たとえば、保険会社が破たんすると契約者はどうなる……?
満期金が削減されてしまうケースも……?
保険会社のリスク管理に関わる複数の専門家によると、破たんの要因としては、バブル崩壊と金利の低下により運用環境が厳しくなっていたことに加え、経営陣の判断ミスなども考えられるようです。
保険会社が破たんすると、契約者は困ったことになります。たとえば、解約時に払戻金がある貯蓄性商品などでは、積立金に適用される利率が引き下げられることがあります。実際、私の周囲でも、破たんした中堅生保の加入者で満期金が削減された人がいらっしゃいました。しかも、ただちに解約しようとすると、さらに削減額が大きくなるという条件も付いていました。
そんなこともあって、保険業法に基づいて98年に設立されたのが「生命保険契約者保護機構」です(以下、保護機構と表記します)。保護機構には、国内で事業を行う全ての生命保険会社が会員として加入しており、経営破綻した場合、契約の移転や、補償対象となる保険金の支払いに係る資金援助などを行うことになっています。
したがって、破たんした会社が引き受けていた契約が無効になるようなことはありません。それでも、契約者が先に書いたような不利益を被る可能性はあります。資金繰りが悪化して破たんに至る場合、払戻金などが削減されるといった影響は避けがたいだろう、と想像されるからです。
「共済は比較的リスクが低い」は本当?
では共済はどうなのかというと、例えば「都道府県民共済」には、保護機構のような“セーフティーネット”はありません。この点については心もとなく感じてしまう向きもあるかもしれません。とはいえ私は、あまり心配しなくて良いのではないかと考えています。そもそも共済は「運営側のリスクが低い業態」だと認識しているからです。
まず、金利の影響をほとんど受けません。生命保険の場合は「見込み」で設定している利率に基づいて保険料を決め、加入者から集めたお金を運用していきます。そのため、数十年後に満期金や年金を支払う契約では、見込みより金利が低迷すると、会社の負担が増えてしまうといったことにもなるわけです。
一方、共済はいわゆる「掛け捨て」の商品を扱っています。それも短期自動更新型ですから、たとえば一生涯の保障がある保険のように、遠い将来、各種給付金を支払うために掛け金を運用していく際、加入者に約束している利率と市場金利との乖離に苦しむことなども考えにくいのです。
また、掛け金の設定自体がセーフティーネットとして機能している、という見方もできるかと思います。もとより、健全な運営のために、掛け金というものは生命保険でも共済でも、入院給付金等の支払いが発生する「確率」をあらかじめ高めに見込んで設定されています。
そのため、決算時には「差益」が計上されます。見込みより給付金の支払いが少なく済んでいる限り、お金が余ることになるのです。「都道府県民共済」では、こうした類の剰余金を毎年「割戻金」として加入者に還元しています。
その割合は、現在、全国生協連のホームページで確認できる2005年時点以降のデータによると、例年30%前後で安定しています。「確率」論が機能するだけの加入数が維持されているからでしょう。
加入者数が一定以上いれば、健全経営はできる?
長年、保険会社で商品設計に関わってきた人によると、一般的な事由による死亡や入院などを保障する場合、加入者数が1万人くらいに達すると、確率に基づく料金設定が有効になるそうです。したがって、仮に「都道府県民共済」が破たんするならば、それは加入数が1万件未満に減少するような事態が訪れる時かもしれません。ただこれはあまり現実的な想像ではない気がします。2017年3月末現在の加入数は2,100万件強で、2005年以降に限ってみても、その数は増加し続けているからです。
さらに、割戻金については、その一部を都道府県民共済への出資金に振り替える仕組みがあることも重要だと思います。出資金は解約時に加入者に返還されるので、割戻金同様、納得感も大きいのではないでしょうか。私は、このように資金の流れに関する透明性を保ちながらも財務体質を強化する工夫がなされている点でも、共済に興味を持っています。
今回は、保険会社や共済の破たんというややネガティヴなテーマを取り上げましたが、皆さんに関心を持っていただきたいのは、加入者同士の「相互扶助」が標榜される組織における「お金の流れ」についてです。これは、皆さん自身のリスク管理にも関わってくることです。保険や共済を考えていく際は、「健全性」や「透明性」といった視点からも検討してみてはいかがでしょうか。
※この記事は、掲載当初協賛を受けて制作したものです。