ハーレーが生んだ攻めるバイク「ストリートロッド」
大柄なアメリカンクルーザーモデルがひしめいている印象が強いハーレーダビッドソン(実際そうですが)が、まったく新しいネイキッドスポーツバイクを投じてきました。その名も「ストリートロッド」。マシンコンセプトはもちろん、エンジンから何から一新してきた同モデルの本質と乗り味をご紹介します。<目次>
ハーレーが新境地に挑んだ水冷Vツインエンジン
キモとなるのがこのエンジン。これまでハーレーダビッドソンといえば「まるで馬に乗っているかのような鼓動感」が最大の魅力でした。その鼓動感を生み出していたのは昔ながらの「空気でエンジンを冷やす」空冷Vツインエンジンで、もちろんその伝統は既存ラインナップモデルが継承しています。その一方でメーカーとしてより進化したバイクを世に送り出すべく、味わい深さが魅力の空冷エンジンとは対照的に、切れ味鋭い挙動が魅力の「水冷エンジン」への挑戦を決めたのです。このストリートロッドに搭載されている水冷エンジン「レボリューションX」は、2001年に登場した「Vロッド」モデルの心臓として当時ポルシェ社と共同開発された水冷エンジン「レボリューション」の後継モデル。ストリートロッドのベースモデルである「ストリート750」(2015年日本上陸)から搭載されました。
ストリートという名を冠しながらクルーザー然としたストリート750(左)に対し、このストリートロッドは「車高アップ」「ホイールサイズの変更」「ネック角の修正」などが施された似て非なるモデルです。特に前後17インチホイールやフロントのダブルブレーキングシステムなどは、他メーカーが手がける現代のロードスポーツバイクにも採用されている仕様。エンジンセッティングもストリート750よりピーキーにされているなど、文字どおり「攻めるストリートバイク」というコンセプトに則った一台なのです。 近年、いわゆる「ナナハン」(排気量750cc)バイクがなくなって久しい国産メーカーに対して、このミドルビッグとも言われるカテゴリーに進出してきたハーレー。しかしながら、238kgという重量や1510mmというホイールベースは、国産メーカーが手がける同クラスモデルと比較するとあまりに鈍重。「オートバイとしてどうなのか」「ハーレーとしてどうなのか」という2つの視点から試乗の感想をまとめてみたいと思います。
オートバイとしてどうか?ハーレーとの違いなど
「スポーツバイク」「ストリートバイク」ジャンルへのチャレンジモデルということもあって、これまでのハーレーと比べての大きな違いは「軽さ」そして「シャープで軽快な走り」です。こと「軽さ」については、実際にまたがって車体を起こしただけで分かります。機会があれば、ハーレー正規ディーラーでスポーツスターの引き起こしと比べてみてください。平均260kgのスポーツスターと238kgのストリートです、違いが出るのは当然のことでしょう。
新型水冷エンジンの恩恵もあって、走り出しや吹け上がりは実にシャープで軽やか。力強くドルドルっ!と走り出すほかのハーレーと違い、クイックにキビキビ走ってくれます。ベースモデルのストリート750に残るクルーザー感を一切排除し、オートバイとしてのバンク角や旋回性を高めたストリートロッドなので、タイトなコーナリングも無理なくクリアーしてくれます。間違いなくワインディングを走れば楽しいバイクでしょう。
「オートバイとして見たら」という点で言うと、ハーレーのなかではとりわけ軽量な238kgという重量も、他メーカーの同タイプモデルと比べると、明らかに重い部類に入ります。例えばヤマハ XSR700の重量は186kg、ホンダ NC750Sの重量は216kgと、スポーツバイク、ストリートバイクというカテゴリーでは200kgを切る切らないあたりがアベレージになっているのです。そういう意味で、ストリートロッドは「まだ重い」。
重いスポーツバイクは、他モデルよりも高いライディングスキルが求められます。逆に「だから楽しい」「重いバイクを操れるようになれればスキルも高まる」というところに楽しみを見出す人には「ぜひ」とオススメするところ。それでなくても、真一文字のドラッグバーやミッドコントロールステップと、スポーツバイクとして見ると「あれ?」というキャラクターを備えたストリートロッドなので、かなり好みが分かれるモデルと言わざるを得ません。
「ストリート750から改善されていないなぁ……」と感じずにいられなかったのが、車体の左右バランス。ベースモデルのストリート750から 右側にある2in1マフラーがかなり重く、どうしても荷重が右に偏るきらいがありました。同じマフラーが付いているので仕様が変わっているはずもなく、むしろストリート750より車高が上がっている分、余計に傾く感があるように思えます。
特に走行時、信号待ちで両足着きになっているときのこと。右側に傾かないよう、自然に体が左荷重になってしまうのです。軽いマフラーに換えれば解消できるのですが、「マフラーを換えること」が改善ポイントとして残ったままのメーカーモデルって……と、苦笑せずにはいられませんね。
ハーレーとしてどうか? もはや違うカテゴリーのバイク
1970年代、「XLCR」というハーレー初のカフェレーサーモデルが誕生しました。フルブラックのボディにドラッグバー&ミッドコントロールステップ、ビキニカウル、高く持ち上がったボディと、街を駆け抜けるストリートバイクをイメージして生み出されたモデルで、似たディテールを随所に持つこのストリートロッドは XLCRを強烈に意識した一台だと言えます。
ハーレー初のインド生産モデルであることや、ドコドコという空冷特有の鼓動をアイデンティティとするハーレーのVツインエンジンとは真逆を行く水冷エンジンであることは、さしたるエクスキューズではないと思います。ただ、その方向って「ハーレーダビッドソン」であることよりも「他メーカーがひしめく別のカテゴリーへの挑戦」であって、「オートバイとして」という項目でも述べたとおり、一層シビアな目で丸裸にされてしまいます。
ハーレーの現ラインナップには、価格帯はもちろんキャラクターという点でも上を行く先達がずらりと揃っています。そういう意味で、ストリートロッドを含めたストリートファミリーのモデル群は「まだこれから」というステータスなのでしょう。事実、スポーツを名乗っていながらクルーザー感が強いスポーツスターファミリーとは差別化が図られているので、独自のファン層を築いていくことがストリートファミリーの目指すところなのかな、と。
ストリートロッドは今のところ「どっちつかず」
ある意味ハーレーにとって初カテゴリーとも言えるストリートロッド。ストリート750よりキャラクターははっきりしたものの、ハーレーの伝統から脱却しつつも世のスポーツバイクほど振り切れておらず、ちょっとどっちつかずな印象が拭えません。前述したとおり、「他メーカーのスポーツバイクほど乗りやすいわけではない」ので、「だからこそ、あえて乗ってみる」というチャレンジングなオーナーに向いている一台と言えますね。
[HARLEY-DAVIDSON XG750A Street-Rod SPECIFICATIONS]
全長/2130mm
ホイールベース/1510mm
シート高/765mm
車両重量/238kg
エンジン型式/水冷Vツインエンジン「レボリューションX」
排気量/749cc
フューエルタンク容量/13.2L
フロントタイヤ/120/70 R17 V
リアタイヤ/160/60 R17 V
【メーカー希望小売価格】(消費税込/2018年4月現在)
[ビビッドブラック]107万円
[レッドアイアンデニム]109万8000円
[オリーブゴールド]109万8000円
[エレクトリックブルー]109万8000円
[ボンネビルソルトデニム]109万8000円
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