でる
「シュッとしたカスタムバイクにしたい」「街中を颯爽と走れるスポーツスターがいい」という方には2003年以前のリジッドスポーツが、「むしろツーリングを楽しみたい」「気持ちよく高速を流したい」という方にはラバーマウントスポーツが向いていますね。
歴代パパサンモデル解説
■XLH883(リジッドスポーツ)スポーツスターの原点とも言うべき「ザ・スタンダード」。スポーツライドを楽しむバイクとして、フロント19/リア16インチのキャストホイールに170mmという最低地上高(タイヤを除く車体の一番低いところと地上との間の数値)が保たれたネイキッドスポーツです。ハンドルも派手さのないニュートラルな設計となっており、ミッドコントロールステップと相まってコントローラブルなライディングが魅力。ラバーマウントスポーツに比べて30kg近く軽い227kgという車重もポイントです。
■XLH883H ハガー(リジッドスポーツ)
上記のXLH883をローダウンし、チョッパーライクなナローハンドルバーとスポークホイールを備えたローモデル。サンフランシスコの街中をすり抜けられるストリートカスタムスタイル「フリスコ」を彷彿させるシルエットです。スタンダードなXLH883に比べるとバンク角がないので、コーナリングで頑張って寝かせた走りをするとステップを擦るなどありますが、ロー&ロングというハーレーの王道カスタムスタイルを踏襲しているところが人気のポイントです。
■XL883(ラバーマウント)
XLH883のスタンダードな姿を受け継いだラバーマウントスポーツ。XLH883に比べたら車重も30kgほど重くなり(227kg→260kg)、ホイールベースも1510mmから1520mmに伸びました。そして最低地上高は逆に170mm→140mmと3センチ短くなっています。もう一点、2007年以降にはキャブレターモデルからコンピューター制御されたフューエルインジェクションモデルとなり、バイクとしての挙動が異なるものになっています。
近年は車高が低いローダウンモデルが主流となっていますが、このスタンダード883のように車高がしっかり保たれたモデルは交差点やコーナリングでもストレスなくクリアしていってくれる性能を併せ持っており、日本人のバイクライフにぴったり合うモデルだと言えます。
■XL883L(ラバーマウント)
上記のXL883のローモデルがこちら。一見するとスタンダードXL883と変わりありませんが、最低地上高はXL883の140mmに対して111mmという883ロー。ハンドルバーもナローなスタイルになっているなど、XLH883のラバーマウントモデルと形容して差し支えないでしょう。2005年から2010年までラインナップされたこのモデル、日本市場で仕入れられたスポーツスターの台数がもっとも多かった時期なので、中古車情報を探すと程度の良い車両が残っているものと思います。
■XL883Lスーパーロー(ラバーマウント)
「XL883L」という883ローと同じペットネームながら、まったく異なるキャラクターとして2011年に登場、以降2018年までラインナップされているカタログ歴の長い一台です。883ローと比較すると、タンクは12.5リットルから17リットルと容量の大きなタイプへと変わり、ホイールサイズもフロント18/リア17インチという今までのスポーツスターにはない仕様に。ハンドルバーはナローではなく、ライダーにグッと近くプルバック型が採用されています。タンク容量の大きさと小柄な人でも乗りやすいポジショニングと、ツーリングバイクとしてのキャラクターが付与された883モデルと言えます。
■XL883C 883カスタム(リジッド&ラバーマウント)
「C」はカスタム、つまりスタンダードなXLH883もしくはXL883にカスタム要素が付与されたワンランク上のスポーツスターという位置付けのモデルです。現在はXL883Nアイアン883やフォーティーエイト、ロードスターなどさらにキャラクターを強めたファクトリーカスタムモデルが主流になっていますが、リジッドスポーツからラバーマウント化してもカテゴリーとして継承されるなど、人気を集めたスタイルのスポーツスターです。
砲弾型ヘッドライトに21インチスポークホイール&16インチディッシュ(皿)ホイール、メーター一体型ハンドルライザー、そしてエンジンをはじめクロームメッキが多用されたパーツの数々と、従来のスポーツスターにはない専用パーツが数多く使われているXL883C 883カスタム。大径スポークホイールとディッシュホイールを組み合わせる手法は、アメリカのチョッパーカスタムの王道。これを販売モデルでやってしまうあたりは、さすがハーレーダビッドソンといったところ。あえて今、このXL883C 883カスタムを乗り回してみる……というのはツウな遊び方とも言えますね。
■XL883R(リジッド&ラバーマウント)
実はアメリカのレーシングシーンでその名を馳せるハーレーダビッドソン、100年を超える歴史のなかで輝かしく刻まれたレーシングモデルが存在します。それが最強のダートトラックレーサーXR750。このXL883Rの「R」はレーサーの意味で、XR750のエッセンスが付与されたモデルなのです。チェッカーグラフィックとHARLEY-DAVIDSONから成るエンブレムがまさにそれ。リジッドスポーツ時代は2002年と2003年の2年だけで、レーシングスピリットを感じさせる2in1マフラーが備わっているところがマニア垂涎のポイント。このマフラーのままの中古車を見つけたら間違いなくレア!
2世代に渡って統一されるXL883Rならではのディテールは、制動能力が高いダブルディスクブレーキが備わるフロント、XL883と同等の最低地上高を誇る車体、オフロードバイクを彷彿させる幅広なハンドルバーといったところ。
ファンのあいだで「パパサンアール」と親しみを込めて呼ばれるこのモデル、ラインナップされたのは2015年まで。ちなみに2011~2015年モデルのみ、フロントマスク周りのトリプルツリーがブラックアウトしているという隠れポイントが。ここの塗装だけでも費用が発生するので、パパサンアールでダークカスタムを考えている人は2011年以降のモデルを狙うことをオススメします。
■XL883N アイアン(ラバーマウント)
最新モデルラインナップでスタンダードモデルとして位置付けされているアイアン883。デビューは2009年、ダークカスタムの申し子として送り込まれたファクトリーカスタムモデルの代表格でした。XL883に比べると最低地上高が低いローモデル(140mmに対して99mm)で、トリプルツリーやホイール、ストラットカバーなど、とにかくディテールが黒い!車体そのものも黒い!また、パパサンモデルでは初採用となったテールランプ一体型ウインカーとチョップドリアフェンダーの組み合わせがそのキャラクターを際立たせています。
2015年にマイナーチェンジが図られたアイアン883。ホイールは削り出しとされるハーレーらしい伝統の9スポークホイールに、カスタムテイスト溢れるタックロール型シートとラウンドエアクリーナー、そしてアメリカの象徴たるイーグル(ハクトウワシ)が描かれた新エンブレムと、よりアメリカという国のカルチャーを前面に押し出したモデルに生まれ変わりました。マシンそのものの性能もバージョンアップを果たしているので、高年式モデルで程度の良いものが見つかるとベストですね。
購入時に注意して見たい年式のスポーツスター
▼ ECMがシート下に設置された2008~2010年式奥の黒いXL883Rは2008年式、手前のオレンジXL883Rが2015年式。2008~2010年モデルはバイクの頭脳となる「ECM」というコンピューターがシート下に設置されていてカスタムしづらい、というデメリットが潜んでいる
2007年以降のスポーツスターはその挙動をコンピューター制御するECMと呼ばれるコンピューターを頭脳とする「フューエルインジェクションモデル」となりました。このECM、10cm四方/厚み2cmほどのブロック型コンピューターなのですが、2008~2010年式スポーツスターに限ってシートの真裏となるリアフェンダー上に設置されているのです(2011年以降はエンジンとバッテリーの間に移設)。
これの何がデメリットかというと、ちょうどリアフェンダー上に出っ張った状態で設置されているため、取り付けられるカスタムシートが限られるわけです。「あ、このシートかっこいい!」と思って購入したところ、ECMが邪魔をして取り付けられなかった……なんて話も。カスタムパーツ購入時には「適合車種」の項目をしっかりチェックすることが大事ですが、それ以前に「どうしてもそのモデルじゃなきゃいけない」というわけでなければ、2008~2010年式モデルは避けるのが良いかもしれません。
2003年以前リジッドスポーツスター中古車の賢い買い方
2000年に入ってから日本での販売台数を一気に増やしたハーレーダビッドソン。2004年以降のラバーマウントスポーツスターはものすごい台数が入ってきているのですが、それ以前のリジッドスポーツの時代は輸入台数も少なかったため、当然中古市場に出回っている台数も限られたものになっています。それこそフルノーマルモデルなんて滅多に見かけることなく、私のようなマニアがフルノーマル・リジッドスポーツの中古車を見かけたら、すぐさま預金通帳を確認しに行ってしまいます。
自分のイメージ通りのリジッドスポーツを見つけたら、まずはその販売店の情報を集めましょう。要は「妙な悪評が立っていないか否か」。というのも、アメリカから個人輸入で仕入れた一切メンテナンスがされていない中古車という可能性もあるからです。やはりバイクは、壊れずに丈夫に走り続けてくれることがベスト。メンテナンスをおろそかにするショップだとアフターケアもぞんざいになるので、注意しましょう。
一番良い購入方法は、信頼して付き合えるバイク販売店に「こんな中古車を探しているんだけど」と、『希望車種』『予算』『許容できる走行距離』『カスタムの程度』を伝えて探し出してもらうこと。信頼関係があるプロの目利きなら、まず間違いありません。
まとめ:タイプによってキャラがガラッと変わるパパサン
年式によってさまざまなタイプが揃っているスポーツスター883(パパサン)。1200モデルも含めるとさらに種類は増えますが、過不足ないパワーとライディング、そしてファッションも楽しませてくれるパパサンの乗りやすさは他モデルに秀でていると言ってもいいでしょう。
そのパパサンも、このようにタイプによってキャラクターがガラッと変わるので、自分がイメージするバイクライフに合ったハーレーダビッドソンを探してみるのが最初の一歩として良いでしょう。883モデルだけ見て回るだけでも夢が広がりますよ。
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