腎臓・膀胱・尿管・尿道の病気

子宮頸がん術後に起きる排尿異常・尿が出ない原因

【泌尿器科医が解説】子宮頸がんの治療を無事に終えられ、婦人科を卒業された方でも、手術後の排尿異常に悩まれることがあります。手術により膀胱や尿道の神経や筋肉がダメージを受けることが原因で、尿漏れや頻尿、尿意を感じにくいなどの症状が残った場合、排尿異常の診療に詳しい医師の診察を受けるのがよいでしょう。詳しく解説します。

小内 友紀子

執筆者:小内 友紀子

泌尿器科医 / 泌尿器科の病気ガイド

子宮頸がん手術後の排尿異常の診察・治療経験を通じて

子宮頚がん手術後イメージ

子宮頸がん治療後に尿漏れなどの排尿異常が続く場合、どのような検査や治療法があるのでしょうか

国立がん研究センターのがん統計データによると、2017年の予測で日本における子宮頸がんの罹患数は約11,300人とされています。子宮頸がんによる死亡率、罹患率ともに増加傾向です。子宮頸がんの治療法の一つとして、広汎子宮全摘という手術があります。私は泌尿器科医ですが、子宮頸がん術後の患者さんの排尿異常を治療してきて、各患者さんの生活の上でのお困りごとを伺い、診療することが多くあります。

今回は子宮頸がんの治療後の排尿異常について、排尿異常の内容、泌尿器科を受診した時の検査、治療までを解説します。また、この記事では、手術後に一時的に尿が出にくくなった方のことは書いておりません。術後半年以降も排尿異常が続く方へのお話です。

また、子宮頸がんで手術をすすめられている患者さんがこの記事を読んで手術をためらわれてしまうのは筆者の本意ではありません。がんは命に関わる病気ですので、適切な治療選択をしていただき、術後の排尿異常の可能性と対処法をさらっと知っておくにとどめていただきたいと思います。

子宮頸がん治療後も排尿異常が続く場合

子宮頸がんの治療はしっかりと終わられ、婦人科はとっくに卒業することができた方でも、その後の排尿異常がずっと続くことがあります。多くの患者さんは手術前に「排尿異常が出ることがあります」と軽く説明を受けているようです。実際の手術の後は、尿道カテーテルを外され、当初はうまく排尿できないことがあっても徐々に残尿(排尿した後に膀胱に残る尿)の量が減っていき、ある一定の量より少なくなったら退院、減らなくても自己導尿といって自分で管をいれて尿を出すような治療を教わって退院となるケースが多いように思います。その後は、特に婦人科の先生も排尿について触れることなく、自然に話題になることもなくなるのでしょう。

術後の尿漏れ・尿が出にくいなどの排尿異常の相談窓口は?

そして、術後に尿漏れや尿が出にくいなどの症状で困っている方は、その症状をどこに相談してよいかわからずにいるようです。一般向けの書籍もなく、まとめて解説されたものもなかなかない。困っていろいろ調べた末に、同じ症状に悩む患者さんのブログなどを見て、私の外来に来られた患者さんがいらっしゃいました。

手術をされる婦人科の先生からしても、子宮頸がん術後の排尿異常は、あまり起きて欲しくないことの一つでしょう。子宮頸がんの手術後の排尿異常では、日本人のたくさんの人を対象としたデータはほとんどありません。海外の報告では広汎子宮全摘後の排尿異常の発生率は8~80%と文献がありました*(参考文献は最後に)。どれも1980年代の報告ですので、少し古い印象です。最近は積極的に神経を残すような手術を行っている施設もあるようです。

排尿異常の相談は「排尿機能学会認定医」へ

そして、泌尿器科医であっても、子宮頸がん術後の排尿異常を診るのにやや苦手意識を持つ医師は、実際のところ少なくありません。その原因としては、この症状に上記の通り、きちんとしたデータがないこと、どんな検査や治療をしたらよいかがはっきりしていないこと、人により症状の出方や重さが違うことなどが挙げられるでしょう。

同じ泌尿器科でも、それぞれ専門領域が分かれています。排尿異常を専門で診る先生もおられますが、がんや結石が専門の先生もいます。簡単な目安は「排尿機能学会認定医」です。2017年にできた認定制度ですので、ベテランの先生でもお持ちでない場合もありますが、認定医の先生はよく排尿機能をご存知といってよいでしょう。

近くで相談をしたい場合は、まずは排尿機能学会認定医の資格を持たれている医師を探されるのが良いかと思います。

排尿異常の種類……膀胱が原因のもの・尿道が原因のもの

排尿異常の種類は、大きく、膀胱と尿道の不具合に分けられます。実際にどちらにどのような不具合が起きているかは、尿流量検査や残尿測定、後述する(ビデオ)ウロダイナミクス検査などを用いて判断していきます。患者さん一人一人で状況は違うので、全員が同じ治療になることはありません。

膀胱の異常による排尿異常
脊髄から膀胱へ、膀胱から脊髄への神経の通路が傷つくことで、膀胱の異常が起こります。典型的な方では、尿意といって、尿を感じる感覚が少なくなったり、なくなったりしていることがあります。それとともに排尿反射といって、トイレに行っても排尿のきっかけとなるスイッチが入らなくなり、スムーズに排尿ができなくなります。腹圧排尿というのですが、便をするときのように下腹部に力をいれて、いきむことで排尿するパターンになります。膀胱の壁をゆるめて弛緩させておく神経シグナルがなくなり、膀胱の壁が硬くなったり、ぶ厚くなったりします。過活動膀胱と言って、急に尿を出したくなったり、間に合わず尿がもれてしまったり、頻尿になったりする症状が起きることもあります。膀胱の壁が硬くなった結果として、尿が尿管から腎臓に逆流してしまう、「膀胱尿管逆流」という状態になる方もおられます。そうなると感染した尿が腎臓に入り、「腎盂」という腎臓の尿をためておくところに炎症が起きて、腎盂腎炎になることがあります。

尿道の異常による排尿障害
尿を出さないように締めておく「尿道括約筋」に行く神経が傷ついた場合は、咳やくしゃみのときの尿漏れや、腹圧性尿失禁になることがあります。放射線照射を昔に受けた方では、尿道が硬くなり弾力を失って閉じる力が弱くなり、尿失禁が起きることもあります。

排尿異常専門医を受診する際に準備しておくとよいもの

もしも現在、泌尿器科で治療を受けておられるならば、今までの治療内容を書いた簡単な紹介状をお持ちになるのがベストです。婦人科の先生からもいつ、どんな手術をして、子宮頸がんの進行度がどうだったかといった進行度などを簡単に書いてもらって、お持ちになるとよいでしょう。もちろん、なくても診療はできますが、資料があると、診る先生の助けになるのは間違いありません。同じ泌尿器科の場合、現在かかっている先生に遠慮して言い出しにくいこともあるかもしれません。ただ、患者さんが困っていることは言わないと担当の先生にも伝わらないものです。そこは勇気を出しておっしゃってみてください。

実際に受診したらどんな検査をするの?はじめの受診時

医療施設によって違うと思いますが、まずはじめは問診表といって症状のお伺いをする用紙の記入、そして尿検査です。他に尿流量検査(検査用のトイレ型の器械に実際に尿をして尿の勢いをみる検査)、残尿測定といって排尿後に膀胱に残った尿量を調べる検査(器械を下腹部に当てて測ります)くらいは初回にするかもしれません。尿をためた状態で尿道の強さの状況をみるために内診台で診察をすることもあります。

やや進んだ検査
腎臓の機能を調べるために血液検査や、腎臓がふくれて「水腎症」になっていないかみるために、膀胱の壁の厚さをしらべる超音波検査(器械を脇腹や下腹部に当てて調べます)を行うこともあります。以前腎盂腎炎を起こしたことのある方の場合は、腎シンチグラフィーという、腎臓に傷がついていないか調べる検査をすることもあります。血液検査も画像の検査も、通っている婦人科や、他の病院で行った検査がある場合は、重複してやらなくてすむ場合があるので、半年以内のデータをお持ちの場合は、そのデータが使えるか、きいてみてもよいかもしれません。

また、ビデオウロダイナミクス検査といって、膀胱の圧をはかったり、レントゲンにうつる液体を膀胱に注入して膀胱の形をみる検査があります。非常に手間と時間のかかる検査ですので、どこの施設でもやっている検査ではありませんが、尿をためているときと出す時の膀胱、尿道の形や圧などがわかるため、特に子宮頚がんの術後の排尿異常の方には受けていただきたい検査です。ただし、この検査ができないからといって、排尿異常の診療ができないわけではもちろんありません。レントゲンにうつる液体を使わない場合はウロダイナミクス検査といって、形を調べずに膀胱の圧を測ったりする検査になります。

子宮頸がん手術後の排尿異常の治療法

繰り返しになりますが、子宮頸がんの術後の排尿異常は人それぞれです。そのため治療法も一つの決まったものはありません。尿を出しやすくするお薬、膀胱に尿を溜めやすくするお薬などの他に、間欠自己導尿といって尿の出口に医療用のカテーテルという管を1日に数回いれて、尿を取り出す治療を併用することもあります。

始めは自分で尿を取る作業に驚かれる方もいますが、実際に試されてみると、うまく尿を出せない、出すのに時間がかかる、途中で漏れてしまうなどの困っていたトラブルが減ることを実感され、継続してくださる方が多いと感じています。カテーテルも小さく、いかにも医療器具ではないものもどんどん出てきています。自分で用具を使わずに尿が出せることも大事なことですが、うまく出せない場合は自分で出すことにこだわりすぎないことも大事かなと思っています。

ほんの少し尿意が落ちていて、ほとんど普通に排尿できる、残尿は少し多いというようなパターンの方は特にお薬もなく、普通に生活していただきます。

尿意がほとんどなく、尿は下腹部が張ってからトイレにいって出す、出す時も初めから最後まで腹圧をかけて出す。尿がそれほどたまっていないときは、うまく尿が出せないことがある。夜はパッドにもれている。日中も尿がもれてから気がつく。腎盂腎炎で熱を出したことがある。というような方の場合はどれくらい尿をためられるのか、膀胱の柔らかさ(コンプライアンスといいます)は十分かということを確認しますが、自己導尿と内服薬をおすすめすることが多いです。

自己導尿を行なっている方の場合はだいたい月に1回程度の通院を行っていただきながら、尿検査や採血検査、超音波検査を適宜行って腎臓の機能低下がおきていないかを確認していきます。

一番困るのは知らない間に腎機能の低下がおきていることです。腎盂腎炎を起こすと腎機能にダメージを与えます。繰り返し腎盂腎炎を起こすことで腎機能の低下がおきますので、腎盂腎炎を起こさないような排尿の管理をすることが、われわれ医療者の使命と考えています。患者さんにも自分の身体のケアをすることで、腎盂腎炎をふせいで、腎機能を大事に守ってほしいのです。

*参考文献 Laterza RMら、Neurourology and Urodynamics 34:309-315(2015)
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